講演情報

[EL4]「知る」から「ともに学ぶ」へ―LGBTQ+と教育をつなぐ視点―

荘島 幸子(帝京平成大学 健康メディカル学部心理学科)
〇略歴:
京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻博士後期課程修了。博士(教育学)。専門は臨床心理学、発達心理学。公認心理師・臨床心理士。SOGIが多様な人々の発達過程の理解や支援のあり方を探究。学校現場へのフィールドワークを通して、教員とともに多様な性を扱うための教育的文脈の創出にも取り組む。また、自殺予防教育のプログラム開発にも従事。近年は、性の多様性を理解する対話的ツールの開発を進めており、多様な語りが交差する場づくりに関心を持つ。
〇本文:
 近年、いわゆる性的マイノリティ(LGBTQ+)に対する理解や関心は徐々に広がりつつある。文部科学省は学生のメンタルヘルスや多様な困難への対応を重視し、大学に対して支援体制の整備を求める通知やガイドラインを発出している。一部の大学ではそれを受けて、学生相談体制の強化やハラスメント防止、合理的配慮に関する制度の整備が進められてきているものの、大学生の生活実態や心理的困難の多様性に即した、実効性ある支援体制の構築にはいまなお課題が多い。
 また、LGBTQ+の学生は、周囲の無理解やハラスメント、マイクロアグレッションにさらされやすく、「みえない存在」として孤立しやすい状況に置かれている。国内外の研究からは、性的マイノリティの若者は、青年期の自己形成の途上にありながら、いじめや不登校の経験、自殺関連行動のリスクが高いことが明らかになっている。大学教職員へのヒアリングや大学生との対話からは、大学内でのアウティングのリスク、実習指導における更衣室やユニフォームの性差設計、トイレ使用問題、就職活動における困難、友人関係における“巧妙な”排除など、日常のなかにある構造的課題が多数浮かび上がっている。
 本講演では、こうした状況を鑑み、大学において性的指向・性同一性(SOGI)が非典型な学生支援について、事例を交えて紹介しながら、大学教職員が果たしうる役割について検討する。そして、マイノリティの生きづらさについて「知る」ことの重要性を前提としつつ、それだけで終わらない「学びの共同性」を考える契機としたい。実際に、教員によるちょっとした言葉がけや講義内でのトピックの取り上げが、学生の安心感や自己肯定感につながったという学生の声もあり、こうした日常的な実践こそが支援の入口となり、生きる希望につながることがわかってきている。さらに、これらの取り組みはマイノリティへの配慮にとどまらず、マジョリティの意識変革や教育環境全体の風通しのよさにも貢献する。すなわち、大学をすべての学生にとって「安心して学べる場」とする基盤となるのである。
 本講演のキーワードである「ともに学ぶ」とは、教職員や学生自身が、自らの価値観や言動をふりかえり、共に問いを立てるプロセスに他ならない。すべての学生が孤立することなく、自身のまなざしを社会と交わらせながら育つ場としての大学をどう築いていけるか、共に学ぶ営みの意味を問い直したい。