講演情報
[G1-O-5]北海道道東地域で見出したテフラ層すべりの地すべり移動体の成因と発生年代
*加瀬 善洋1、小安 浩理1、仁科 健二1、石丸 聡1、藤原 寛1、宇佐見 星弥1、輿水 健一1、吉永 佑一2、室田 真宏3 (1. 北海道立総合研究機構、2. 株式会社防災地質研究所、3. 株式会社北信ボーリング)
キーワード:
テフラ層すべり、標津断層帯、地震地すべり、千島海溝、点群データ、イルミネーション-法線マップ、北海道
【背景】
北海道中標津町北武佐では,摩周l降下火砕堆積物(Ma-l;14 ka)をすべり面とするスライド(テフラ層すべり)により形成された地すべり移動体が見出され,その起源は地震である可能性が報告されている(越谷ほか,2012).道東地域でのテフラ層すべりの報告例はこの1例に限られる一方,北武佐の事例と同様に2.5万分の1地形図では判読が困難な規模の移動体が,空中写真SfM画像の判読により中標津町~標津町の広い範囲で複数見出されている(加瀬ほか,2022).しかし,森林部での移動体の抽出は十分でないことに加え,移動体がテフラ層すべりであるかどうかや発生年代については未検討である.そこで著者らは,現地調査や年代測定を行ったので報告する.
【研究手法】
中標津町俣落,開陽,武佐の3地域で,加瀬ほか(2022)で抽出した移動体を含む約1.5 km2の範囲を設定し,UAV-LiDAR測量を行った後,イルミネーション-法線マップ(吉永ほか,2023;以下,イルミマップ)を作成し,移動体を抽出した.標津町古多糠~薫別では産総研(2019)のLPデータを用いた.その後,抽出した移動体上で小径掘削調査を行い,すべり面および層相を確認した.すべり面がテフラであった場合,適宜,軽石(火山ガラス)を対象にEDS分析を行った.また移動体の内部構造を可視化するため,GPR探査を行った.すべり面直下に黒色土が認められた場合,イベント年代を推定するため,この黒色土を対象にC14年代測定を行った.
【結果】
イルミマップに基づき森林部で複数の移動体を新たに抽出した.抽出した移動体の数は,イルミマップと空中写真SfM画像を併用して150程度である.移動体は等価摩擦係数が0.1–0.2程度と小さく,標津断層帯に沿うように分布し,特に開陽断層中部(武佐~開陽)および古多糠断層では比較的高密度に分布する傾向が認められる.
掘削調査の結果,北武佐を含む8の移動体のすべり面がテフラであることを確認した.すべり面のテフラは,層序やEDS分析結果から,俣落ではMa-i?(7.6 ka),開陽・武佐・薫別ではMa-lである.すべり面付近の軽石はいずれも水分を多く含み,軟弱で容易に泥濘化する.GPR探査では,大局的には移動体全体が側方への連続性の良い反射面で特徴づけられる.
俣落および薫別では,テフラ層すべりの移動体が明瞭なすべり面を境にして下位の黒色土(不動層)に重なることを確認した.すべり面直下の黒色土から得られたC14年代測定値(2σ)は,俣落で5895–5660 cal BP,薫別で5906–5741 cal BPである.
【考察】
テフラ層すべりの移動体の成因としては,豪雨あるいは地震が考えられる.豪雨起源の場合,移動体は土石流として流下するため,移動体そのものが斜面に残る可能性は低く,流動化を伴うため,層序を保って定置することも考えにくい.一方,地震起源の場合,斜面をマントルべディングしたテフラがスライドして移動・定置する例が多く知られる(千木良,2018).本研究で見出したテフラ層すべりの移動体は,①GPRの解釈(加瀬ほか,2023)と掘削調査から元の層序を保ち堆積していると推定されること,②等価摩擦係数が小さいこと,③すべり面付近は含水率が高いこと,④北武佐のすべり面には地震地すべりの素因とされるハロイサイトが多く含まれること(加瀬ほか,2022)等を考慮すると,地震起源である可能性が高い.
