講演情報

[T3-O-3]文化財を教材とした南九州の地学教育 ~特に熊本地震に注目して~

*坂本 昌弥1 (1. 九州ルーテル学院大学)
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キーワード:

文化財、理科教育、郷土教育、熊本地震、天然記念物

文化財保護法等では,地質に関連する指定文化財の指定根拠として「地質鉱物のうち学術上貴重で,我が国の自然を記念するもの」としている.これにより国・都道府県及び市町村から文化財として指定を受けた物件は,後世へ永続的に継承していくため,社会全体でさまざまな保護に係る方策が執り行われることになる(文化庁,2022).具体的には,法に基づき各教育委員会等を中心とした行政やさまざまな団体,所有者や個人有志らによって必要な経費が負担され,その保全及び活用が積極的に図られる.一般的に文化財の保全・活用は,各自治体が設置している教育委員会の一部課(文化財課,生涯学習課等)が所管している.そのため学校教育で活用しやすい環境にあり,指定天然記念物等に係る専門知識が少ない学校教員であっても,地域に存在する指定文化財の学術的価値や特徴を把握・理解しやすい状況にある.それゆえ文化財は小・中・高の学習教材として活用できる場合が多く,また地域特有の自然や景観を示すため,総合的な学習(探究)の時間等でも児童・生徒の郷土研究に活用できる素材であるものが多い.本研究は,熊本県及び鹿児島県における国及び県指定の地学系指定文化財に着目し,その教育的利用価値について考察するものである.なかでも熊本県における「布田川断層帯」が,2018年2月に国指定天然記念物とされ,今後永続的に保存・活用されることの意義について述べる.熊本地震が,どの程度社会で記憶されているかを概観するために,google trendによる地震発生時(2016/4/14)から最近(2024/4/30)までの検索数推移を調査すると,2016年4月16日時点の「熊本地震」というキーワードの検索数を100とした場合,1年後の2017年4月では4, 3年目以降は1以下と,大きく減少する.比較的減少率の少ない東日本大震災等と比べ,熊本地震は今後も数多く発生する自然災害の中で,人々の記憶から忘れ去られる可能性が高い災害と考えられるかもしれない.ゆえに熊本地震等の局所的自然災害は,その地域で伝承していく強い努力と堅固なシステムづくりが必要である.文化審議会(文化庁,2017)は,布田川断層帯を文化財として「これらの断層は,平成28年熊本地震で生じた多様な断層の運動と連続性を現わしており,学術上価値が高く,地震の被害を将来に伝える災害遺構としても貴重である.」と価値づけしている.それゆえこの文化財の保存・活用については,文化審議会によってなされた価値づけをよりよく表現することが望まれる.布田川断層帯に限らず,初等・中等理科教育で地層・地震・防災分野及び環境変化に伴う植生の変化等を学習する際,市町村指定文化財も含めると,教材化でき得る物件は全国に広く存在する.また未指定の場合であっても石碑や伝承といった形で地域において保全・活用されている場合も多く,これらは学習指導要領に沿い,郷土に根ざした極めて特色のある教材となり得る素材であると考えられるが,現在,こうした文化財を活用した理科教育研究例も数少ない状況であり(例えば,上田ほか,2016),また小・中学校で積極的に教育活用している実践例もほとんどない.
【引用文献】
文化庁(2017):史跡等の指定等について.(最終閲覧日:2018/11/10,http://www.bunka.go.jp/).
文化庁(2022):記念物の保護のしくみ.(最終確認日,2023/1/23.https://www.bunka.go.jp/)
上田髙嘉・深田陽平・岡戸陽子・滝沢宏之・飯郷雅之・松田 勝(2016):理科教育および環境教育における教材としてのミヤコタナゴ.宇都宮大学教育学部研究紀要,66,pp.13-19.

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