講演情報
[T10-O-3]緑泥石-アクチノ閃石片岩と青色片岩の変形機構とレオロジー★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*山﨑 悠翔1、氏家 恒太郎1、重松 紀生2、イヨ トーマス1 (1. 筑波大学、2. 産業技術総合研究所)
キーワード:
アクチノ閃石、マイクロブーディン、流動則、スロースリップ、非地震性クリープ
1.はじめに
プレート沈み込み帯地震発生帯より下限側では、プレート沈み込み速度より速いが地震性すべり速度よりは遅くすべることにより特徴づけられるスロースリップ(SSE)が断続的に発生している。スロースリップ発生域に発達する岩石として、これまで緑泥石-アクチノ閃石片岩(CAS)、青色片岩、タルク片岩などがあげられている(e.g., Behr et al., 2018; Hoover et al., 2022; Nishiyama et al., 2023; Ujiie et al., 2022)。長崎県西彼杵変成岩中に分布する西樫山メランジュは、温度500 ℃、圧力1.1 GPa、緑簾石-青色片岩相の変成条件下での変形を記録しており、南海トラフ沈み込み帯深部スロースリップ発生域の陸域アナログであると考えられている(Tulley et al., 2022; Ujiie et al., 2022)。本研究では、西樫山メランジュを構成するCASと青色片岩を対象に、地質調査、微細構造観察、レオロジー解析を行い、スロースリップや非地震性クリープをもたらす変形機構やレオロジーについて考察した。
2.西樫山メランジュの構成岩石と内部構造
西樫山メランジュは厚さ約90 mで、泥質-砂質片岩、青色片岩を含む塩基性片岩、CASで構成される。CASは厚さ1-150 cmで複数に渡って認められ、塩基性片岩、泥質-砂質片岩中に挟在されるか、または塩基性片岩と泥質-砂質片岩の間に発達する。CASにはプレート沈み込みと調和的なせん断センスを示すS-C構造などの複合面構造が発達する。CASは主として細粒アクチノ閃石と緑泥石からなるマトリックス中にレンズ状の石英脈、交代反応に伴って曹長岩化した泥質片岩、塩基性片岩、粗粒アクチノ閃石の凝集体を含むことで特徴づけられる。
3.変形機構
CASと青色片岩を対象に、偏光顕微鏡、電界放出型走査電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析、電子線後方散乱解析による微細構造観察・解析と元素マッピングを行った。
CASマトリックス中の細粒アクチノ閃石は、長軸に沿ったアルミニウムのゾーニングが認められることから、溶解-析出クリープが主要な変形機構であると考えられる。一方、粗粒アクチノ閃石の凝集体には波動消光、石英レンズには結晶定向配列やそれと調和的な亜粒回転が認められることから、転位クリープが主要な変形機構であると考えられる。
青色片岩では、Na角閃石がマイクロブーディン化しており、ブーディンのネック部分にはNa-Ca角閃石が拡散して存在することから、拡散クリープが主要な変形機構であると考えられる。
4.レオロジー
西樫山メランジュのピーク変成温度である500 ℃下でのCASと青色片岩における歪み速度とせん断応力を検討した。
CAS中のレンズ状の石英脈に関しては、Ujiie et al. (2022)により石英の差応力計 (Stipp & Tullis, 2003) と石英の転位クリープ流動則 (Hirth et al., 2001) を用いて粘性せん断時のせん断応力と歪み速度が見積もられている。今回、CASマトリックスを構成する細粒アクチノ閃石のレオロジーを溶解-析出クリープ流動則(Bos&Spiers, 2002)を用いて解析した。その結果、CASマトリックスにおける細粒アクチノ閃石の溶解析出クリープとレンズ状石英脈の転位クリープは、間隙流体圧比λ0.7、せん断応力約40 MPa、歪み速度約10-10 s-1の条件下で共存し得ることが明らかとなった。
一方、青色片岩のレオロジーは、マイクロブーディン化を伴う拡散流動則(Tokle et al., 2023)を用いて解析した。その結果、CASと同等の歪み速度であったと仮定した場合、せん断応力が約250 MPaと非常に大きな値となるが、歪み速度が10-12 s-1の場合、せん断応力は約20 MPaとなり、CASの約半分の値となることが明らかとなった。
5.考察・結論
微細構造・レオロジー解析の結果、青色片岩は低せん断応力・低せん断歪み速度下で拡散クリープによる粘性せん断を受けていたと考えられる。一方、CASは高せん断応力・高せん断歪み速度下で転位クリープと溶解-析出クリープが共存した状況下で粘性せん断を受けていたと考えられる。この違いは、非地震性クリープが少なくとも青色片岩で賄われていた一方で、スロースリップは複数のCASに沿って局所化して発生したことが示唆される。
参考文献
Behr et al (2018). Geology, 46, 475-478, doi:10.1098/rsta.2020.0218
Bos & Spiers (2002). J. Geophys. Res. Solid Earth, 2028, doi:10.1029/2001JB000301
Hirth et al (2001). Int. J. Earth Sci. 90, 77-87, doi:10.1007/s005310000152.
Hoover et al (2022). Geophys. Res. Lett, 49, e2022GL101083, doi:10.1029/2022GL101083.
Nishiyama et al (2023). Lithos, 446–447, 107115, doi:10.1016/j.lithos.2023.107115.
Stipp & Tullis (2003). Geophys. Res. Lett, 30, 2088, doi:10.1029/2003GL018444.
Tokle et al (2023). J. Geophys. Res. Solid Earth, 128, e2023JB026848, doi:10.1029/2023JB026848.
Tulley et al (2022). Geochem. Geophys. Geosyst, 23, e2021GC010208, doi:10.1029/2021GC010208.
Ujiie et al (2022). Geochem. Geophys. Geosyst, 23, e2022GC010569, doi:10.1029/2022GC010569.
プレート沈み込み帯地震発生帯より下限側では、プレート沈み込み速度より速いが地震性すべり速度よりは遅くすべることにより特徴づけられるスロースリップ(SSE)が断続的に発生している。スロースリップ発生域に発達する岩石として、これまで緑泥石-アクチノ閃石片岩(CAS)、青色片岩、タルク片岩などがあげられている(e.g., Behr et al., 2018; Hoover et al., 2022; Nishiyama et al., 2023; Ujiie et al., 2022)。長崎県西彼杵変成岩中に分布する西樫山メランジュは、温度500 ℃、圧力1.1 GPa、緑簾石-青色片岩相の変成条件下での変形を記録しており、南海トラフ沈み込み帯深部スロースリップ発生域の陸域アナログであると考えられている(Tulley et al., 2022; Ujiie et al., 2022)。本研究では、西樫山メランジュを構成するCASと青色片岩を対象に、地質調査、微細構造観察、レオロジー解析を行い、スロースリップや非地震性クリープをもたらす変形機構やレオロジーについて考察した。
2.西樫山メランジュの構成岩石と内部構造
西樫山メランジュは厚さ約90 mで、泥質-砂質片岩、青色片岩を含む塩基性片岩、CASで構成される。CASは厚さ1-150 cmで複数に渡って認められ、塩基性片岩、泥質-砂質片岩中に挟在されるか、または塩基性片岩と泥質-砂質片岩の間に発達する。CASにはプレート沈み込みと調和的なせん断センスを示すS-C構造などの複合面構造が発達する。CASは主として細粒アクチノ閃石と緑泥石からなるマトリックス中にレンズ状の石英脈、交代反応に伴って曹長岩化した泥質片岩、塩基性片岩、粗粒アクチノ閃石の凝集体を含むことで特徴づけられる。
3.変形機構
CASと青色片岩を対象に、偏光顕微鏡、電界放出型走査電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析、電子線後方散乱解析による微細構造観察・解析と元素マッピングを行った。
CASマトリックス中の細粒アクチノ閃石は、長軸に沿ったアルミニウムのゾーニングが認められることから、溶解-析出クリープが主要な変形機構であると考えられる。一方、粗粒アクチノ閃石の凝集体には波動消光、石英レンズには結晶定向配列やそれと調和的な亜粒回転が認められることから、転位クリープが主要な変形機構であると考えられる。
青色片岩では、Na角閃石がマイクロブーディン化しており、ブーディンのネック部分にはNa-Ca角閃石が拡散して存在することから、拡散クリープが主要な変形機構であると考えられる。
4.レオロジー
西樫山メランジュのピーク変成温度である500 ℃下でのCASと青色片岩における歪み速度とせん断応力を検討した。
CAS中のレンズ状の石英脈に関しては、Ujiie et al. (2022)により石英の差応力計 (Stipp & Tullis, 2003) と石英の転位クリープ流動則 (Hirth et al., 2001) を用いて粘性せん断時のせん断応力と歪み速度が見積もられている。今回、CASマトリックスを構成する細粒アクチノ閃石のレオロジーを溶解-析出クリープ流動則(Bos&Spiers, 2002)を用いて解析した。その結果、CASマトリックスにおける細粒アクチノ閃石の溶解析出クリープとレンズ状石英脈の転位クリープは、間隙流体圧比λ0.7、せん断応力約40 MPa、歪み速度約10-10 s-1の条件下で共存し得ることが明らかとなった。
一方、青色片岩のレオロジーは、マイクロブーディン化を伴う拡散流動則(Tokle et al., 2023)を用いて解析した。その結果、CASと同等の歪み速度であったと仮定した場合、せん断応力が約250 MPaと非常に大きな値となるが、歪み速度が10-12 s-1の場合、せん断応力は約20 MPaとなり、CASの約半分の値となることが明らかとなった。
5.考察・結論
微細構造・レオロジー解析の結果、青色片岩は低せん断応力・低せん断歪み速度下で拡散クリープによる粘性せん断を受けていたと考えられる。一方、CASは高せん断応力・高せん断歪み速度下で転位クリープと溶解-析出クリープが共存した状況下で粘性せん断を受けていたと考えられる。この違いは、非地震性クリープが少なくとも青色片岩で賄われていた一方で、スロースリップは複数のCASに沿って局所化して発生したことが示唆される。
参考文献
Behr et al (2018). Geology, 46, 475-478, doi:10.1098/rsta.2020.0218
Bos & Spiers (2002). J. Geophys. Res. Solid Earth, 2028, doi:10.1029/2001JB000301
Hirth et al (2001). Int. J. Earth Sci. 90, 77-87, doi:10.1007/s005310000152.
Hoover et al (2022). Geophys. Res. Lett, 49, e2022GL101083, doi:10.1029/2022GL101083.
Nishiyama et al (2023). Lithos, 446–447, 107115, doi:10.1016/j.lithos.2023.107115.
Stipp & Tullis (2003). Geophys. Res. Lett, 30, 2088, doi:10.1029/2003GL018444.
Tokle et al (2023). J. Geophys. Res. Solid Earth, 128, e2023JB026848, doi:10.1029/2023JB026848.
Tulley et al (2022). Geochem. Geophys. Geosyst, 23, e2021GC010208, doi:10.1029/2021GC010208.
Ujiie et al (2022). Geochem. Geophys. Geosyst, 23, e2022GC010569, doi:10.1029/2022GC010569.
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