講演情報
[G9-O-2]固形試料の非破壊多元素定量分析のための1mmφ蛍光X線分析法の開発
*早坂 康隆1 (1. 天草市立御所浦恐竜の島博物館)
キーワード:
1 mm径のXRF分析、非破壊多元素分析、検量線法
はじめに
考古遺物・文化財や犯罪捜査に関わる遺留品などの元素分析は非破壊で行う必要があり,蛍光X線分析法が適している。最近,広島大学設置の波長分散型全自動蛍光X線分析装置(リガクPRIMUS II)を用いて径1 mmの領域を精度良く定量分析する20元素の検量線を得たので,その概要を報告する。本システムでは,単結晶,または岩石中に含まれる粗粒な珪酸塩,炭酸塩,リン酸塩,硫酸塩・硫化物,ホウ酸塩・ホウ素化物,酸化物,ハロゲン化物などの各種鉱物,チャートなど細粒な岩石の全岩組成,プレスパウダー,ガラス,セラミクス,合金,プラスチック樹脂,等々の分析が可能である。酸素を独立に定量するので,炭酸塩中の炭素と有機物中の炭素を区別することも可能で,汎用性・応用性が高い。
システムの概要
1)測定元素:B, C, O, F, Na, Mg, Al, Si, P, S, Cl, K, Ca, Ti, Cr, Mn, Fe, Rb, Sr, ZrHとLiの含有量が既知であれば,その濃度を登録してマトリクス補正の精度を上げる。
2)管球の電圧・電流:B~S/30 kV - 100 mA,Cl~Ti:/40 kV - 80 mA,Cr~Zr/50 kV - 60 mA
3)一次X線フィルター:Ti~Zr にAlフィルターを用いる。これは,バックラウンドを下げるためだけでなく,励起に無用な波長成分をカットして試料の被爆による変色を軽減させるためでもある。
4)測定時間:Bがピーク150秒,バックグラウンド150秒,C~Naがピーク100秒,バックグランド50秒と軽元素ほど長秒を要し,全体で約40分となる。試料の被爆を抑えるためには,測定が不要な元素の測定時間を予め短く設定しておくのが良い。
5)定量計算:付属のソフトウエア(ZSX Version7.42)に格納されているJIS モデルによる理論マトリクス補正係数を適用した検量線法。
6)標準試料:天然の宝石グレード端成分鉱物(32種),合成鉱物(4種),産総研が提供している岩石標準試料粉末の溶融ビード(13種),純金属(4種),プラスチック樹脂類(5種),NISTのガラス標準試料SRM610など,合計63試料である。
7)測定部位の位置合わせ:通常,試料ホルダーに5 mmφの試料マスクを装着し,測定部位をその中央にセットする。マッピング機能を用いて試料を測定位置に導入すると,自動的に写真が撮られて表示されるので,その画像上で測定位置を複数箇所指定することもできる。
検量線の作成手順と結果
正確な検量線を作成する上で問題となるのは,端成分鉱物でも天然の試料には無視できない量の不純元素が含まれることである。今回は,次の手順で天然試料の正確な組成を求めた。
(1) 全ての試料は端成分組成からなり,不純な元素は含まないと仮定して第一段階の検量線を作成する。(2) この検量線を用いて,他の元素の検量線に用いる標準試料に不純物として含まれるこの元素の濃度を定量する。(3) 検出された不純成分を加え,ストイキオメトリを満足し,かつ濃度の合計が100%になるような組成を計算により求めて検量線を引き直し,(2)以降を繰り返す。これを3回繰り返すと,収斂して精度の良い検量線が得られる。
例として,O, Si, Feの検量線を図に示す。JIS モデルによる理論マトリクス補正係数を用いると,Si のように平均的な原子番号の元素は直線的な検量線となり,より軽い元素は下に凸の,より重い元素は上に凸の検量線となる。一般に,測定誤差の絶対値は高濃度の試料で大きくなり,その誤差が検量線の正確度に波及する。そこで,低濃度の標準試料が多数得られる元素では,検量線を低濃度部と高濃度部に分けるということが行われる。例えば,Feでは2 wt%以下の低濃度の検量線(正確度:± 0.063wt%)と2 wt%以上の高濃度の検量線(正確度:± 0.13 wt%)に分けている。
測定例
1)黒曜石の分析値がビード法による結果と良く一致することを確認した。
2)柘榴石の単結晶の分析値がストイキオメトリを満足することを確認した。
3)チャートのスラブをマッピング機能を用いて層理面に垂直な線分析を行い,Al, Ti, Mn, Fe, Sr, Zr などの微量成分の濃度変化グラフを得た。
4)花こう岩礫中に含まれる2〜3 mmの黄緑色鉱物の鑑定を依頼され,セリサイトの集合体であることを突き止めた。
5)黒色泥岩中の炭素Cを炭酸塩中のC(CO2)と有機炭素(C*)に分けて分析した。
