講演情報
[G1-O-1]熊本県阿蘇火山山麓に分布するアースフロー堆積物の14C年代
*西山 賢一1、鳥井 真之2 (1. 徳島大学大学院社会産業理工学研究部、2. 熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター 減災型社会システム部門)
キーワード:
斜面崩壊、アースフロー、土石流、阿蘇火山、熊本地震
1.はじめに 斜面崩壊・土石流の発生年代を推定することは,長期的な斜面防災や,渓流の砂防計画,さらには国土の安全な土地利用にとって重要な基礎資料となる.本研究では,2016年熊本地震で多様な斜面災害が発生した熊本県阿蘇火山を対象とし,2016年熊本地震でアースフローが流下した山王谷川の流域に残存する古い崩壊堆積物から古土壌を採取し,14C年代測定を実施したので報告する.
2.対象地域の地形・地質と崩壊の誘因 対象とした阿蘇火山では,2016年熊本地震により,多数の斜面崩壊・地すべりと,それに起因するアースフローが発生した.崩壊が多発した地質は,後カルデラ火山体では阿蘇火山の噴出物(テフラ層ならびに古土壌)を主体とし,カルデラ斜面ではそれらに加え,カルデラ形成前の先阿蘇火山岩類の崩壊も発生した.また,熊本地震の約2か月後の2016年6月には,総雨量500mmに達する記録的豪雨に伴う斜面崩壊と土石流も発生した.
3.分析試料の採取と年代測定 分析用試料の採取位置は,2016年熊本地震で発生した崩壊土砂が流下した阿蘇火山西部を流れる山王谷川の側壁斜面(露頭)である.山王谷川では,熊本地震により発生した斜面崩壊起源のアースフロー堆積物が河道を一部で越流して堆積した.その後,2016年6月の豪雨時には土石流が発生し,熊本地震で堆積していた河道のアースフロー堆積物を一掃した.山王谷川上流部に露出している堆積物の記載を行うとともに,堆積物中から古土壌を抽出した.得られた試料は㈱加速器分析研究所に依頼し,AMSによる14C年代測定を行った.δ13Cにより同位体分別効果を補正して得られた14C年代(BP)を得て,暦年(cal BP)に較正した.暦年較正にはIntCal20データセットを用い,OxCalv4.4較正プログラムを利用した.較正した暦年は2σの範囲で表示した.
4.試料採取地点の地質と年代値 試料を採取した地点の地質と得られた年代値について,以下にまとめる.堆積物は上位から,2016年熊本地震に伴うアースフロー堆積物(厚さ1m程度,整地のため正確な値は不明),径1mを超える安山岩やアグルチネートの角礫を含む角礫層(厚さ1.2m以上,上限は整地されているため不明),テフラを3枚挟在するローム層(厚さ3m以上),アースフロー堆積物(厚さ2m以上,下限不明),が確認できる.ローム層の最上部は黒色土壌を呈する.ローム層に挟在する3枚のテフラは,上位から,厚さ5cmの細粒スコリア層,厚さ8cmの細粒火山灰層,厚さ10cmの細粒バブルガラス質火山灰層である.これらのテフラの屈折率測定を実施していないが,テフラの層相と,後述の古土壌の年代値とを考慮すると,上位から,OjS(往生岳スコリア),KsS(杵島岳スコリア),K-Ah(鬼界アカホヤ)に対比可能と考えられる. アースフロー堆積物は,安山岩礫をほとんど含まず,テフラまたはローム層をばらけた状態で含む層相を呈する.レンズ状を呈する黒色土層や,径1~3cmの軽石・スコリア片などを雑多に含む.層理面や成層構造は一般に不明瞭であるが,まれにレンズ状の細礫層を伴うことがある.また,黒色土層に富む部分と,少ない部分とが存在する.一方,角礫層は,径1mを超える角礫を伴い,下位のローム層との境界には侵食痕が認められることがある. ローム層最上部から得られた古土壌の14C年代測定結果は,2σの範囲で最も確率が高い暦年値は1600-1514 cal BP (81.2%)となった.
5.堆積時期の推定と誘因の識別 ローム層最上部の14C年代値と,挟在するテフラに基づけば,最上部の角礫層の堆積年代は,上記の古土壌の年代値より新しく,ほぼ古墳時代以降~2016年までの間となる.また,ローム層の下部にはK-Ahと思われるバブルガラスを多く含む火山灰が挟在するため,ローム層より下位に位置するアースフロー堆積物は,7,300年よりやや古いと推定される. 以上のことから,アースフロー堆積物は,ほぼ完新世の期間内に,7,300年よりやや古い時期と2016年の,少なくとも2回,繰り返して堆積していることになり,古墳時代以降~2016年までの間には,アースフローではなく,角礫を含む土石流が堆積している.アースフロー堆積物は,水に飽和していないテフラが細片化した流れの堆積物であり,誘因としては直下型地震による強い地震動が考えられる.一方,土石流堆積物は水に飽和した流れであり,記録的な豪雨を誘因とする可能性が考えられる.すなわち,アースフロー堆積物と土石流堆積物は,異なる誘因条件で発生した流れの堆積物という可能性が考えられる.両者の層相の識別は,地震と豪雨による斜面崩壊イベントを識別するための根拠となりうる可能性がある.
