講演情報
[S-O-2][招待講演]2020-2024年の能登半島地震活動に伴う地殻変動
*西村 卓也1、平松 良浩2、太田 雄策3 (1. 京都大学防災研究所、2. 金沢大学、3. 東北大学)
キーワード:
地殻変動、GNSS、地震、能登半島
2024年1月1日16時10分に発生した能登半島地震(Mj7.6)は、日本列島の内陸部や日本海側で発生する震源の浅い地震としては最大級の地震だった。能登半島北東部では、2020年12月から活発な群発地震活動が起こっており、 2023年5月5日のMj6.5などの大きな地震が相次いで発生していた中で、一連の地震活動の中で最大の地震が2024年元日に発生したと言える。群発地震活動の活発化を受けて、2021年9月に京大防災研と金沢大学は、群発地震の震源域近傍に臨時のGNSS観測点を設置した。さらに、震源域周辺にはソフトバンク株式会社による独自基準点(GNSS観測点)が設置されており、これらのデータと国土地理院電子基準点のデータを統合処理することによって、能登半島における地殻変動の推移が明らかになることが期待される。そこで、本講演では、これらのGNSS統合解析により明らかになった群発地震や大地震(Mj6.5, Mj7.6)に伴う地殻変動と、一連の地震活動のメカニズムに関するシナリオ仮説について報告する。
能登半島北東部のGNSS観測点において、隆起などのそれまでと傾向の異なる「非定常」地殻変動は、2020年12月頃から活発化した地震活動とほぼ同時期から始まった。2020年12月から2023年4月までに、群発地震の震源域から放射状にひろがる最大約3 cmの水平変動と震源域周辺で最大約6cmの隆起を示す非定常地殻変動が観測された。2023年5月5日のMj6.5の地震では、能登半島北岸の観測点を中心に、最大約8cm程度の地殻変動が観測され、地震後には地殻変動速度が鈍化した。2024年1月1日のMj7.6の地震では、能登半島北部を中心に水平方向で西向きに最大2m程度、上下方向は能登半島の北岸で最大2m程度隆起したことが観測された。Mj7.6の地震後は、余効変動とみられる地殻変動が継続し、その変動量は地震後4ヶ月間で水平方向に最大約3cm、上下方向では最大約6cmの沈降であった。余効変動のパターンは、地震時地殻変動と似ているが、能登半島の上下変動が地震時と反対に沈降している点と、水平変動の大きさの距離減衰が本震時よりも小さいという点で異なっている。筆者らが推測する一連の地震活動のメカニズムに関するシナリオ仮説(Nishimura et al., 2023)は、次のとおりである。能登半島北東部には、下部地殻にもともとマントル起源の深部流体に富む領域があった。ここから流体が2020年12月に地震活動を伴いながら,深さ16km程度まで上昇した。上昇してきた流体の体積は3,000万m3にのぼると考えられる。この流体が南東傾斜の断層帯を通って移動・拡散し、深さ15km以深では主にスロースリップを引き起こし、深さ15km以浅では激しい群発地震を誘発した。さらに、この近傍には、過去千年以上にわたり応力を蓄積してきた海底活断層があり、流体上昇がその破壊の最後の引き金となって、 Mj7.6の大地震が発生したと考えられる。また、地震後の余効変動の主原因は、マントルにおける粘弾性緩和であり、Burgers粘弾性体を仮定して、粘弾性パラメータを推定すると、弾性層厚さが30km、マントルの過渡的な粘性率(Voigt要素粘性率)が6×1017Pa s程度の値が得られた。粘性緩和による能登半島の沈降は、地震時の隆起に比べれば小さいが、30年後には地震時隆起の1割程度の沈降が生じると見込まれる。
謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは、「ソフトバンク独自基準点 データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。また、国土地理院から公開された後処理解析用データを使用しました。
引用文献:Nishimura T, Hiramatsu Y, Ohta Y (2023) Episodic transient deformation revealed by the analysis of multiple GNSS networks in the Noto Peninsula, central Japan. Scientific Reports 13 (1):8381. doi:10.1038/s41598-023-35459-z
能登半島北東部のGNSS観測点において、隆起などのそれまでと傾向の異なる「非定常」地殻変動は、2020年12月頃から活発化した地震活動とほぼ同時期から始まった。2020年12月から2023年4月までに、群発地震の震源域から放射状にひろがる最大約3 cmの水平変動と震源域周辺で最大約6cmの隆起を示す非定常地殻変動が観測された。2023年5月5日のMj6.5の地震では、能登半島北岸の観測点を中心に、最大約8cm程度の地殻変動が観測され、地震後には地殻変動速度が鈍化した。2024年1月1日のMj7.6の地震では、能登半島北部を中心に水平方向で西向きに最大2m程度、上下方向は能登半島の北岸で最大2m程度隆起したことが観測された。Mj7.6の地震後は、余効変動とみられる地殻変動が継続し、その変動量は地震後4ヶ月間で水平方向に最大約3cm、上下方向では最大約6cmの沈降であった。余効変動のパターンは、地震時地殻変動と似ているが、能登半島の上下変動が地震時と反対に沈降している点と、水平変動の大きさの距離減衰が本震時よりも小さいという点で異なっている。筆者らが推測する一連の地震活動のメカニズムに関するシナリオ仮説(Nishimura et al., 2023)は、次のとおりである。能登半島北東部には、下部地殻にもともとマントル起源の深部流体に富む領域があった。ここから流体が2020年12月に地震活動を伴いながら,深さ16km程度まで上昇した。上昇してきた流体の体積は3,000万m3にのぼると考えられる。この流体が南東傾斜の断層帯を通って移動・拡散し、深さ15km以深では主にスロースリップを引き起こし、深さ15km以浅では激しい群発地震を誘発した。さらに、この近傍には、過去千年以上にわたり応力を蓄積してきた海底活断層があり、流体上昇がその破壊の最後の引き金となって、 Mj7.6の大地震が発生したと考えられる。また、地震後の余効変動の主原因は、マントルにおける粘弾性緩和であり、Burgers粘弾性体を仮定して、粘弾性パラメータを推定すると、弾性層厚さが30km、マントルの過渡的な粘性率(Voigt要素粘性率)が6×1017Pa s程度の値が得られた。粘性緩和による能登半島の沈降は、地震時の隆起に比べれば小さいが、30年後には地震時隆起の1割程度の沈降が生じると見込まれる。
謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは、「ソフトバンク独自基準点 データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。また、国土地理院から公開された後処理解析用データを使用しました。
引用文献:Nishimura T, Hiramatsu Y, Ohta Y (2023) Episodic transient deformation revealed by the analysis of multiple GNSS networks in the Noto Peninsula, central Japan. Scientific Reports 13 (1):8381. doi:10.1038/s41598-023-35459-z
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