講演情報

[P080]生成AIによる薬剤師国家試験問題の解答分析と教育的示唆

【発表者】栗坂 知里1、小林 秀昭1、秋山 晴代1 (1. 帝京平成大学薬学部 (日本))
【目的】薬学教育においては、薬剤師に求められる知識・技能・態度をバランスよく修得させることが重要である。これらの学修成果は薬剤師国家試験(国家試験)において、「必須問題」「理論問題」「実践問題」として出題され、学生の総合的な能力が評価される。近年、生成AIはWeb上の膨大な情報をもとにテキストを生成する技術として注目されており、教育現場での活用も進んでいる。本研究では、生成AIに病態・薬物治療領域の国家試験問題を解かせることで、AIが対応可能な問題と困難な問題の傾向を分析し、今後の教育設計に資する知見を得ることを目的とした。
【方法】今回は生成AIとしてMicrosoft Copilotを用いた。2025年2月24日に以下のようなプロンプトを用いて第110回国家試験の問題を解答させ、分析した。「薬学部6年生に国家試験の問題解説を予定しています。問題の解説にあたり、取り上げられている疾患や薬物、検査値とその基準値について詳しく説明した後、問題を解説し、選択肢の正誤も含めた解説を行います。これから1つずつ問題を提示するので、上記の意図を汲んで説明資料を作成してください。」
【結果・考察】必須及び理論問題では30問中30問が正答であり、生成AIは知識面で高い正確性を示した。一方、実践問題では治療6/10、実務3/10と正答率が低下した。特に「適切なものはどれか」といった設問に対して、複数の選択肢をすべて「適切」と判断するなど、文脈や設問の背景を十分に理解できていないと考えられる出力が多く見られた。これは、設問の当事者(薬剤師か看護師かなど)や状況設定を正確に把握する能力に限界があることを示唆している。また、近年の国家試験ではリード文が長文化・複雑化する傾向にあり、学生には文脈を読み解く力と、重要な情報を取捨選択する判断力が求められている。AIの誤答傾向を分析することで、教員が態度面の重要性を再認識し、臨床系専門教員や実務家教員が連携して、より実務に即した問題解説や教材開発を行う契機となることが期待される。今後は、本研究で得られた知見を授業に反映し、リード文から問題解決に必要な情報を的確に抽出する力の育成や、実践的判断力を養うための演習問題・教材の開発に活用していく予定である。