講演情報

[G9-O-4]北海道内の温泉に付随する可燃性天然ガスの化学組成および同位体比に基づく起源推定

*林 圭一1、大森 一人1、鈴木 隆広1、坂上 寛敏2、實﨑 颯太2 (1. 北海道立総合研究機構、2. 北見工業大学)
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キーワード:

メタン、温泉、炭素・水素安定同位体比、挟炭層、北海道

北海道には数多くの温泉が各地に分布しており,その数は約2200源泉にのぼる.温泉は,起源や生成過程などの地質学的な背景により様々な性質(溶存成分,温度など)を持つが,その中にはガスを伴って湧出するものもある.温泉に伴って湧出するガスの主要成分の多くは,窒素や二酸化炭素であるが,平野部や堆積岩分布域の温泉にはメタンなどの可燃性天然ガス,火山近傍の温泉には硫化水素などの火山性ガスが含まれることがある.
 これらのうち,特にメタンなどの可燃性天然ガスを含むもの(以下、「温泉付随ガス」)は,未利用の地域資源とみなすことができ,近年の化石燃料資源の価格高騰などを背景に,各地で利活用が検討されている.しかし,「温泉付随ガス」は,源泉周辺で温泉と分離し,大気放散されているため,利活用の検討に必要な情報(ガス組成,湧出量など)がほとんど知られていない.そこで,本研究では,「温泉付随ガス」の利活用を検討するための基礎情報として,道内の「温泉付随ガス」の湧出する52源泉および4ガス井について,「温泉付随ガス」中のメタン濃度を測定するとともに,起源や地質学的背景について検討を行った.
 「温泉付随ガス」を伴う温泉は,主要溶存成分としてNa+,Clを含むナトリウム-塩化物泉であるが,一部でHCO3 の濃度が高いものもみられた.また,温泉の水素・酸素同位体比から大部分が天水領域にプロットされるが,一部,道北地域を中心に粘土鉱物の熱変性による脱水作用で生じると考えられる同位体比の領域にプロットされた.これらの続成作用により生じた水は,ガス田や油田のかん水に特徴的にみられ,熱分解性の油ガス生成との関連が指摘されている(大沢,2009;村松,2019).
 本研究で調査を行った「温泉付随ガス」は,メタン濃度が50%以上であり,一部については90%以上のものもあった.これらの「温泉付随ガス」の組成およびメタンをはじめとした炭化水素ガスの水素・炭素同位体比から,道内の「温泉付随ガス」は,大きく熱分解起源のものと生物起源(主に二酸化炭素還元)のものに区分された(Bernerd et al., 1977; Milkov and Etiope, 2018 など).また,熱分解起源の炭化水素ガスのほとんどがType III ケロジェンを起源とする石炭タイプのガスであった(Liu et al., 2019).
 北海道において,特に熱分解性メタンの母材となる有機物としては,石炭が考えられる.そこで,挟炭層(古第三系~上部白亜系)の地表および地下分布と比較すると,熱分解起源のメタンが湧出する源泉は,大深度に挟炭層が分布する地域との相関が見られた.

【文献】
大沢,2009,温泉科学,59,211‒217;村松,2019,温泉科学,69,20‒36;Bernard et al., 1977, 9th Annual OTC Conference, 435‒438 (OTC 2934);Milkov and Etiope, 2018, Organic Geochemistry, 125, 109‒120;Liu et al., 2019, Earth-Science Reviews, 190, 247‒272

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