日本デザイン学会第72回春季研究発表大会

オーガナイズドセッション

 

オーガナイズドセッション(予定)

詳細は随時更新してまいります。

 
6月28日(土)

  • くんずほぐれつ、デザインする(開催校企画)

    司会
     横溝 賢(札幌市立大学 博士(工学)デザイナー)
     あなたのものでも、わたしのものでもない第3の活動を形づくるデザインを実践中

    パネリスト
     東方 悠平(八戸工業大学 博士(映像)アーティスト) 
     「遊び」が拓く芸術実践、北東北と東南アジアで活動中

     宮本 一行(札幌大谷大学 博士(美術)芸術家)  
     環境との身体的な対話を試みるサウンドスケープ研究

     曽我 修治(日立製作所 博士(工学)デザイン研究者)
     物理学→システム工学→今はResearch through Design真っ最中

 久しぶりにまちの古本屋を訪れた。4畳ほどの空間にびっしりと並ぶ書籍の背中を眺めていると、デヴィッド・ホックニーの図録に目が止まった。書棚から引っ張り出してパラパラとめくる。線を使った模様のスタディにしばし魅了され、今度やってみようかな・・と独り呟いて棚に戻して店を後にした。翌朝、PCを開くと、まるでこちらの思考を読んだかのようにホックニーのニュースが現れた。「店内ビーコンとスマホがリンクしたのだろうか…」この既視感は、私たちがすでにシンギュラリティを生きていることを示している。
 デザインする者として不穏なのは、偶然の出会いを通じて生まれる創造的な探求が、AIに先回りされ、意図しない形で秩序化されることだ。微生物が落葉を分解し、群衆が渋谷交差点をぶつかることなく渡るように、自然界も社会も「くんずほぐれつ」を繰り返しながら調和を形成している。しかし、AIはその無秩序を許容せず、偶然性の余白を閉ざしてしまう。
 本セッションでは、未知に向き合いながら、多面的な本質を発見し、複雑なものを複雑なままに連関させる「くんずほぐれつ」の動的プロセスに注目する。デザインの過程が「分析と統合」「混沌と秩序」の間を往復するリズムであることを再考し、AI社会が生み出す秩序化の流れに抗しながら、不確実性を抱えた複雑な世界と向き合うデザインの新たな知の可能性を議論する。

  • デザイン学における農業の研究と実践

    パネリスト
     禹 在勇(湘南工科大学)
     蓮見 孝(筑波大学・札幌市立大学 名誉教授)
     須永 剛司(公立はこだて未来大学・東京藝術大学 名誉教授)
     石川 義宗(長野大学)

 農業は穀物や野菜を作る一次産業であるが、同時に、地域社会を生み出し、各地の文化となり、農耕に関する祭事や道具は今も残っている。一方、農業はさまざまな議題と直面しており、就農者の減少や食糧自給率の低下が懸念されているが、それを克服するための取り組みが盛んにもなっており、地域産業としての政策支援や人材派遣に加え、バイオテクノロジーやスマート農業といった技術革新も進んでいる。さらに、農業は国際的な課題にもなっており、食料問題、気候変動、サスティナビリティといったトピックとも関係している。オーガナイズド・セッションでは、日本デザイン学会会員によって農業がどのように研究され、実践されているのかを確認しつつ、デザイン学としての農業の位置付けと今後の方向性を議論したい。当学会で公表された農業に関する研究を「農業デザイン」の探究として注目し、その趨勢を共有するとともに、「農業デザイン研究部会」としてどのような探究が望まれるか考える。オーディエンスと闊達な意見交換を行い、部会の枠を超えた関心の醸成を試みる。

  • インクルーシブな社会をつくるデザイン ―museumと共にー

    オーガナイザー
     生田目 美紀

    パネリスト
     安曽 潤子(インクルーシブミュージアム)
     塩瀬 隆之(京都大学総合博物館)
     角康 之氏(公立はこだて未来大学) 

 オーガナイズドセッションの「インクルーシブ」というキーワードは、デザインに関わる我々にとっては、バリアフリーデザイン、ユニバーサルデザインを実現するためのデザイン手法として馴染みのある言葉です。このオーガナイズドセッションでは、インクルーシブな社会をつくるという視点でそれを捉えなおそうと思います。
 取り扱う舞台はmuseumです。総合博物館、歴史博物館、美術博物館、科学博物館、動物園、植物園、水族館、野外博物館などをmuseumとして扱います。museumのデザインは建築、展示、館内サインに限りません。博物館の定義では、「倫理的かつ専門性をもって(略)様々な体験を提供する」とあり、情報デザインや経験デザイン等にも深く関係しています。
 2022年に新しくなった博物館定義(ICOM・国際博物館会議)では、accessible(誰もが利用できる)や inclusive(包摂的)、というキーワードが盛り込まれました。同年70年ぶりに改正された博物館法(文化庁)の配慮事項15では、「博物館の事業を通じてインクルーシブな社会づくりが推進される」ようにとあります。
博物館関係の学会では、いまこの話題で盛り上がっています。本セッションでは、誰もが利用でき包摂的なmuseumを実現するための実践を行ってこられた3人の専門家をお招きします。
museumからインクルーシブな社会をつくるソーシャルデザインについて皆様と議論できればと考えます。