2.対象地域の地形・地質と崩壊の誘因 対象とした阿蘇火山では,2016年熊本地震により,多数の斜面崩壊・地すべりと,それに起因するアースフローが発生した.崩壊が多発した地質は,後カルデラ火山体では阿蘇火山の噴出物(テフラ層ならびに古土壌)を主体とし,カルデラ斜面ではそれらに加え,カルデラ形成前の先阿蘇火山岩類の崩壊も発生した.また,熊本地震の約2か月後の2016年6月には,総雨量500mmに達する記録的豪雨に伴う斜面崩壊と土石流も発生した.
3.分析試料の採取と年代測定 分析用試料の採取位置は,2016年熊本地震で発生した崩壊土砂が流下した阿蘇火山西部を流れる山王谷川の側壁斜面(露頭)である.山王谷川では,熊本地震により発生した斜面崩壊起源のアースフロー堆積物が河道を一部で越流して堆積した.その後,2016年6月の豪雨時には土石流が発生し,熊本地震で堆積していた河道のアースフロー堆積物を一掃した.山王谷川上流部に露出している堆積物の記載を行うとともに,堆積物中から古土壌を抽出した.得られた試料は㈱加速器分析研究所に依頼し,AMSによる14C年代測定を行った.δ13Cにより同位体分別効果を補正して得られた14C年代(BP)を得て,暦年(cal BP)に較正した.暦年較正にはIntCal20データセットを用い,OxCalv4.4較正プログラムを利用した.較正した暦年は2σの範囲で表示した.
4.試料採取地点の地質と年代値 試料を採取した地点の地質と得られた年代値について,以下にまとめる.堆積物は上位から,2016年熊本地震に伴うアースフロー堆積物(厚さ1m程度,整地のため正確な値は不明),径1mを超える安山岩やアグルチネートの角礫を含む角礫層(厚さ1.2m以上,上限は整地されているため不明),テフラを3枚挟在するローム層(厚さ3m以上),アースフロー堆積物(厚さ2m以上,下限不明),が確認できる.ローム層の最上部は黒色土壌を呈する.ローム層に挟在する3枚のテフラは,上位から,厚さ5cmの細粒スコリア層,厚さ8cmの細粒火山灰層,厚さ10cmの細粒バブルガラス質火山灰層である.これらのテフラの屈折率測定を実施していないが,テフラの層相と,後述の古土壌の年代値とを考慮すると,上位から,OjS(往生岳スコリア),KsS(杵島岳スコリア),K-Ah(鬼界アカホヤ)に対比可能と考えられる. アースフロー堆積物は,安山岩礫をほとんど含まず,テフラまたはローム層をばらけた状態で含む層相を呈する.レンズ状を呈する黒色土層や,径1~3cmの軽石・スコリア片などを雑多に含む.層理面や成層構造は一般に不明瞭であるが,まれにレンズ状の細礫層を伴うことがある.また,黒色土層に富む部分と,少ない部分とが存在する.一方,角礫層は,径1mを超える角礫を伴い,下位のローム層との境界には侵食痕が認められることがある. ローム層最上部から得られた古土壌の14C年代測定結果は,2σの範囲で最も確率が高い暦年値は1600-1514 cal BP (81.2%)となった.
5.堆積時期の推定と誘因の識別 ローム層最上部の14C年代値と,挟在するテフラに基づけば,最上部の角礫層の堆積年代は,上記の古土壌の年代値より新しく,ほぼ古墳時代以降~2016年までの間となる.また,ローム層の下部にはK-Ahと思われるバブルガラスを多く含む火山灰が挟在するため,ローム層より下位に位置するアースフロー堆積物は,7,300年よりやや古いと推定される. 以上のことから,アースフロー堆積物は,ほぼ完新世の期間内に,7,300年よりやや古い時期と2016年の,少なくとも2回,繰り返して堆積していることになり,古墳時代以降~2016年までの間には,アースフローではなく,角礫を含む土石流が堆積している.アースフロー堆積物は,水に飽和していないテフラが細片化した流れの堆積物であり,誘因としては直下型地震による強い地震動が考えられる.一方,土石流堆積物は水に飽和した流れであり,記録的な豪雨を誘因とする可能性が考えられる.すなわち,アースフロー堆積物と土石流堆積物は,異なる誘因条件で発生した流れの堆積物という可能性が考えられる.両者の層相の識別は,地震と豪雨による斜面崩壊イベントを識別するための根拠となりうる可能性がある.
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