講演情報

[T13-P-7]男鹿半島一ノ目潟の年縞堆積物に挟まれるイベント堆積層の対比

*永田 篤規1、梶田 展人1、安藤 卓人2、箕輪 昌紘3、梅田 浩司1 (1. 弘前大学、2. 秋田大学、3. 北海道大学)
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【ハイライト講演】本ポスター発表では,年縞堆積物が形成されうる好条件下にある一ノ目潟の湖底から採取されたコア試料を分析し,年縞に挟まれた4つのイベント層を認定している.そして年縞から推定される年代から,それらを形成した要因たる地震や大雨災害を特定している.適用できる場所は限定されるが,自然災害の履歴をより詳細に解明する手法として注目したい.(ハイライト講演とは...)

キーワード:

一ノ目潟、タービダイト、イベント堆積物

周辺の植生や地質,湖の水文・生物学的な季節変動を反映させながら一年毎に形成される年縞を含んだ堆積物には,集水域及び湖内の環境変遷史が精密に記録されている.さらに,年縞堆積物には地震や大雨・洪水イベントに起因するタービダイトやホモジナイト,MTD(Mass transport deposit)が挟在する場合があり,これらは過去の自然災害に起因する可能性がある.ただし連続的な年縞堆積物が形成されるには,季節毎に異なる堆積プロセスが存在していること,湖底の生物擾乱が少ないこと,湖盆が沈降場であることなど,幾つかの条件が必要であり,それらを満たす湖沼は非常に限られている.また,イベント堆積物のトリガーとなった災害の種類を特定することも困難である.そのため,湖沼の年縞堆積物に挟在するイベント堆積物から,過去に発生した地震・大雨災害の規模や発生周期の復元を成し遂げた研究例は少ない.
  男鹿半島に位置する一ノ目潟は,マグマ水蒸気爆発により形成されたマール(爆裂火口)に水が溜まって形成された湖沼であり,面積(直径600mの円形)に対して水深(最大水深45m)が深く,湖底は鍋底状の平坦な形状をしている.この特徴が底層における無酸素の水塊を生み出していると考えられ,湖底の堆積物には年縞がよく保存されている.一ノ目潟の年縞は,春から夏にかけて堆積する珪藻ブルームを主体とした明色層と,夏の終わりから冬期に堆積する陸源性の砕屑物質(非晶質物質,葉片など)に富む暗色層から構成されていること(山田ほか2014, 月刊地球),また,そのように形成された年縞が少なくとも過去3万年分堆積していることが明らかにされている(Okuno et al., 2011, Quat.Int.).本研究では一ノ目潟の年縞による年代軸を基にして,堆積物コア中に挟まれているイベント層を,過去に男鹿半島を襲った地震・大雨災害と対応させることを試みた.
  堆積物コアの採取は2度に渡って実施した.1回目の調査は2023年11月上旬に行い,一ノ目潟の最深部やや北側の湖底から32.5cmの堆積物コアを採取し,層相観察および年縞の本数を計測した(永田ほか2024, JpGU).過去に一の目潟から採取されたコアと対比した結果,年縞が現在も1年毎に形成されていることが判明した.さらに,採取したコアの中に,年縞部分とは層相が異なる4つのイベント層(E1,E2,E3,E4)を認定した.これらの結果と秋田県の災害年表を照合することで,E1,E2,E3,E4がそれぞれ1983年日本海中部地震,1979年の大雨イベント,1964年男鹿半島沖地震,1955年の大雨イベントに対応していると解釈した.年縞層とイベント層について粒度分析を行った結果,両者では粒度分布が大きく異なっており,イベント層ごとにも違いが見られた.地震に起因すると考えられるE1とE3と,大雨に起因すると考えられるE2とE4では,粒度分布が異なっていた.さらに,イベント層の供給源を特定するため,湖底斜面の表層堆積物や,一ノ目潟に流入する河川の河床堆積物の粒度分析を行った.その結果,地震によるイベント層と湖底斜面の表層堆積物,大雨によるイベント層と流入河川に含まれる砕屑物で,それぞれ粒度分布が類似していた.
  2回目の調査は2024年6月中旬に行い,湖の最深部から39.5cm,湖に流入する人工的な小規模河川付近(最深部より南側)の湖底から37.0cmの堆積物コアを採取した.また,湖底地形図の取得を行った.今回の発表では,これまでに採取した計3本のコアの対比結果を報告する.イベント層の空間的分布を明らかにすることで,成因毎に異なるイベント層の堆積プロセスを堆積層から判定ですることを目指している.これにより,一ノ目潟の長尺堆積物コア(Okuno et al., 2011, Quat.Int.)から,過去3万年にわたって地震や大雨などの自然災害の履歴を復元できるようになると考えられる.

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