講演情報

[SY7-1]他者とのかかわりに関する社会的動機づけ理論の紹介

海沼 亮(松本大学 教育学部)
〇略歴:
2017年3月
 筑波大学大学院教育研究科スクールリーダーシップ開発専攻 修了 修士(教育学)
2024年3月
 筑波大学大学院人間総合科学研究科心理学専攻 修了 博士(心理学)
2021年4月~現在に至る
 松本大学教育学部学校教育学科 専任講師
〇本文:
 心理学における「動機づけ(motivation)」に関する研究では,主に,学習や競技スポーツといった目標達成に関連した領域が対象となってきた。これらの領域に加えて,近年では,友人関係をはじめとした他者との関係の開始や形成・維持,さらには発展といった社会領域においても動機づけが重要な役割を果たしていることが報告されている。具体的には,他者とかかわる際の自信や他者とかかわる理由が個人の適応や精神的健康等に影響することが示されている。さらに,他者と協力しながら,数名のグループで特定の課題に取り組むような「協同学習」においても他者とのかかわりに,どのような志向を有しているのかが,学習成果とも関連することが近年の研究では示されている。これらを勘案すると,授業内外で,様々な他者とかかわりながら生活する大学生について,他者とのかかわりに関する動機づけの観点から,理解を深めることには,一定の意義があると考えられる。
 このような他者とのかかわりに関連した動機づけに関する一連の研究は,「社会的動機づけ(social motivation)」に関する研究群として心理学では,総称される。そこで,本発表の前半では,他者とのかかわりに関する社会的動機づけに関連する主要な動機づけ理論について紹介する。具体的には,まず,他者とのかかわる際の「自信」の程度に関連する「自己効力感」について説明する。次に,他者とかかわる「理由」に関連した概念として「自律的動機づけ」とその理論的背景となる「自己決定理論」を紹介する。なお,自律的動機づけについては,近年,協同学習をはじめとしたグループ学習に取り組む理由を捉える考え方も検討されている。そこで,他者とかかわりながら学習する「協同学習」への動機づけとその動機づけを支援する観点についても概説する。
 そして,本発表の後半では,他者とのかかわりの中でも,協同学習に着目した調査研究の内容について報告する。具体的には,協同学習において,自身の協同学習に取り組むための動機づけをコントロールするような「協同学習における動機づけ調整」の使用と学習への取り組みとの関係について解説するとともに,今回の研究の結果から示唆された教育的意義について考察する。