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[T13-P-4]全結合ニューラルネットワークを用いた混濁流の平面2次元逆解析モデルの実験的検証

*藤島 誠也1、成瀬 元1 (1. 京都大学理学研究科)
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キーワード:

混濁流、逆解析、ニューラルネットワーク

混濁流は,陸域から深海底へ土砂を運搬する主要なプロセスの1つであり,海底に土砂を堆積させることによって海底扇状地と呼ばれる大規模な海底地形を形成する.海底扇状地の形状の特徴は混濁流の水理条件によって大幅に変化することが知られている(Wahab et al., 2022).しかし,実際に海底扇状地を発達させた過去の混濁流から古水理条件を知ることは一般に困難である.そこで,近年,ディープニューラルネットワークを用いることで計算負荷を下げた,混濁流の1次元逆解析手法が提案された(Naruse and Nakao, 2021).この手法は実験スケールの混濁流の水理条件をよく復元することが示されている(Cai and Naruse, 2021).この混濁流1次元逆解析モデルは,海底谷や海底チャネルのような側方に制限のある地形を流れる混濁流を解析することに適した手法である.一方で,深海平原などの側方に広がりをもつ地形を流れる混濁流に適用することはできない.このような地形条件での混濁流の水理条件を推定するためには,平面2次元フォワードモデルを採用した逆解析を行う必要がある.
そこで,本研究では,ニューラルネットワークを用いた混濁流の平面2次元逆解析モデルを構築し,水槽実験結果を用いて逆解析モデルの性能検証を行った.まず,様々な計算条件のもとで混濁流の数値計算を行い,計算条件とそれに対応するタービダイト層厚と粒度分布を保持した訓練データを作成する.作成した訓練データを用いてニューラルネットワークの訓練を行い,計算条件と層厚分布・粒度分布との関係をニューラルネットワークに学習させる.これにより,タービダイトの層厚分布・粒度分布を入力すると計算条件を返す逆解析モデルを構築した.
本研究では,訓練データセットを作成するための数値モデルとしてturb2dを改良したものを採用した.このモデルでは混濁流の乱流運動エネルギー保存則(Parker et al., 1986)が考慮されているが,新たに,流れの界面が浮遊粒子沈降に伴って低下するdetrainment効果も新たに考慮するようにモデルを修正した.モデル計算にあたっては,底面摩擦係数は0.004とし,底面近傍濃度と層平均濃度の比は2.0に設定した.ニューラルネットワークは,各分析地点における各粒径階ごとの面積あたり堆積量を入力値として受け取り,2層の隠れ層を経て,出力層から流入口での流速・浮遊砂濃度・流れの厚さ・流れの継続時間が出力されるように設計した.損失関数は平均ニ乗誤差とし,重み係数の最適化手法としてはAdagradを採用した.
訓練データとは独立に生成した人工データを用いて,逆解析モデルの性能評価を行ったところ,計算条件をよく推定できた.さらに,水槽実験結果に平面2次元逆解析モデルを適用し,得られた計算条件をもとに数値計算を行い,タービダイト層厚および浮遊砂濃度,流速,流れの厚さ,流れの継続時間の実測値と計算値を比較した.その結果,水槽実験で得られたチャネル・レビー状の地形を再現することができた.また,浮遊砂濃度が小さいものは相対誤差が大きかったが,それ以外の流速,浮遊砂濃度,流れの厚さ,流れの継続時間は,計算値と推定値の相対誤差が100%以内であり,よく推定することができた.今後は,2次元逆解析モデルを既存の水槽実験結果を用いて性能検証を進めること,フィールドのタービダイトへの適用を行う予定である.
引用文献
Cai, Z., & Naruse, H. (2021). Journal of Geophysical Research: Earth Surface, 126(8), e2021JF006276.
Naruse, H., & Nakao, K. (2021). Earth Surface Dynamics, 9(5), 1091-1109.
Parker, G. et al. (1986). Journal of Fluid Mechanics, 171, 145-181.
Wahab, A. et al. (2022). Nature Communications, 13(1), 7563.

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