講演情報
[T10-O-7][招待講演]CO2-水-玄武岩反応が浸透率に及ぼす影響:流通試験を用いた評価
*西山 直毅1、徂徠 正夫1、増岡 健太郎2 (1. 産業技術総合研究所、2. 大成建設)
【ハイライト講演】CO2-水-玄武岩の相互作用は,火山地帯や海洋地殻の変質過程を理解する上で重要である.近年,地球温暖化対策として,地下の玄武岩層にCO2を注入して鉱物化を促進する技術や,高温の玄武岩へCO2を熱媒体として注入して採熱するCO2地熱発電技術への期待が高まっている.本発表では,玄武岩コアに対する高温CO2溶解水の流通試験を実施し,反応に伴う浸透率の変化とそのメカニズムについて議論する予定である.(ハイライト講演とは...)
キーワード:
浸透率、CO2-水-玄武岩反応、流通試験
CO2-水-玄武岩の相互作用は、火山地帯や海洋地殻の変質過程を理解する上で重要である。近年、地球温暖化対策として、地下の玄武岩層にCO2を注入して鉱物化を促進する技術や、高温の玄武岩へCO2を熱媒体として注入して採熱するCO2地熱発電技術への期待が高まっている(Brown, 2000; Matter et al., 2016)。このようなCO2が豊富に存在する地下環境では、CO2が間隙水に溶解し酸性化する。酸性条件下では、玄武岩に含まれる斜長石やかんらん石の溶解が促進され、溶出した二価イオンは炭酸塩鉱物や粘土鉱物として沈殿する。これらの反応は間隙構造(間隙率、間隙サイズ、形状、流路の屈曲度)に影響を与え、浸透率を変化させる可能性がある。しかしながら、高温環境下におけるCO2-水-玄武岩反応が浸透率にどのような影響を及ぼすかは不明な点が多い。そこで本研究では、玄武岩コアに対する高温CO2溶解水の流通試験を実施し、反応に伴う浸透率の変化を評価した。
試料には直径30 mm、長さ200 mmの玄武岩コアを用いた。試料の間隙率は33 %、浸透率は1.1 × 10−16–2.6 × 10−16 m2である。実験条件は温度200℃、間隙圧10 MPa、封圧11–15 MPaとした。流通試験では、200℃の熱水に対してCO2 (pCO2 = 10–14 MPa)を溶解させてCO2飽和溶解水を作成し、一定差圧をコアに付加して15–21日間流通させた。また、異なる差圧を付加することで流速を変化させ、反応と浸透率の関係に対する流速の効果を評価した。
CO2溶解水との反応の結果、浸透率は継続的に減少し、最大1/80まで低下した。一方、間隙率は増加したが、増加量は1 %未満であった。流通試験後のコアでは、上流から1 mmまでの範囲で斜長石、かんらん石、単斜輝石、ガラスが顕著に溶解し、最大50 μmサイズの間隙が形成されていた。さらに下流では反応様式が変化し、斜長石、かんらん石、ガラスの溶解によるマイクロメートルオーダーの間隙形成と、粘土鉱物の沈殿で特徴づけられる溶解-沈殿混合領域が形成されていた。コア上流部で溶解が顕著に進んだ原因として、各鉱物から溶出したイオンが移流によって効率的に洗い流され、各鉱物の溶解度よりも低いイオン濃度が維持された結果、溶解が速く進行したことが考えられる。溶解-沈殿混合領域では、間隙表面は厚さ10 μmに及ぶ粘土鉱物で覆われ、間隙径が減少していた。コアから流出した溶液のイオン濃度から、流通試験中は継続的に粘土鉱物の沈殿が起こっていたことが示唆された。浸透率(k)は一般に、k = Cφr2の関係式で表現され、主に間隙率(φ)と間隙のくびれ径(r)によって支配される(Cは定数; Nishiyama and Yokoyama, 2017)。流通試験の前後で間隙率にほとんど変化がないことを踏まえると、浸透率低下の主な原因は、粘土鉱物沈殿に伴うくびれ径の減少であると考えられる。浸透率の減少速度は、差圧(流速)を変化させてもほとんど変化しなかった。これは、くびれ径の減少を引き起こした反応過程が表面反応律速で進行したことを示唆する。本講演では、様々な温度条件におけるCO2-水-岩石反応が浸透率に与える影響を比較し、浸透率の変化に対する温度や沈殿物の種類の影響を議論する予定である。
引用文献
Brown, D. W. (2000) Proceedings of the Twenty-fifth Workshop on Geothermal Reservoir Engineering, 233–238.
Matter, J. M. et al. (2016) Science, 352, 1312–1314.
Nishiyama, N. and Yokoyama, T. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 6955–6971.
試料には直径30 mm、長さ200 mmの玄武岩コアを用いた。試料の間隙率は33 %、浸透率は1.1 × 10−16–2.6 × 10−16 m2である。実験条件は温度200℃、間隙圧10 MPa、封圧11–15 MPaとした。流通試験では、200℃の熱水に対してCO2 (pCO2 = 10–14 MPa)を溶解させてCO2飽和溶解水を作成し、一定差圧をコアに付加して15–21日間流通させた。また、異なる差圧を付加することで流速を変化させ、反応と浸透率の関係に対する流速の効果を評価した。
CO2溶解水との反応の結果、浸透率は継続的に減少し、最大1/80まで低下した。一方、間隙率は増加したが、増加量は1 %未満であった。流通試験後のコアでは、上流から1 mmまでの範囲で斜長石、かんらん石、単斜輝石、ガラスが顕著に溶解し、最大50 μmサイズの間隙が形成されていた。さらに下流では反応様式が変化し、斜長石、かんらん石、ガラスの溶解によるマイクロメートルオーダーの間隙形成と、粘土鉱物の沈殿で特徴づけられる溶解-沈殿混合領域が形成されていた。コア上流部で溶解が顕著に進んだ原因として、各鉱物から溶出したイオンが移流によって効率的に洗い流され、各鉱物の溶解度よりも低いイオン濃度が維持された結果、溶解が速く進行したことが考えられる。溶解-沈殿混合領域では、間隙表面は厚さ10 μmに及ぶ粘土鉱物で覆われ、間隙径が減少していた。コアから流出した溶液のイオン濃度から、流通試験中は継続的に粘土鉱物の沈殿が起こっていたことが示唆された。浸透率(k)は一般に、k = Cφr2の関係式で表現され、主に間隙率(φ)と間隙のくびれ径(r)によって支配される(Cは定数; Nishiyama and Yokoyama, 2017)。流通試験の前後で間隙率にほとんど変化がないことを踏まえると、浸透率低下の主な原因は、粘土鉱物沈殿に伴うくびれ径の減少であると考えられる。浸透率の減少速度は、差圧(流速)を変化させてもほとんど変化しなかった。これは、くびれ径の減少を引き起こした反応過程が表面反応律速で進行したことを示唆する。本講演では、様々な温度条件におけるCO2-水-岩石反応が浸透率に与える影響を比較し、浸透率の変化に対する温度や沈殿物の種類の影響を議論する予定である。
引用文献
Brown, D. W. (2000) Proceedings of the Twenty-fifth Workshop on Geothermal Reservoir Engineering, 233–238.
Matter, J. M. et al. (2016) Science, 352, 1312–1314.
Nishiyama, N. and Yokoyama, T. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 6955–6971.
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