講演情報
[P029]【薬学部における高齢者模擬体験において介助者の声掛けによるコミュニケーションが体験者の不安に及ぼす影響】
【発表者】高部 厳輝1,2、長久保 大樹2、小宮 希流2、今野 亮2 (1. 明治大学、2. 明治薬科大学)
日本は世界に類を見ない速さで高齢化が進み,超高齢社会を迎えている.内閣府が発刊する令和6年度版『高齢社会白書』によれば,65歳以上の人口は2040年頃にピークを迎えるものの,高齢化率は今後も上昇することが見込まれている.このような急激な人口構造の変化は,医療や福祉,介護現場に深刻な影響を及ぼすことが予測される.これらの社会的背景を踏まえ,令和4年度に改定された薬学教育モデル・コア・カリキュラムでは,薬剤師に求められる資質として,医薬品の知識に加え,患者一人ひとりの生活背景や心理的側面を考慮した視点の重要性が強調されている.特に高齢者支援の場面では,社会的孤立や喪失体験など,心理・社会的側面への理解と配慮が必要不可欠である.このような多面的な視点を備えた薬剤師の育成には,薬学生が高齢者の立場を考える教育が重要であり,その一環としてこれまで高齢者模擬体験が導入されてきた.体験実習では,学生が加齢による身体的制約を実感することで高齢者が日常生活を送る上で直面する困難を理解することが目的とされている.近年では,対話型アクティブ・ラーニングを取り入れた実習も行われ,不測の事態への対応や多様な支援方法について学生が主体的に考える教育が進められている.しかし一方で,体験実習が身体的な理解に留まる傾向にあり,より他者理解や共感力を育むための教育的アプローチの検討が必要だと考えられる.そこで本研究では,A大学において実施されている高齢者模擬体験実習受講者360名のうち同意を得られた学生を対象とし,介助者の声掛けによるコミュニケーションの有無が体験者(高齢者役)に与える心理的影響,とりわけ不安感の軽減に焦点を当てて検討することを目的とした.SD法および自由記述による質的データを用いて分析を行い,得られた知見を基に薬学生の介助能力およびコミュニケーション能力育成に資する教育的示唆を導き,今後の薬学教育の充実に寄与することを目指す.本研究の詳細な結果については当日報告を行う.