講演情報

[P059]病院実習におけるアカデミック・ディテーリング教育が薬学生の提案力と自信を育む

【発表者】近江 一太1、田中 怜2、大矢 智則3、吉田 智浩1、佐藤 淳也2 (1. 国際医療福祉大学病院 (日本)、2. 湘南医療大学 (日本)、3. 獨協医科大学病院 (日本))
【目的】
 アカデミック・ディテーリング (AD)は、基礎薬学と臨床薬学に基づいた公正な情報提供により、医師の処方適正化を支援する活動である。私たちはこれまで、実務実習においてAD認定薬剤師による講義、薬学生による情報収集と薬剤選択ディシジョンツリー (DT)作成、処方提案実習を通じてADスキルを教授してきた。今回は、実習前後の薬学生のADスキル習得度を評価した。

【方法】
 2023〜2024年度に国際医療福祉大学病院で実務実習を行った薬学生51名を対象とした。DTの課題は鎮痛薬、便秘薬、睡眠薬とし、処方提案の方法を指導した。病棟実習中の提案内容を収集し、指導薬剤師および非指導薬剤師が4項目(各1~4点)で評価を実施した。また、学生のADスキル取得度を、指導薬剤師が、6項目(各0~3点、計18点満点)で評価を実施した。さらに、学生の処方提案意欲に関するアンケート (全4項目、4段階リッカート)を実習前後に実施した。

【結果】
 実習前後のアンケート結果から、情報収集方法に関する理解度が有意に向上した (P < 0.001)。特に、医師とのコミュニケーションに対する自信の向上が顕著であった。また、指導薬剤師による学生ADスキルの評価においては、AD教育後はAD教育前と比較して有意なスコアの上昇 (P < 0.001、平均3.95点の上昇)が認められた。処方提案の内容に対するスコア評価は、指導薬剤師と非指導薬剤師のダブルチェック体制で行った結果、4点満点中3.2点となり、提案の妥当性が高いことが確認された。

【考察】
 実務実習におけるAD教育により、薬学生の処方提案に関する理解度およびスキル習得度の向上が明確に確認された。特に、薬剤選択時の判断ポイントや、腎機能・肝機能といった患者状態の把握に関するスキルの向上が見られた。これらの結果は、教育効果の評価モデルであるKirkpatrickの4段階モデルのうち、レベル1 (受講者の反応)およびレベル2 (学習成果)を満たしていると考えられる。

【結論】
 薬学生に対するAD教育は、実務実習を通じて有効に実施可能であり、処方提案の質的・量的向上や対人業務への関心、知識の深化を促すことが示唆された。これにより、将来的な薬剤師としての臨床能力の向上に寄与するものと考えられる。