6月29日(日)

  • それぞれの環世界に息づく社会実装の可能性(仮)

    オーガナイザー
     安武 伸朗

    パネリスト
     浦野 奈美(株式会社ロフトワーク/SPCS(スピーシーズ)
     宮田 義郎(中京大学 心理学ph.D)
     木村 篤信(株式会社地域創生Coデザイン研究所)
     瀧 知惠美(株式会社MIMIGURI)
     海野 真莉奈(エスディーテック株式会社)
     木下 菜穂(株式会社アイスリーデザイン)荒石磨季(シャープ株式会社)

 特集号「環世界の真ん中でデザインする」では、微生物から社会システム、風土まで、多種多様な環世界のまんなかでデザインする実践者たちによるナラティブを通し、合理性と複雑性を併せ持つデザイン知を多角的に収集し、不確実な世界を生きながらえるための、デザイン学のもうひとつの可能性を呈示した。

 一方、生きたバクテリアを用いて染色技法の開発を目指す実践など、自然と人間の共創、非人間中心のデザインアプローチを実践するSPCSは、これまで経済合理性の面で排除されてきたアンコントローラブルなものを受け入れ、デザイン、エンジニアリング、アート、自然科学、文化などの領域を横断して、コントロールしない状態でのデザインのあり方を探究する場を作り続け、社会実装の可能性を探究している。本セッションは多様な実践者たちによる対話を通して、それぞれの環世界の重なりと広がりから慣習的な認識やビジネスプロセスを更新する可能性を共有する。

  • デザインすることを問い直し、変化しつづける学術誌をつくる
    (作品審査委員会企画)

    司会
     池田 美奈子(モデレータ/Edit-and-Design/作品審査委員会委員)
     「編集」と「デザイン」の考え方と技術を駆使したコミュニケーションを探求

    パネリスト
     宮田 雅子(パネリスト/愛知淑徳大学)
     人の手を介して雑誌を手渡すことで知を共有する場づくり

     工藤 真生(パネリスト/九州大学)
     障害(Disability)とピクトグラム・サインについて研究→実装

     藤元 貴志(パネリスト/株式会社日立製作所 研究開発グループ  デザイナー)
     家電のプロダクトデザインから、鉄道、そしてサーキュラーデザインまで領域を問わず社会的なデザインに向き合うデザイナー

     横溝賢(パネリスト/札幌市立大学/作品審査委員会委員長)
     「わかる」の底に現れる「わからない」を論述するデザイン実践研究のかたちを探究

 1995年に第1号が発刊された『デザイン学研究・作品集』はデザインに取り組む実務者・実践者の思考のプロセスを研究の対象とする(森典彦,1995)、デザイン学研究特有のジャーナルである。
デザインのもつ他領域への拡張性、浸透性は、分野間の狭間で調和を志向するデザイナの特有の能力によってもたらされている。作品集はそういった様々な領域において実践するデザイナの思考のプロセス、すなわち「デザインできたとする作品」が生まれるデザイン行為の認知のプロセスを明らかにする研究論文集であると位置付けられる。

 だからこそ、作品集には多様なデザイン開発事例が集まり、変化しつづけるデザインの現在地を一望できる魅力がある。しかしそれら個々の作品がどのような思考のはたらきによって形づくられたのかについての記述方法、あるいは視覚化編集方法が浸透していないことが原因で、完成作品の特徴紹介に留まった、図録の範疇を抜け出せない投稿も散見される。また、作品集における査読には、著者本人が気づいていない思考のプロセスを明らかにする役割があるが、その協働的な査読作法も未だ十分に形成されていない。それらを可能にするためにはどんな仕組みを整えれば良いのか。

 本セッションでは、2024年度の審査活動を振り返りながら、この問いに向き合い、デザイン学独自のジャーナルデザインの可能性について議論する。

  • EDplace アーカイブから考える環境デザインのこれまでとこれから

    司会
     森山 貴之(横浜美術大学)

    パネリスト(予定)
     上綱 久美子(design office kk)
     川合 康央(文教大学)
     小泉 雅子(多摩美術大学)
     長谷 高史(長谷高史デザイン事務所・愛知県立芸術大学名誉教授)
     伏見 清香(放送大学)
     水津 功(愛知県立芸術大学)

 環境デザイン部会の機関誌として1985年から発行しているEDplaceは100号を迎えた。
 EDplaceの100号分、40年間の蓄積には、人間の「環境」の変化とそれに対応すべく実践してきた「知」が凝縮されているといえる。
 とりわけ阪神淡路大震災以降のたび重なる災害は、わたしたちの日常環境の不安定さをあらためて認識させることとなった。 また人口減少が深刻化するいっぽうで仮想現実や人工知能が著しく発展するなか、人間存在そのものあるいは「知的営み」のありようが大きく転換しようとしている。こうした時代・社会の変化に向き合いながら、環境デザイン部会は私たちの「生」をデザインする知の集まりとして、多様な対象について調査研究を行ってきた。
 このオーガナイズドセッションでは、これまでのEDplace100号分の分析から見て取れる環境そして環境デザインの変遷を俯瞰しながら、「これから」の環境デザインについて考えてみたい。なお本セッションは、2025年11月に予定している環境デザイン部会主催企画展のためのオープンディスカッションとして位置付けるものである。