講演情報
[T10-O-5]高温・高封圧下におけるメノウの変形実験:石英の定常再結晶組織と差応力の関係
*中小路 一真1、清水 以知子2 (1. 東京大学、2. 京都大学)
キーワード:
石英、高温高圧変形実験、動的再結晶、転位クリープ
高圧変成帯や剪断帯で見られる石英の再結晶組織は、その岩石が塑性流動したときの温度や歪速度などの変形条件を反映していると考えられている。再結晶組織を実験室で再現するため、固体圧式変形試験機を用いて様々な温度・歪速度条件で実験が行われてきた。
Masuda and Fujimura (1981) (以下、MF)の古典的な実験では、含水石英岩であるメノウを用いて、封圧0.4 GPa, 温度700-1000℃, 歪速度10-6-10-4/secで高温高圧変形実験を行い、低温高歪速度条件下では、粒子形状がσ 3方向に扁平で鋸状の結晶粒界の発達する組織(Sタイプ)が発達するのに対し、高温低歪速度条件下では、等粒状で比較的まっすぐな結晶粒界をもつ組織(Pタイプ)が発達することを報告した。このことから、これらの組織は温度や歪速度条件をあらわす定常組織と考えられた。
MF の分類を天然の石英組織に適用するには、S-P遷移の温度-歪速度依存性のみならず、封圧依存性を知ることが必要となる。Hirth and Tullis (1992) はMFより高い封圧(1.5 GPa)条件で石英の変形実験を行い、微細組織を3つに分類をしているが、彼らの分類は再結晶機構に基づくものであり、MF とは分類基準が異なる。また、メノウに比べ粗粒の珪岩を出発物質に用いているため、低温条件ではもとの石英粒子の結晶粒界でわずかに再結晶が起きているのみで、定常状態の再結晶組織を知ることができない。そこで本研究では、MFと同じ出発物質メノウを用いて、封圧1.5 GPa、温度800℃-1000℃, 歪速度10-6/sec-10-4/secの範囲で変形実験を行った。
実験試料には、メノウが持つ繊維状組織に平行に直径8 mm でコアリングし, 高さ8 mmに成型したものを用いた。実験には熊澤型の固体圧変形試験機を使用し、圧媒体には外側をタルク、内側にはタルクまたはパイロフィライトを用いた。熊澤型試験機では2つのロードセルを用いて上下ピストンにかかる力を計測することにより、差応力測定における固体圧媒体の摩擦の影響を補正している。
実験終了後、回収した試料の薄片観察では7つの実験条件すべてで、メノウの初期組織が消失し、低温高歪速度条件でSタイプ、高温低歪速度条件で P タイプの再結晶組織に置き換わっていることが確認された。S-P境界は、MFの結果に比べやや高温低歪速度側にシフトした。発表では 画像解析ソフトウェアを用いたこれら組織の定量的解析についても議論する。
力学データについてみると、歪速度10-4/sec, 10-5/secで行った実験では、既存の実験や理論 (Fukuda and Shimizu, 2017) による応力指数3の石英の転位クリープ流動則に整合的な結果が得られた。しかし、歪速度10-6/secで行った実験では、予想される流動応力に比べ、著しく大きい値となった。その原因として、実験時間が比較的長期(~3日)に及んだため、試料の脱水が進み硬化したことが考えられる。S-P境界は、差応力には対応しないことが示唆される。
MFの Sタイプの実験後試料についての EBSD解析 では、扁平な粒子で底面すべりが優位であることが示唆されている (Shimizu and Michibayashi, 2022)。また、Avé Lallemant and Carter (1971) は、800℃以上の条件では、封圧0.4 GPaでは柱面すべりが卓越するのに対し、封圧1.5 GPaでは底面すべりが卓越することを報告している。これらの事実から、封圧の増加に伴う石英の卓越すべり系の変化によってSタイプができやすくなったことにより、S-Pタイプ境界がシフトしたと考えることができる。
引用文献
Masuda, T. and Fujimura, A. (1981) Tectonophysics, 72, 105–128.
