講演情報

[SY9-4]病院薬剤師におけるEBM教育の課題と展望―卒前・卒後教育を通じた実践力向上への試み―

津田 泰正(聖路加国際病院 薬剤部)
〇略歴:
2007年  3月 明治薬科大学 薬学部 薬剤学科 卒業
2009年  3月 明治薬科大学大学院 薬学研究科 臨床薬学専攻 博士(前期)課程 修了
2009年  4月 聖路加国際病院薬剤部 入職
2017年  4月 聖路加国際病院薬剤部 アシスタントマネジャー
2020年  4月 聖路加国際病院薬剤部 マネジャー
2024年11月 博士(薬学) (論博第200号)学位授与(明治薬科大学)
〇本文:
 近年、医療の高度化と多様化に伴い、患者への最適な薬物治療管理を提供するための根拠に基づいた医療(EBM)の重要性が益々高まっている。自身は学生時代に力不足を感じて大学院に進学し、就職後は日々の業務においてEBMの実践を試みてきた。その過程で試行錯誤を繰り返してきた経験を踏まえ、今回は指導者の立場から、病院におけるEBMの教育と実践について述べる。
 EBMに関する教育は大学でも実施され広く認識されており、5年次の実務実習受け入れの際もその点は感じられる。しかし、11週間の病院実務実習では、薬物治療管理への関わり方を掘り下げて教育することには限界がある。卒後に関しては、多忙な日々の業務や働き方改革の影響、自己研鑽のあり方など、個々の薬剤師が主体的にEBMを学び、実践に繋げるためのモチベーション維持も容易ではない。また、臨床研究を自ら計画・実施した経験を持つ薬剤師は多くなく、日々の業務における臨床疑問の抽出に慣れていないという課題も存在する。
 当院では、薬物治療管理に関する卒前教育を充実化させるため、11週間の実務実習終了後に追加の病院実習を受け入れするなど、薬物治療の実践的能力を育成するための機会を提供している。学生からの素朴な臨床疑問への対応など、指導薬剤師にとっても非常に有益な機会となっている。また、職員に対する卒後教育として、病棟業務におけるグループ制を導入している。経験豊富な薬剤師が若手薬剤師とペアになることで若手薬剤師が抱える臨床疑問を早期に発見し、日々のディスカッションを通じてEBMの考え方を共有・深化させることを目指している。これにより、個々の知識や経験の差を補完し、EBMの実践に必要な思考プロセスを育成することを目指している。さらに、研究実施のサポート体制を構築することにより、臨床疑問を科学的に検証するプロセスを体験し、EBMの実践に必要な問題解決能力を養うことを目指している。加えて、個々の薬剤師が卒後に必ずしも系統立ててEBMについて学べる環境にあるとは限らないため、卒後薬剤師向けの勉強会を積極的に開催している。EBMに関する知識やスキルアップの機会を提供することで、薬剤師業界全体の薬剤師のレベル向上に貢献したいと考えている。
 本講演では、これらの取り組みを通して得られた経験を踏まえ、EBMに対する指導者とスタッフの認識のギャップをどのように埋め、EBMを浸透させていくことができるのか皆様と議論したい。