講演情報

[SY4-2]臨床研究スタートに必要な意識と環境―社会人大学院生になった経緯を踏まえて―

堤 竹蔵(北海道大学病院薬剤部)
〇略歴:
2013.3 慶應義塾大学薬学部薬学科 卒業
2013.4 現在 北海道大学病院薬剤部勤務
2020.4 現在 北海道大学生命科学院博士課程臨床薬学専攻(社会人博士課程)
〇本文:
 私が6年制薬学部において研究に取り組んだ期間は実務実習等の期間を除くと概ね1年程度であったと記憶している。その期間において大学院まで進学して研究を続けようと思える経験ができる学生は多くはないと考える。自身も大学での研究は失敗の連続であり、付き合っていただいた指導教員らの助力で最終的には卒業論文を完成させられたものの、それ以上続けるというモチベーションにはつながらなかった。
 そのような私がなぜ臨床研究をスタートさせ、さらには社会人大学院へ進学しようと考えたのか。進学を決定した最大の理由は職場の先輩である現指導教官の後押しで始めた研究が論文という成果となったという成功体験であった。研究開始前は研究自体に高い壁を感じていたが、指導教官の助力により病棟業務で感じていたクリニカルクエスチョン (CQ) を臨床研究として論文掲載まで発展させることができた。また、同指導教官の高いコーチングスキルにより、自身で考え行動する力が培われたことで研究の持続可能性が向上した。したがって、大学院進学を決めた大きな要因は、研究に対する自信の獲得と研究を支援する教官の存在であったと考える。
 これらの経験から、臨床で研究ができる薬剤師を育てるために必要なことは、研究へのハードルを下げる教育と持続可能な研究環境を作ることであると推察する。私の感じた臨床研究のハードルの一つとして、不定形なCQを定型な研究デザインへ変換する方法が不明瞭であったことが挙げられる。さらに研究デザインには統計解析がセットであることが多く、非専門家である私に対して数学的な部分は非常に難解である。しかし、実際には統計解析は解析ソフトにデータを入力することで自動計算される。したがって、私が大学時代に習熟できなかったという反省を踏まえると、学生のうちに統計手法の選択や解析結果の解釈方法をより実践的なアプローチで習得していれば、ハードルは少し低くなっていた可能性がある。また、自発的に研究を実施できるようになるためには、自ら調査し考えたことを文章化するスキルも必要である。そのためには自身の経験を鑑みると、一方向的なティーチングのみではなくコーチングによる支援が有効であると考えられる。
 以上から、研究実践できる薬剤師の養成には、研究初心者が問題解決に対する道筋を自身で見つけることができるように寄り添い、研究の方向性を示していくことができる指導人材の確保が必要である。