講演情報
[T15-P-7]ニュージーランド北島Arrow Rocks島Permian-Triassic境界層におけるPAHs含有量分析と含有微化石の検討
*荻原 誉1、堀 利栄1、池原 実2、山北 聡3、竹村 厚司4、相田 吉昭5、高橋 聡6 (1. 愛媛大学大学院理工学研究科、2. 高知大学海洋コア国際研究所、3. 宮崎大学教育学部、4. 兵庫教育大学、5. 宇都宮大学農学部、6. 名古屋大学環境学研究科)
キーワード:
P-T境界、OAEs、Arrow Rocks島、多環芳香族炭化水素(PAHs)
[はじめに]ペルム紀末(約252Ma)の大量絶滅が記録されているPermian-Triassic(P-T)境界層では,海洋無酸素イベント(OAEs)の存在や陸上植物などの高温燃焼により生成されるCoroneneやPhenanthrene,Benzo[a]pyrene,Benzo[e]pyrene,Benzo[ghi]peryleneなどの多環芳香族炭化水素(PAHs)が検出され,火山噴火などを裏付けるデータが報告されている.しかし,これらの研究は北半球の地層において実施されており,南半球のP-T境界層の研究は少ない.本研究では全球的なP-T境界イベントの解明を進めるため,ニュージーランド北島Arrow Rocks島に分布する当時の南半球中-高緯度で形成された遠洋深海堆積岩層中のP-T境界層のPAHs分析を行った.Arrow Rocks島のP-T境界層では有機物に富むOAEs(OAEα,OAEβ,OAEγ)が下部三畳系に識別されており,OAEαはP-T境界付近,OAEβはDienerian中頃に発生したと報告されている(ex. Hori et al.,2007).また,Arrow Rocks島の遠洋深海堆積層が形成された海洋では,放散虫がP-T境界で絶滅せず三畳紀前期まで生き残っていることが報告されている(Takemura et al.,2007).
[分析試料]Arrow Rocks島に産するP-T境界層を学際的に検討したTakemura et al.(2007)の層序断面のうち,ARF,ARG,ARH,ARB,YSC Sectionの試料を用い,上部ペルム系から下部三畳系の層状チャート試料14試料のPAHs分析と5試料の薄片観察を行った.分析層準は,ペルム系最上部と下部三畳系の3つのOAEs前後の層準である.OAEβの層準ではペルム紀型の放散虫が三畳紀型へ移り変わるのが報告されている(Kamata et al.,2007; Takemura et al.,2007).
[研究手法]PAHs分析は高知大学海洋コア国際研究所の機器を使用した(共同利用23A041・23B036).変質部分を取り除いた岩石試料を粉体化した分析試料をASE-350(高速溶媒抽出装置)にかけて有機物を抽出し,シリカゲルクロマトグラフィーを使用して有機物を分離した後,GC-MSD(ガスクロマトグラフ質量分析器)を使用して含有する有機物を分析した.
[結果]PAHs分析の結果,OAEβの黒色チャートからCoroneneやPhenanthrene,Benzo[a]pyrene,Benzo[ghi]peryleneが,OAEαやOAEβの暗灰色チャート,P-T境界直下の淡緑色チャートからPhenanthreneやBenzo[a]pyrene,Benzo[ghi]peryleneが,OAEγからPhenanthreneが検出された.定量計算の検討を行えたのはOAEβの黒色チャートと暗灰色チャートであり,OAEβの黒色チャートがCoronene 1.98ng/g,Phenanthrene 1.85ng/g,Benzo[a]pyrene 3.68ng/g,Benzo[ghi]perylene 2.46ng/g,暗灰色チャートがPhenanthrene 2.17ng/g,Benzo[a]pyrene 1.96ng/gであった.薄片観察を行った結果,OAEβの黒色チャートから陸上植物片が観察され,黒色チャートや暗灰色チャートから先行研究(Hori and Ikehara,2007)と同様に,藻類やアクリタークの化石も確認できた.
