講演情報

[SY9-3]薬局EBMの実践―Step 1とStep 4による対人業務の推進―

今井 真穂(薬樹株式会社 薬樹薬局 ライフ溝口店)
〇略歴:
2013年武蔵野大学薬学部を卒業後、薬樹(株)に入社。中核病院門前やクリニック門前、在宅グループでの勤務を経験。社内スペシャリストとして、対人業務の支援や研修会運営を通じて、薬局業務の質向上に取り組んでいる。2020年~2022年、EBMフェローシッププログラムを受講。
〇本文:
 薬局業務は「対物」から「対人」へと大きく舵を切った。「対人業務」とは一体何であろうか。薬剤師には、個々の患者の生活背景や意向を理解し、多岐にわたる要素を考慮した上で、最適な薬物療法を提供することが求められる。患者の個別性を深く掘り下げ、生活に根ざした薬物療法を提案するためには、患者情報と意向を正確に聞き取り、アウトカムを整理・言語化することが不可欠である。同時に、多様なアプローチの中から、実現可能かつ患者にとって最善な対応案を見つけ出す意思決定も現場では常に求められる。これこそが目の前の患者にとって最善の臨床判断を行う「対人業務」の本質であり、その実践にはEBMの考え方が必要になってくる。
 しかし、大学教育でEBMを体系的に学ぶ機会が限られており、卒業後の薬剤師が実務の中でEBM実践に取り組むのは難しい現状がある。また、多忙な薬局業務の中でEBMの実践プロセス全てを実践することは容易ではなく、特にStep 2, 3の「情報検索、批判的吟味」は律速となりがちである。そこで、薬局でのEBM実践を現実的なものにするために、実践プロセスの中でもStep 1(臨床疑問の定式化), 4(患者への適用)を重視する必要があると考え、社内研修で学習の場「実務につながるカンファレンス」を提供している。研修会は、普段の業務で遭遇するような症例を提示し、Step 1患者課題の深掘りと整理する。その後、臨床判断に必要となる医薬品情報を提供した上(Step2, 3に該当)で、Step 4臨床判断を行う。重視するStep 1とStep 4においては、参加者間で共有できる演習形式とし、多視点での検討を促した。また、制約された時間を活用するためにStep 2, 3を簡略化している。以上のStepを通して、目の前の患者への最適なアプローチを多方面から検討し、実務における意思決定をスムーズに行えるようになることを目指している。
 本発表では、薬局EBMの実践例と「実務につながるカンファレンス」の紹介を通じて、薬局でのEBMの可能性と課題を提示する。さらに大学と病院・薬局といった現場の連携を深め、EBM教育のさらなる発展と普及に貢献する議論の場となることを期待している。