6)角砂糖(スクロース:C12H22O11)の組成を正しく分析した。
考古遺物・文化財や犯罪捜査に関わる遺留品などの元素分析は非破壊で行う必要があり,蛍光X線分析法が適している。最近,広島大学設置の波長分散型全自動蛍光X線分析装置(リガクPRIMUS II)を用いて径1 mmの領域を精度良く定量分析する20元素の検量線を得たので,その概要を報告する。本システムでは,単結晶,または岩石中に含まれる粗粒な珪酸塩,炭酸塩,リン酸塩,硫酸塩・硫化物,ホウ酸塩・ホウ素化物,酸化物,ハロゲン化物などの各種鉱物,チャートなど細粒な岩石の全岩組成,プレスパウダー,ガラス,セラミクス,合金,プラスチック樹脂,等々の分析が可能である。酸素を独立に定量するので,炭酸塩中の炭素と有機物中の炭素を区別することも可能で,汎用性・応用性が高い。
システムの概要
1)測定元素:B, C, O, F, Na, Mg, Al, Si, P, S, Cl, K, Ca, Ti, Cr, Mn, Fe, Rb, Sr, ZrHとLiの含有量が既知であれば,その濃度を登録してマトリクス補正の精度を上げる。
2)管球の電圧・電流:B~S/30 kV - 100 mA,Cl~Ti:/40 kV - 80 mA,Cr~Zr/50 kV - 60 mA
3)一次X線フィルター:Ti~Zr にAlフィルターを用いる。これは,バックラウンドを下げるためだけでなく,励起に無用な波長成分をカットして試料の被爆による変色を軽減させるためでもある。
4)測定時間:Bがピーク150秒,バックグラウンド150秒,C~Naがピーク100秒,バックグランド50秒と軽元素ほど長秒を要し,全体で約40分となる。試料の被爆を抑えるためには,測定が不要な元素の測定時間を予め短く設定しておくのが良い。
5)定量計算:付属のソフトウエア(ZSX Version7.42)に格納されているJIS モデルによる理論マトリクス補正係数を適用した検量線法。
6)標準試料:天然の宝石グレード端成分鉱物(32種),合成鉱物(4種),産総研が提供している岩石標準試料粉末の溶融ビード(13種),純金属(4種),プラスチック樹脂類(5種),NISTのガラス標準試料SRM610など,合計63試料である。
7)測定部位の位置合わせ:通常,試料ホルダーに5 mmφの試料マスクを装着し,測定部位をその中央にセットする。マッピング機能を用いて試料を測定位置に導入すると,自動的に写真が撮られて表示されるので,その画像上で測定位置を複数箇所指定することもできる。
検量線の作成手順と結果
正確な検量線を作成する上で問題となるのは,端成分鉱物でも天然の試料には無視できない量の不純元素が含まれることである。今回は,次の手順で天然試料の正確な組成を求めた。
(1) 全ての試料は端成分組成からなり,不純な元素は含まないと仮定して第一段階の検量線を作成する。(2) この検量線を用いて,他の元素の検量線に用いる標準試料に不純物として含まれるこの元素の濃度を定量する。(3) 検出された不純成分を加え,ストイキオメトリを満足し,かつ濃度の合計が100%になるような組成を計算により求めて検量線を引き直し,(2)以降を繰り返す。これを3回繰り返すと,収斂して精度の良い検量線が得られる。
例として,O, Si, Feの検量線を図に示す。JIS モデルによる理論マトリクス補正係数を用いると,Si のように平均的な原子番号の元素は直線的な検量線となり,より軽い元素は下に凸の,より重い元素は上に凸の検量線となる。一般に,測定誤差の絶対値は高濃度の試料で大きくなり,その誤差が検量線の正確度に波及する。そこで,低濃度の標準試料が多数得られる元素では,検量線を低濃度部と高濃度部に分けるということが行われる。例えば,Feでは2 wt%以下の低濃度の検量線(正確度:± 0.063wt%)と2 wt%以上の高濃度の検量線(正確度:± 0.13 wt%)に分けている。
測定例
1)黒曜石の分析値がビード法による結果と良く一致することを確認した。
2)柘榴石の単結晶の分析値がストイキオメトリを満足することを確認した。
3)チャートのスラブをマッピング機能を用いて層理面に垂直な線分析を行い,Al, Ti, Mn, Fe, Sr, Zr などの微量成分の濃度変化グラフを得た。
4)花こう岩礫中に含まれる2〜3 mmの黄緑色鉱物の鑑定を依頼され,セリサイトの集合体であることを突き止めた。
5)黒色泥岩中の炭素Cを炭酸塩中のC(CO2)と有機炭素(C*)に分けて分析した。
6)角砂糖(スクロース:C12H22O11)の組成を正しく分析した。
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