講演情報
[T15-P-12]鹿児島県種子島北部および中部に分布する熊毛層群の赤色泥岩から産出した放散虫化石
*菊川 照英1、辻林 恭祐2、相田 吉昭3 (1. 千葉県立中央博物館、2. 千葉県立中央博物館 市民研究員、3. 宇都宮大学)
キーワード:
放散虫、始新世、古第三紀、付加体、門倉岬層
【はじめに】
鹿児島県種子島,馬毛島および屋久島には熊毛層群(半沢,1934)と呼ばれる海成古第三系が分布し,西南日本外帯の四万十帯南帯を構成する付加体とその被覆層として九州本土の日向層群や日南層群に対比されてきた(例えば,川辺ほか,2004;斎藤,2022).種子島に分布する熊毛層群は前期始新世から前期漸新世の地層群で構成され,下位から立石層,門倉岬層,西之表層と区分・命名されている(岡田ほか,1982).これら地層群の境界はNE-SW走向の逆断層によって接し,一部を除いて各々の累重関係を直接観察することはできないとされ,詳細な微化石年代学的データにもとづく層序や地質構造の検証作業は十分行われてこなかった.
最近,菊川ほか(2018)は西之表層の模試地を含む西之表断層以北に分布する西之表層の層序や地質構造,地質年代に関する詳細な検討を行なった.さらに菊川ほか(印刷中)では,詳細な地質調査と放散虫化石年代にもとづき,種子島北部において従来門倉岬層が分布するとされてきた一部地域において,実際には西之表層が分布することを明らかにした.これらから,熊毛層群の分布域や地質構造は従来言及されてきたよりも遥かに複雑であり,本層群の地質を明らかにするためには,本島北部だけでなく中部や南部においても詳細な地質調査と微化石年代による地質の再検討が必要であることが分かってきた.
【試料と結果】
これらの背景から筆者らは,西之表断層以南の種子島中部に分布する熊毛層群の地質調査を行い,泥岩試料から放散虫化石を抽出することで地質年代を検討し,本島北部に分布する熊毛層群との層位的関係を明らかにすることを目的として研究を行なってきた.本講演では,種子島中部の西海岸部と内陸部から新たに採取した計48層準48個の灰色及び赤色泥岩試料を検討した結果について報告する.
放散虫化石の抽出にはフッ化水素酸溶液を用いた.結果,赤色泥岩7試料から放散虫化石が産出した.これらのうち隣接する層準から採取した2試料からは種レベルで同定可能な放散虫化石が産出した.保存状態は悪いものの,Amphisphaera? sp., Calocycloma? sp., Dorcadospyris sp., Lophocyrtis sp., Theocorys cf. anaclasta s.l., Theocotyle cf. cryptocephala, Theocotyle sp., Theocotylissa cf. ficus, Theocyrtis sp.といった放散虫化石が産出した.
【考察】
T. ficusは放散虫化石帯RP8〜RP16帯,T. cryptocephalaは放散虫化石帯RP10〜RP11帯までの期間にその生存が知られている(Nigrini et al., 2006; Kamikuri et al., 2012).T. anaclasta s.l.は放散虫化石帯RP9〜RP12帯にその生存期間が知られている(Kamikuri et al., 2012).これらの共産から考えられる地質年代は中期始新世の前期(放散虫化石帯RP10〜RP11帯)に相当すると現段階では判断される.
種子島北部の門倉岬層中の赤色泥岩からはDictyoprora mongolfieli, D. armadillo, T. ficusといった放散虫化石が産出し,その年代は中期始新世の後期(放散虫化石帯RP16帯に相当)と考えられる(菊川ほか,印刷中).従って,本試料を採取した赤色泥岩は種子島北部の赤色泥岩の下位層準にあたる可能性がある.しかしながら,先述したように本試料に含まれる放散虫化石個体は保存状態が悪く,種数も非常に少ないことから年代決定の精度は高いとはいえない.今後,本島北部と中部の地層の層位関係を明らかにするとともに年代決定の精度を高めるためにも,さらなる試料の検討や地質調査が必要である.
【参考文献】
半沢,1934,地質雑,41,408-410.
Kamikuri et al., 2012, Stratigraphy, 9, 77-108.
川辺ほか,2004,20万分の1地質図幅 「開聞岳及び黒島の一部」.
菊川ほか,2018,地質雑,124,313-329.
菊川ほか,印刷中,地質雑.
Nigrini et al., 2006, Proc. ODP, Sci. Results, 199, 1-76.