[考察]三畳系下部のOAEβでは陸上植物片が観察され,1200℃以上の陸上植物の高温燃焼により生成されるCoroneneが検出された.Chapman et al.(2021)やMays and Mcloughlin(2022)の三畳紀前期ゴンドワナ大陸で火山噴火や森林火災が頻繁に発生していたという報告から,OAEβで検出されたPAHsは火山噴火による陸上植物の高温燃焼により生成された可能性が高いと考えられる.また一部のPAHsは,水生生物に対して強い毒性を示すことが知られている.環境省(2006)は,Benzo[a]pyreneの毒性を,甲殻類に対する96時間における半数致死濃度が5㎍/Lであると報告している.この濃度は黒色チャート中のBenzo[a]pyreneの存在量と近い値を示している.よって,黒色チャート中から検出されたBenzo[a]pyreneは,当時の海洋に生息していた放散虫に何らかの影響を与え,ペルム紀型から三畳紀型への移り変わりの要因の一つとなった可能性も考えられる.
引用文献:Chapman et al.(2021)Research Square,1-15. Hori and Ikehara(2007)GNS Science,24,117-121. Hori et al.(2007)GNS Science,24,123-156. Kamata et al.(2007)GNS Science,24,109-116. 環境省(2006)化学物質の環境リスク評価,第5巻. Mays and Mcloughlin(2022)PALAIOS,00,1-26. Takemura et al.(2007)GNS Science,24,87-95,97-107.
[分析試料]Arrow Rocks島に産するP-T境界層を学際的に検討したTakemura et al.(2007)の層序断面のうち,ARF,ARG,ARH,ARB,YSC Sectionの試料を用い,上部ペルム系から下部三畳系の層状チャート試料14試料のPAHs分析と5試料の薄片観察を行った.分析層準は,ペルム系最上部と下部三畳系の3つのOAEs前後の層準である.OAEβの層準ではペルム紀型の放散虫が三畳紀型へ移り変わるのが報告されている(Kamata et al.,2007; Takemura et al.,2007).
[研究手法]PAHs分析は高知大学海洋コア国際研究所の機器を使用した(共同利用23A041・23B036).変質部分を取り除いた岩石試料を粉体化した分析試料をASE-350(高速溶媒抽出装置)にかけて有機物を抽出し,シリカゲルクロマトグラフィーを使用して有機物を分離した後,GC-MSD(ガスクロマトグラフ質量分析器)を使用して含有する有機物を分析した.
[結果]PAHs分析の結果,OAEβの黒色チャートからCoroneneやPhenanthrene,Benzo[a]pyrene,Benzo[ghi]peryleneが,OAEαやOAEβの暗灰色チャート,P-T境界直下の淡緑色チャートからPhenanthreneやBenzo[a]pyrene,Benzo[ghi]peryleneが,OAEγからPhenanthreneが検出された.定量計算の検討を行えたのはOAEβの黒色チャートと暗灰色チャートであり,OAEβの黒色チャートがCoronene 1.98ng/g,Phenanthrene 1.85ng/g,Benzo[a]pyrene 3.68ng/g,Benzo[ghi]perylene 2.46ng/g,暗灰色チャートがPhenanthrene 2.17ng/g,Benzo[a]pyrene 1.96ng/gであった.薄片観察を行った結果,OAEβの黒色チャートから陸上植物片が観察され,黒色チャートや暗灰色チャートから先行研究(Hori and Ikehara,2007)と同様に,藻類やアクリタークの化石も確認できた.
[考察]三畳系下部のOAEβでは陸上植物片が観察され,1200℃以上の陸上植物の高温燃焼により生成されるCoroneneが検出された.Chapman et al.(2021)やMays and Mcloughlin(2022)の三畳紀前期ゴンドワナ大陸で火山噴火や森林火災が頻繁に発生していたという報告から,OAEβで検出されたPAHsは火山噴火による陸上植物の高温燃焼により生成された可能性が高いと考えられる.また一部のPAHsは,水生生物に対して強い毒性を示すことが知られている.環境省(2006)は,Benzo[a]pyreneの毒性を,甲殻類に対する96時間における半数致死濃度が5㎍/Lであると報告している.この濃度は黒色チャート中のBenzo[a]pyreneの存在量と近い値を示している.よって,黒色チャート中から検出されたBenzo[a]pyreneは,当時の海洋に生息していた放散虫に何らかの影響を与え,ペルム紀型から三畳紀型への移り変わりの要因の一つとなった可能性も考えられる.
引用文献:Chapman et al.(2021)Research Square,1-15. Hori and Ikehara(2007)GNS Science,24,117-121. Hori et al.(2007)GNS Science,24,123-156. Kamata et al.(2007)GNS Science,24,109-116. 環境省(2006)化学物質の環境リスク評価,第5巻. Mays and Mcloughlin(2022)PALAIOS,00,1-26. Takemura et al.(2007)GNS Science,24,87-95,97-107.
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