講演情報
[T10-P-10]断層すべりに伴う粉砕の影響を考慮したビトリナイト反射率温度計の開発
*北村 真奈美1、金木 俊也1、廣瀬 丈洋2 (1. 産業技術総合研究所、2. 海洋研究開発機構 高知コア研究所)
キーワード:
ビトリナイト反射率、断層すべり、南海トラフ、活性化エネルギー、粉砕
断層帯内部の摩擦発熱温度を評価することは、地震時の断層すべりの物理パラメータを推定するうえで重要である。例えば国際深海科学掘削計画(IODP)南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)にて紀伊半島沖のSite C0004地点から採取された分岐断層先端のコア試料から、断層帯内部で顕著に高いビトリナイト反射率が検出され、地震時の高速すべりによって同断層が経験した最高温度は390℃であると推定された(Sakaguchi et al., 2011)。これまでにビトリナイトを含む模擬断層ガウジを用いた地震時の高速断層すべり運動を模擬した摩擦実験から、十数秒程度の地震性すべりに伴う摩擦発熱によりビトリナイト反射率は顕著に上昇することが確認されている(例えば、Kitamura et al., 2012)。しかし、従来地質体の被熱履歴の推定に使用されてきたEASY%Roモデル(Sweeney and Burnham, 1990)では、このような短時間加熱による断層帯内部のビトリナイト反射率の上昇は説明できなかった(例えばKitamura et al., 2012)。EASY%Roモデルでは、ビトリナイト粒子の複雑な熟成過程が、アレニウスの式に従う複数の一次反応の線形結合として表現されている。その活性化エネルギーは反応要素ごとに固有の定数とされている一方、いくつかの先行研究では粉砕によって反応時の活性化エネルギーが数十%程度低下しうることが報告されている。例えば、回転剪断摩擦試験後のイライト粉末を用いた熱分析の結果から、摩擦仕事の増加に伴ってイライトの脱水反応の活性化エネルギーが最大で26%減少することが報告されている(Hirono et al., 2013)。また、ミル粉砕後の炭質物を用いた加熱実験により、炭質物は粉砕に伴って成熟しやすくなることもわかっている(Kaneki et al., 2018)。よって、ビトリナイト粒子の熟成反応においても、粉砕に伴う摩擦仕事の増加によって活性化エネルギーが減少することが期待される。本研究では、以上のことを考慮し、地震性断層すべりを再現した実験を基に、断層すべりに伴う粉砕の影響を考慮したビトリナイト反射率温度計(以下、断層用モデル)の開発を試みた。
断層用モデルでは、EASY%Roモデルにおける活性化エネルギーを摩擦仕事の関数とし、特徴的仕事でもって下限値まで指数関数的に減少すると仮定した。断層用モデルで新たに導入された定数は、活性化エネルギーの下限値を決定する係数と特徴的仕事の二つであり、その他の定数の値および微分方程式の形はEASY%Roモデルと同様である。これら二つの定数に関するパラメータスタディの結果、粘土鉱物の脱水反応における値と矛盾しないパラメータ範囲において、地震性断層すべりを再現した実験後試料中のビトリナイト反射率の上昇をある程度説明できることがわかった。パラメータスタディから得られた活性化エネルギーの下限値を決定する係数と特徴的仕事の最適値を用いたモデル計算の結果、最高摩擦発熱温度が250℃以下の地震性断層すべりを最大で20回程度繰り返すことでSakaguchi et al. (2011)で報告された南海トラフの分岐断層内部におけるビトリナイト反射率の上昇を説明できることがわかった。この結果は、分岐断層帯内部の微量元素の濃度異常から断層帯の摩擦発熱温度が250℃以下であると推定した結果(Hirono et al., 2014)と矛盾しない。
参考文献:Hirono et al. (2013) GRL, vol. 40、Hirono et al. (2014) Tectonophysics, vol. 626、Kaneki et al. (2018) GRL, vol. 45、Kitamura et al. (2012) GRL, vol. 39、Sakaguchi et al. (2011) Geology, vol. 39、Sweeney and Burnham (1990) AAPG Bulletin, vol. 74
断層用モデルでは、EASY%Roモデルにおける活性化エネルギーを摩擦仕事の関数とし、特徴的仕事でもって下限値まで指数関数的に減少すると仮定した。断層用モデルで新たに導入された定数は、活性化エネルギーの下限値を決定する係数と特徴的仕事の二つであり、その他の定数の値および微分方程式の形はEASY%Roモデルと同様である。これら二つの定数に関するパラメータスタディの結果、粘土鉱物の脱水反応における値と矛盾しないパラメータ範囲において、地震性断層すべりを再現した実験後試料中のビトリナイト反射率の上昇をある程度説明できることがわかった。パラメータスタディから得られた活性化エネルギーの下限値を決定する係数と特徴的仕事の最適値を用いたモデル計算の結果、最高摩擦発熱温度が250℃以下の地震性断層すべりを最大で20回程度繰り返すことでSakaguchi et al. (2011)で報告された南海トラフの分岐断層内部におけるビトリナイト反射率の上昇を説明できることがわかった。この結果は、分岐断層帯内部の微量元素の濃度異常から断層帯の摩擦発熱温度が250℃以下であると推定した結果(Hirono et al., 2014)と矛盾しない。
参考文献:Hirono et al. (2013) GRL, vol. 40、Hirono et al. (2014) Tectonophysics, vol. 626、Kaneki et al. (2018) GRL, vol. 45、Kitamura et al. (2012) GRL, vol. 39、Sakaguchi et al. (2011) Geology, vol. 39、Sweeney and Burnham (1990) AAPG Bulletin, vol. 74
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