講演情報

[SY3-4]正しい情報活用の観点から考える倫理観の醸成

石川 さと子(慶應義塾大学薬学部)
〇略歴:
博士(薬学)慶應義塾大学薬学部 薬学教育研究センター教授。2018年、日本私立薬科大学協会 教育賞受賞。共立薬科大学大学院修士課程修了後に教員としてのキャリアがスタートし、慶應義塾大学薬学部専任講師、准教授を経て、2023年4月より現職。専門領域は生物有機化学、情報科学、関係法規など多岐にわたる。現在は、高学年次の学生に化学と様々な領域のつながりを伝えながら、情報科学と多職種連携を教育研究活動のキーワードとして考えを巡らせる毎日を過ごしている。
〇本文:
 情報技術の発展に伴い、我々は社会をとりまく多様かつ膨大な情報の中から、必要かつ信憑性の高い情報を見極めて活用することが求められている。薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に情報・科学技術を活用する能力の醸成が組み込まれ、薬学生は、保健医療に携わる立場として「調べて、まとめて、発信する」情報が他者にどのように影響するかを常に意識して行動する倫理観を醸成することが求められている。
 本学薬学部では、コア・カリキュラム改訂前から薬学部1年次必修科目で情報の信憑性判断を取り扱っている。健康食品に関して一般的な検索エンジンと学術検索エンジンとの検索結果を比較したり、情報の発信者による内容の違いを検証したりする演習などを行う授業のふり返りから、検索方法次第で入手できる情報が異なり、適切に選択する重要性を1年生が体感したことを確認できた。一方で、実務実習後の薬学生が個人情報を含む医療情報の取扱いについて適切な認識を持ちながら、模擬症例の取扱いへの配慮が十分でない傾向を示唆する調査結果も得た。周囲からは模擬症例と実症例を区別できないことから、医療従事者全体への信頼を損なわないような教育が必要と考えた。
 2024年度からは情報活用能力の基盤修得を目指し、一年間の授業で目的に合った正しい情報を活用するという情報倫理観の醸成をさらに強化することにした。著作権の意識と正確な「引用」の理解と実践を促すほか、「DX」「オンライン」等を想起させるテーマのグループワークにより、医療のデジタル化推進への関心を持たせ、患者や生活者の視点に立って情報技術の取り扱いや倫理的配慮を検討する機会になるように工夫している。また、学生自身が責任ある情報発信者となることを認識し、適切なデータの取扱いと正しく情報を伝えるためのグラフ作成の演習などを行い、他者を意識した情報への向き合い方を修得できるように促している。
 これらの教育実践により、低学年から医療や健康に関連する情報に触れ、実務実習での実践を振り返ることで、薬剤師や研究者など薬学出身者として求められる高い倫理観を修得するプロセスの構築を試みている。「情報倫理」の捉え方が多様である現状において、本シンポジウムでの意見交換等もふまえ、在学中に目指すべき情報倫理観のレベルを学生に明示するなど、倫理観向上の評価手法を開発することが重要な課題と考えている。