講演情報

[P111]エスケープルームを活用した協働学修がもたらす学修効果の検証

【発表者】丸山 剛1、中田 心1、松本 麗矢1、亀井 大輔1、福村 基徳1、小林 文1、加藤 里奈1、山本 仁美1、小林 靖奈1 (1. 昭和医科大学薬学部薬学教育学講座 (日本))
【目的】
チーム医療における問題解決能力を育成するためには、他者と多様な意見を共有し、協働的に議論を重ねながら学ぶ姿勢が不可欠である。こうした協働的問題解決能力の育成においては、Team-Based Learning (TBL)や Problem-Based Learning (PBL) などの手法が広く導入されている一方で、活用される教授法の種類は限られているという課題がある。本研究では、このような課題に対する新たなアプローチとして、脱出ゲーム(Escape Room, 以下ER)を作成・実施した。ER は、制限時間内にチームで謎解きを行いながらゴールを目指す形式を特徴とし、教育現場では協働的な学修や学修意欲等の向上を促す手法として注目されている。本研究は、薬学教育における新たなアクティブラーニング手法としての ER の導入による学修効果を多角的に検証することを目的とする。
【方法】
昭和医科大学薬学部3年生(192名)を対象とし、従来の一方向的な知識伝達型講義を実施する群(対照群)とERを実施する群(ER群)の2群に無作為に分けて授業を実施した。実施に際し、ERの学修効果とその影響を測るため、プレテストとポストテスト、アンケート調査を実施した。アンケート調査には自由記述を含め、KH coder 3 を用いてテキストマイニングを行い、共起ネットワークを作成した。
【結果】
ポストテストの結果から、ER群の平均点は、対照群の平均点より有意に高かった。また、アンケートの結果から、学修内容の難しさを感じる一方、学修への楽しさ・集中力・意欲が向上したという回答が得られ、自由記述からはチームを意識した回答が多く得られた。
【考察】
本研究では、ERによる学修効果を多面的に検証した。ポストテストの結果から、ER群は対照群と比較して有意に高い得点が得られたことから、一定の学修効果が示唆された。また、学生からの「難しい」「楽しい」「集中できた」といった回答から、没入状態(フロー)の発生と内発的動機づけの向上が示唆された。さらに、「チーム」「解く」などの語の共起や協働作業への肯定的評価から、グループフローの可能性も考えられた。これらの結果から、エスケープルームは、知識の定着だけでなく、協働的問題解決力の育成にも寄与し、チーム医療の基礎となる素養を高める教育手法としての有用性が期待される。