講演情報

[EL2]社会の期待に応えられる医療人の養成―医療者教育に求められるパラダイムシフト―

前野 哲博 (筑波大学医学医療系 地域医療教育学)
〇略歴:
1991年筑波大学医学専門学群卒業、河北総合病院内科研修医、1994年筑波大学附属病院総合医コースレジデント。1998年筑波メディカルセンター病院総合診療科を経て、2000年筑波大学附属病院 卒後臨床研修部講師。2003年同助教授、2009年同地域医療教育学教授。現在、筑波大学附属病院副病院長・総合診療科長、日本プライマリ・ケア連合学会 副理事長。家庭医療専門医、総合内科専門医。
〇本文:
 これまでの医学教育の内容は知識偏重であり、筆記試験に合格すれば進級・卒業できる形式が主流であった。技能領域は「背中を見て盗む」、態度領域は「医師を目指す者として当然身につけている」ものとされ、意図的・計画的な教育はあまり行われてこなかった。また、大学により教育カリキュラムはまちまちで、その標準化も十分とは言えない状況であった。
 しかし、時代の要請に応える形で、医学教育の在り方も大きく変わってきた。最近では、学習者が到達すべき目標を明確化し、その目標を達成できるよう責任をもって教育を行う、アウトカム基盤型教育(Outcome-Based Education: OBE)の考え方が急速に浸透しつつある。
 OBEは、人材の養成を工場での製造に例えると「製造物責任」に該当する。すなわち医学部は、養成すべき医師像とその医師が備えている資質・能力を明らかにして、すべての学生がその資質・能力に確実に到達した状態で、社会に送り出すことが求められる。
 OBEでは、何をアウトカムに据えるかによって教育カリキュラムの方向性が決まる。令和4年版医学教育モデル・コア・カリキュラムでは、「医師として求められる基本的な資質・能力」として10領域が提示されており、その中にはプロフェッショナリズムや、総合的に患者・生活者をみる姿勢、情報・科学技術を生かす能力、多職種連携能力など、従来は学修目標としてあまり明文化されることの少なかった項目も数多く取り上げられている。
 これらの新しい資質・能力に確実に到達するために、学修方略として多職種連携教育、参加型臨床実習などの新しい手法が導入され、学修評価としてポートフォリオ評価や、業務基盤型評価(Workplace-based Assessment)等が導入されるなど、全国の医学部でカリキュラム改革が進められている。さらに、医師法改正による共用試験の公的化、JACME(日本医学教育評価機構)による医学教育カリキュラムの外部評価の導入など、全国的な教育の標準化と質保証が進んでいる。
 この医学教育改革の大きな潮流は、薬学教育も同様である。令和4年版モデル・コア・カリキュラムは、「未来の社会や地域を見据え、多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人の養成」を統一キャッチフレーズとして医歯薬同時に改訂され、基本的な資質・能力についても共通化が図られている。今後、薬学教育についても、OBEを取り入れたカリキュラム改革が進んでいくと考えられ、職種を越えた連携の充実が求められている。