Fukuda, J. and Shimizu, I. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 5956–5971.
Shimizu, I. and Michibayashi, K. (2022) Minerals, 12, 329.
Avé Lallemant, H. and Carter, N. (1971) Am. J. Sci., 270, 218–235.
Masuda and Fujimura (1981) (以下、MF)の古典的な実験では、含水石英岩であるメノウを用いて、封圧0.4 GPa, 温度700-1000℃, 歪速度10-6-10-4/secで高温高圧変形実験を行い、低温高歪速度条件下では、粒子形状がσ 3方向に扁平で鋸状の結晶粒界の発達する組織(Sタイプ)が発達するのに対し、高温低歪速度条件下では、等粒状で比較的まっすぐな結晶粒界をもつ組織(Pタイプ)が発達することを報告した。このことから、これらの組織は温度や歪速度条件をあらわす定常組織と考えられた。
MF の分類を天然の石英組織に適用するには、S-P遷移の温度-歪速度依存性のみならず、封圧依存性を知ることが必要となる。Hirth and Tullis (1992) はMFより高い封圧(1.5 GPa)条件で石英の変形実験を行い、微細組織を3つに分類をしているが、彼らの分類は再結晶機構に基づくものであり、MF とは分類基準が異なる。また、メノウに比べ粗粒の珪岩を出発物質に用いているため、低温条件ではもとの石英粒子の結晶粒界でわずかに再結晶が起きているのみで、定常状態の再結晶組織を知ることができない。そこで本研究では、MFと同じ出発物質メノウを用いて、封圧1.5 GPa、温度800℃-1000℃, 歪速度10-6/sec-10-4/secの範囲で変形実験を行った。
実験試料には、メノウが持つ繊維状組織に平行に直径8 mm でコアリングし, 高さ8 mmに成型したものを用いた。実験には熊澤型の固体圧変形試験機を使用し、圧媒体には外側をタルク、内側にはタルクまたはパイロフィライトを用いた。熊澤型試験機では2つのロードセルを用いて上下ピストンにかかる力を計測することにより、差応力測定における固体圧媒体の摩擦の影響を補正している。
実験終了後、回収した試料の薄片観察では7つの実験条件すべてで、メノウの初期組織が消失し、低温高歪速度条件でSタイプ、高温低歪速度条件で P タイプの再結晶組織に置き換わっていることが確認された。S-P境界は、MFの結果に比べやや高温低歪速度側にシフトした。発表では 画像解析ソフトウェアを用いたこれら組織の定量的解析についても議論する。
力学データについてみると、歪速度10-4/sec, 10-5/secで行った実験では、既存の実験や理論 (Fukuda and Shimizu, 2017) による応力指数3の石英の転位クリープ流動則に整合的な結果が得られた。しかし、歪速度10-6/secで行った実験では、予想される流動応力に比べ、著しく大きい値となった。その原因として、実験時間が比較的長期(~3日)に及んだため、試料の脱水が進み硬化したことが考えられる。S-P境界は、差応力には対応しないことが示唆される。
MFの Sタイプの実験後試料についての EBSD解析 では、扁平な粒子で底面すべりが優位であることが示唆されている (Shimizu and Michibayashi, 2022)。また、Avé Lallemant and Carter (1971) は、800℃以上の条件では、封圧0.4 GPaでは柱面すべりが卓越するのに対し、封圧1.5 GPaでは底面すべりが卓越することを報告している。これらの事実から、封圧の増加に伴う石英の卓越すべり系の変化によってSタイプができやすくなったことにより、S-Pタイプ境界がシフトしたと考えることができる。
引用文献
Masuda, T. and Fujimura, A. (1981) Tectonophysics, 72, 105–128.
Fukuda, J. and Shimizu, I. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 5956–5971.
Shimizu, I. and Michibayashi, K. (2022) Minerals, 12, 329.
Avé Lallemant, H. and Carter, N. (1971) Am. J. Sci., 270, 218–235.
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