講演情報

[LS2]知っておけば防げた…災害関連健康被害!―避難者のQOLを脅かす食・住・排泄環境における災害関連健康被害―

渡邉 暁洋 (兵庫医科大学 危機管理医学講座)
〇略歴:
平成10年3月 帝京大学薬学部卒業
平成10年4月 日本医科大学付属病院薬剤部入職
平成18年3月 共立薬科大学修士課程修了
平成19年4月 日本医科大学千葉北総病院薬剤部勤務
平成30年7月 岡山大学学術研究院医歯薬学域 災害医療マネジメント学講座
令和  5年4月 兵庫医科大学 危機管理医学講座
〇本文:
 阪神・淡路大震災から30年が経過した現在も、大規模災害時の避難生活は、依然として食環境の悪化、プライバシーが確保されない住環境、不衛生なトイレ環境など、多くの課題を抱えており、QOLを脅かし、災害関連死の要因の一つとなっています。本講演では、能登半島地震や西日本豪雨災害など、近年発生した災害における避難者の生活環境と健康被害の実態を過去の事例提示し、その解決方法について参加者の皆様と共有したいと思います。
 過去の避難生活における課題は多岐にわたりますが、食事の変化(栄養バランスの偏った救援物資や配給(備蓄)の食事や調理困難な状況による低栄養、衛生管理の不備による食中毒の発生、アレルギー対応や特殊栄養食対応の遅れなど)、住環境の悪化(狭隘な空間での密集による感染症の蔓延、プライバシーの欠如による精神的ストレスの増大、持病を持つ患者の療養環境の悪化、要配慮者などの介護者への負担の増加、感染症リスクの増加、エコノミークラス症候群、廃用症候群など)、衛生環境の悪化(不十分なトイレ設備による感染症リスクの上昇、入浴機会の減少による皮膚疾患の増加、運動不足による深部静脈血栓症(エコノミー症候群)の発症リスクなど)、トイレ環境の劣悪化(排泄困難、便秘、脱水、感染症リスクなど)により、被災者のQOLは著しく低下し、災害関連死を含む深刻な健康被害に繋がる現状があります。
 災害関連健康被害の未然防止のため、薬剤師は災害対応や避難環境に関する知識を深め、平時から医療従事者への災害対応教育のみならず、患者、特に要配慮者への防災教育にも積極的に取り組むことが重要です。また、備蓄に関しても重要で行政や薬剤師会のみならず、患者個々の適切な備蓄、具体的な対処策や体制整備への提言も不可欠です。薬剤師は、避難所における栄養・衛生管理、適切な情報提供、地域連携の重要性、災害に強い地域づくりへの貢献が期待されます。医薬品の供給・管理のみならず、多角的な視点から解決策を提案できる薬剤師は、避難所における医薬品の適切な保管・管理と情報提供、感染症予防のための手洗いや消毒指導、慢性疾患患者に対する継続的な服薬支援と生活指導、栄養状態が悪化した避難者への栄養補助食品の提案や栄養に関するアドバイス、さらに、避難所運営スタッフや他の医療従事者との連携による衛生的で安全な生活環境整備にも貢献できます。