岡田ほか,1982,大阪微化石研究会誌特別号,5,409-413.
斎藤,2022,日本列島地質総覧:地史・地質環境・資源・災害,337-349.
鹿児島県種子島,馬毛島および屋久島には熊毛層群(半沢,1934)と呼ばれる海成古第三系が分布し,西南日本外帯の四万十帯南帯を構成する付加体とその被覆層として九州本土の日向層群や日南層群に対比されてきた(例えば,川辺ほか,2004;斎藤,2022).種子島に分布する熊毛層群は前期始新世から前期漸新世の地層群で構成され,下位から立石層,門倉岬層,西之表層と区分・命名されている(岡田ほか,1982).これら地層群の境界はNE-SW走向の逆断層によって接し,一部を除いて各々の累重関係を直接観察することはできないとされ,詳細な微化石年代学的データにもとづく層序や地質構造の検証作業は十分行われてこなかった.
最近,菊川ほか(2018)は西之表層の模試地を含む西之表断層以北に分布する西之表層の層序や地質構造,地質年代に関する詳細な検討を行なった.さらに菊川ほか(印刷中)では,詳細な地質調査と放散虫化石年代にもとづき,種子島北部において従来門倉岬層が分布するとされてきた一部地域において,実際には西之表層が分布することを明らかにした.これらから,熊毛層群の分布域や地質構造は従来言及されてきたよりも遥かに複雑であり,本層群の地質を明らかにするためには,本島北部だけでなく中部や南部においても詳細な地質調査と微化石年代による地質の再検討が必要であることが分かってきた.
【試料と結果】
これらの背景から筆者らは,西之表断層以南の種子島中部に分布する熊毛層群の地質調査を行い,泥岩試料から放散虫化石を抽出することで地質年代を検討し,本島北部に分布する熊毛層群との層位的関係を明らかにすることを目的として研究を行なってきた.本講演では,種子島中部の西海岸部と内陸部から新たに採取した計48層準48個の灰色及び赤色泥岩試料を検討した結果について報告する.
放散虫化石の抽出にはフッ化水素酸溶液を用いた.結果,赤色泥岩7試料から放散虫化石が産出した.これらのうち隣接する層準から採取した2試料からは種レベルで同定可能な放散虫化石が産出した.保存状態は悪いものの,Amphisphaera? sp., Calocycloma? sp., Dorcadospyris sp., Lophocyrtis sp., Theocorys cf. anaclasta s.l., Theocotyle cf. cryptocephala, Theocotyle sp., Theocotylissa cf. ficus, Theocyrtis sp.といった放散虫化石が産出した.
【考察】
T. ficusは放散虫化石帯RP8〜RP16帯,T. cryptocephalaは放散虫化石帯RP10〜RP11帯までの期間にその生存が知られている(Nigrini et al., 2006; Kamikuri et al., 2012).T. anaclasta s.l.は放散虫化石帯RP9〜RP12帯にその生存期間が知られている(Kamikuri et al., 2012).これらの共産から考えられる地質年代は中期始新世の前期(放散虫化石帯RP10〜RP11帯)に相当すると現段階では判断される.
種子島北部の門倉岬層中の赤色泥岩からはDictyoprora mongolfieli, D. armadillo, T. ficusといった放散虫化石が産出し,その年代は中期始新世の後期(放散虫化石帯RP16帯に相当)と考えられる(菊川ほか,印刷中).従って,本試料を採取した赤色泥岩は種子島北部の赤色泥岩の下位層準にあたる可能性がある.しかしながら,先述したように本試料に含まれる放散虫化石個体は保存状態が悪く,種数も非常に少ないことから年代決定の精度は高いとはいえない.今後,本島北部と中部の地層の層位関係を明らかにするとともに年代決定の精度を高めるためにも,さらなる試料の検討や地質調査が必要である.
【参考文献】
半沢,1934,地質雑,41,408-410.
Kamikuri et al., 2012, Stratigraphy, 9, 77-108.
川辺ほか,2004,20万分の1地質図幅 「開聞岳及び黒島の一部」.
菊川ほか,2018,地質雑,124,313-329.
菊川ほか,印刷中,地質雑.
Nigrini et al., 2006, Proc. ODP, Sci. Results, 199, 1-76.
岡田ほか,1982,大阪微化石研究会誌特別号,5,409-413.
斎藤,2022,日本列島地質総覧:地史・地質環境・資源・災害,337-349.
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン