講演情報

[P041]薬学部1年生に対する立体空間認識力トレーニングの試み
-立体クイズ導入の実践と成果-

【発表者】諸根 美恵子1、渡部 輝明1、佐藤 厚子1 (1. 東北医科薬科大学薬学部)
【目的】有機化合物の化学反応や生化学的挙動を理解するためには、分子構造を三次元的に捉える「立体空間の認識能力」が不可欠である。東北医科薬科大学薬学部では、初年次学修支援の一環として薬学科の2024年度1年生に対し、有機化学の知識がなくても取り組めるようアレンジした立体化学に関する問いを「立体クイズ」と称し、1年前期「薬学基礎化学I」の授業冒頭に毎回実施した。方法は学習動機づけを高めるための設計理論ARCSモデルを参考にデザインした。本調査では、この試みに対する学生の意見と学修に与える効果について検証した。
【方法】授業では問題をスクリーンに表示し、レスポンスアナライザーとしてe-ラーニングプラットフォームMoodleを利用し、学生にスマートフォンなどを介して解答を入力させた。全員が入力した後に解答分布と正解率を表示し、3Dアニメーションを用いて解説を行った。「立体クイズ」の効果の検証は、2023年度1年後期「有機化学演習I(旧カリ)」および2024年度1年後期「基礎薬学演習I(新カリ)」の共通の学修項目である「有機化合物の立体構造」に関する定期試験結果の解析により行った。さらに2024年度1年生に対して、立体クイズに関する自由意見を聴取した。
【結果と考察】2023年度と2024年度の定期試験の正答率をカイ二乗検定により比較した結果、立体クイズで題材とした「くさび破線表記」から絶対配置を求める問いにおいて、2024年度の正答率が有意に高かった(p<0.001)。その他の立体構造を問う問題では、受験者全体としては年度間に有意差がみられなかったものの、試験得点に基づき学生を4群に分けて比較したところ、第3四分位(いわゆる「中の下」にあたる群)において、2024年度の方が顕著に高い傾向が見られた(p<0.05)。一方、第4四分位(下位25%群)では有意差はみられなかった。また、後期授業終了後に行った立体クイズに関するアンケート調査の結果、「前期に実施した立体クイズが分子の三次元構造の理解に役立ったか」の質問においては肯定的な回答が100%を占め、さらに自由記述回答からは、ARCSモデルの4つの側面(注意、関連性、自信、満足感)に対応する意見が得られた。以上のことから、立体クイズが多くの学生に肯定的に捉えられ、特定の成績区分の学生に特に効果がある可能性が示唆された。