講演情報

[G9-O-1]鳥取県沖の海水に溶存するメタンの地球化学的特徴:ガスチムニーから放出されたメタンの起源と動態

*戸丸 仁1、サク テンユウ1、池本 苑華1、近田 みのり1 (1. 千葉大学理学部地球科学科)
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キーワード:

隠岐トラフ、メタン、ガスチムニー

隠岐トラフの西縁斜面の海底堆積物中には、顕著なガスチムニーが広く発達しており、堆積物から海洋中に大量のメタンが継続的に放出されている。このような形態のメタン(炭素)の堆積物―海洋間の移動に関しては、ガスチムニーの分布や活動、強度などの基本的な情報が不足しているため、どのくらいの量のメタンが海洋に移行し、海洋中でどのように変化しているのかなど、その動態は明らかになっていない点が多い。特に、気泡としてメタンが放出された場合、その表面がハイドレート化し、安定領域の上限深度である水深200~300 m付近で溶解することによって、海洋浅部に効率的にメタンを運ぶ可能性があり、堆積物―海洋―大気間のメタンの挙動を評価する上でも重要な現象である。本研究では、ガスチムニーが広がる海域を含む海水中のメタンの起源や三次元的な動態、変動を明らかにするため、複数の異なる年・季節に、鳥取県沖の隠岐トラフ周辺海域で鉛直採水した海水中のメタン濃度とその炭素安定同位体比を測定した。
ガスチムニーの見られない隠岐海脚では時期にかかわらず、水深とともにメタン濃度がやや上昇し、特に海脚の東側(隠岐トラフ側)では海底付近で最大値を示すサイトが多く、堆積物から一定量のメタンが放出され続けていることが示唆された。隠岐トラフ西縁斜面のガスチムニーが顕著に発達するサイトでは、水深300 m付近で最大濃度を示すことが多かった。また、そのサイトのメタンの炭素安定同位体比は、ガスチムニーがないサイトに比べて大きかった。これは、ガスチムニーでは周辺に比べて熱分解起源のメタンの寄与が大きく、ガスチムニーから化学的特徴の異なるメタンが相当量放出されていること、また、そのメタンが底層水と反応して表面がハイドレート化した状態で、安定領域の上限深度付近まで上昇し、その深度でメタンが海水中に放出されている可能性が考えられる。これらの結果は、ガスチムニーから放出されたメタンが十分に側方への拡散・移流、分解を経ずに、海洋の比較的浅部まで到達しているとともに、海水の化学的環境の局所的な変化を引き起こしていることを示唆する。

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