講演情報

[SY10-1]多様な学生支援に認知行動療法的アプローチを活用する~教職員・薬学生・患者支援の一助として~

前田 初代(日本大学薬学部薬学研究所)
〇略歴:
日本薬剤師会中央薬事情報センター,国立医薬品食品衛生研究所
日本大学薬学部薬学研究所研究員

【資  格】 薬剤師,公認心理師,専門健康心理士
【学会活動】 日本認知療法・認知行動療法学会理事,薬剤師部会部会長
【著  書】
・共訳 ケースフォーミュレーション 6つの心理学派による事例の見立てと介入 ルーシー・ジョンストほか編,大野 裕ほか監訳,金剛出版(2024)
・分担執筆 実践!健康心理学 シナリオで学ぶ健康増進と疾病予防,北大路書房(2022)
〇本文:
 認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)は、人間の気分や行動は、“認知(ものの考え方・受け取り方)に影響を受ける”という理解に基づきうつ病を治療することを目的に開発された精神療法(心理療法)である。
 しかし現在では、認知行動療法の考え方を対人支援に用いることの有用性が認められ、認知行動療法の持つさまざまなスキルの一部を用いた“認知行動療法の考え方を用いた支援”(以下;認知行動療法的アプローチ)は、すべての対人援助職が身に着けるべきメンタルヘルスの“基盤スキル”として医療、教育、企業、行政などさまざまな領域で活用されている。教育現場ではすでに生徒指導要領の枠組みにより、また個人、集団などさまざまな形式のプログラムにより対人支援に寄与している。
 大学生は、発達の最終段階に位置し、環境の変化に伴うストレスやアイデンティティの確立という発達課題を抱え、心理社会的不適応の問題が生じやすい時期と考えられ、また近年は学生の多様化が進み、社会的経験の希薄さなども指摘され、学修支援とともにメンタルヘルス支援を必要とする学生が増加している。さらに日本の若者(13~29歳)は自分への満足感が突出して低い(内閣府調査;2013)ことが示されている。この自己肯定感の低さは落ち込み易い心理的素地となり、「うまくいかないに違いない」「何をやっても無駄だ」等、思考の視野狭窄とも呼ばれる“認知の偏り”が起こりがちである。認知行動療法的アプローチは教員がスキルを用いて学生と一緒にこのような極端に悲観的な考えに注目し、見直すことで問題解決の糸口を見つけることができる。その際教員は学生に信頼されていること、学生から情報を上手に引き出すことが必須である。学生は信頼している教員と会話するだけでも緊張が和らぎ、自分の考えが整理できたり問題に向き合う力が出てきて、自分で問題を解決できることもある。
 薬学生は卒後、病を得た不安や落ち込みを抱える患者、疾病の予防や健康増進を目的した相談者を見守り・サポートする側となるため、学生時代に認知行動療法に触れることは有意義なことと考える。
 当日は認知行動療法の基礎について事例を交えながら紹介し、悩みを抱えた薬学生に認知行動療法的アプローチを実施するヒントをお伝えしたい。