講演情報

[SS4-2]ヘルスビッグデータ活用が進展する時代における
薬学部生のキャリアパスと人材育成の可能性

田中 佐智子(神戸薬科大学)
〇略歴:
博士(保健学)・薬剤師。東京大学薬学部卒業後、同大学大学院医学系研究科博士課程修了。京都大学臨床研究総合センター、同大学薬剤疫学分野、滋賀医科大学医療統計部門、滋賀大学データサイエンス学部(クロスアポイントメント)、京都大学デジタルヘルス学講座を経て、2024年より現職。専門は疫学、薬剤疫学、医療統計。一般集団を対象とした疫学研究、医療系ビッグデータを活用した臨床疫学・薬剤疫学研究に従事。
〇本文:
 近年、医療系データベースの整備・拡充が急速に進み、医薬品評価やヘルスケア分野の研究に広く活用されている。本発表では、医療系データベースを活用した研究事例を紹介する。続いて、薬学部から医療系データベースを扱う様々な職種に進むキャリアパスについて議論し、現場でどのような人材が求められているか、薬学部生の専門性や資質を踏まえた活躍の可能性について考察する。
 研究事例を紹介する。冠動脈疾患患者の二次予防において、スタチンによる脂質低下療法が心血管イベントの減少に効果を示すエビデンスは確立されている。しかし、治療後も残余リスクが存在することが明らかとなっており、その低減を目指す薬物治療が注目されているが(Miyauchiら、Circulation;2024)、近年の冠動脈疾患患者のLDL管理目標値厳格化を踏まえた実臨床におけるエビデンスは十分とは言えない。そこで、健保・国保・後期高齢者のレセプト情報と特定健診情報を網羅するDeSCデータベースを用いた薬剤疫学研究が実施された。近年のレセプト情報を含む研究により、実臨床に近い状況での評価・報告がされたと考えられる。
 また、DeSCデータベースは、各種レセプトに加えライフログやアンケートデータも集積している。Inayamaらは、DeSCデータベースを用いた後ろ向きコホート研究で、がん診断・治療が身体活動レベルに与える影響を評価し、診断後の身体活動減少や診断前後における身体活動量変化パターンを報告した(JMIR Cancer;2025)。本研究は、レセプト情報とパーソナルヘルスレコード(PHR)を組み合わせた分析により包括的な評価を行った事例といえる。
 上記のように、レセプト、健診、電子カルテ、疾病登録、PHRなど、多様な医療・健康情報データベースの整備と活用が急速に進んでいる。これらのデータベースが利活用される現場では、多くの薬学部出身者が活躍している。一方、学部教育において、現場の即戦力となる人材育成に向けた取り組みはまだ限られており、今後さらに拡充されることが期待されている。そこで、アカデミア、製薬企業、CRO、データベース企業、行政機関に所属する薬学部出身者へのヒアリングを通じて得た意見を踏まえ、薬学部教育における医療系データベース分野の人材育成の現状や今後の可能性について検討を行う。