年代測定を行った俣落は荒川-パウシベツ川間断層東部,薫別は古多糠断層北部に位置し,イベント年代はいずれも約6 ka以降を示すことから,同一イベントで形成された可能性がある.両者の間に位置する開陽断層中部のイベント年代(約4–5 ka)と比較した場合,①同一イベントに対比されるか,②別イベントであり地震性テフラ層すべりが繰り返し発生している可能性がある.なお,東古多糠断層の最新活動時期(14–8 ka;産総研,2019)とは重ならない.
移動体が開陽断層中部や古多糠断層付近に偏在する傾向は,それぞれの断層活動との関連性を示す可能性がある.ただし,SfM画像で移動体が認められない開陽断層東部の川北は斜面傾斜が<10°と非常に緩く,地形の影響を強く受けていると推定される.また,千島海溝の地震である可能性も現時点では否定できない.今後,LiDARの未検討な地域における移動体の抽出やすべり面の確認,年代データの収集等によるノンテクトニック構造の検討が,標津断層帯の活動履歴を明らかにするための一助となることが期待される.
【文献】千木良,2018,災害地質学ノート.産総研,2019,活断層.加瀬ほか,2022,2023,地質学会要旨.越谷ほか,2012,北海道の地すべり.吉永ほか,2023,地すべり学会要旨.
北海道中標津町北武佐では,摩周l降下火砕堆積物(Ma-l;14 ka)をすべり面とするスライド(テフラ層すべり)により形成された地すべり移動体が見出され,その起源は地震である可能性が報告されている(越谷ほか,2012).道東地域でのテフラ層すべりの報告例はこの1例に限られる一方,北武佐の事例と同様に2.5万分の1地形図では判読が困難な規模の移動体が,空中写真SfM画像の判読により中標津町~標津町の広い範囲で複数見出されている(加瀬ほか,2022).しかし,森林部での移動体の抽出は十分でないことに加え,移動体がテフラ層すべりであるかどうかや発生年代については未検討である.そこで著者らは,現地調査や年代測定を行ったので報告する.
【研究手法】
中標津町俣落,開陽,武佐の3地域で,加瀬ほか(2022)で抽出した移動体を含む約1.5 km2の範囲を設定し,UAV-LiDAR測量を行った後,イルミネーション-法線マップ(吉永ほか,2023;以下,イルミマップ)を作成し,移動体を抽出した.標津町古多糠~薫別では産総研(2019)のLPデータを用いた.その後,抽出した移動体上で小径掘削調査を行い,すべり面および層相を確認した.すべり面がテフラであった場合,適宜,軽石(火山ガラス)を対象にEDS分析を行った.また移動体の内部構造を可視化するため,GPR探査を行った.すべり面直下に黒色土が認められた場合,イベント年代を推定するため,この黒色土を対象にC14年代測定を行った.
【結果】
イルミマップに基づき森林部で複数の移動体を新たに抽出した.抽出した移動体の数は,イルミマップと空中写真SfM画像を併用して150程度である.移動体は等価摩擦係数が0.1–0.2程度と小さく,標津断層帯に沿うように分布し,特に開陽断層中部(武佐~開陽)および古多糠断層では比較的高密度に分布する傾向が認められる.
掘削調査の結果,北武佐を含む8の移動体のすべり面がテフラであることを確認した.すべり面のテフラは,層序やEDS分析結果から,俣落ではMa-i?(7.6 ka),開陽・武佐・薫別ではMa-lである.すべり面付近の軽石はいずれも水分を多く含み,軟弱で容易に泥濘化する.GPR探査では,大局的には移動体全体が側方への連続性の良い反射面で特徴づけられる.
俣落および薫別では,テフラ層すべりの移動体が明瞭なすべり面を境にして下位の黒色土(不動層)に重なることを確認した.すべり面直下の黒色土から得られたC14年代測定値(2σ)は,俣落で5895–5660 cal BP,薫別で5906–5741 cal BPである.
【考察】
テフラ層すべりの移動体の成因としては,豪雨あるいは地震が考えられる.豪雨起源の場合,移動体は土石流として流下するため,移動体そのものが斜面に残る可能性は低く,流動化を伴うため,層序を保って定置することも考えにくい.一方,地震起源の場合,斜面をマントルべディングしたテフラがスライドして移動・定置する例が多く知られる(千木良,2018).本研究で見出したテフラ層すべりの移動体は,①GPRの解釈(加瀬ほか,2023)と掘削調査から元の層序を保ち堆積していると推定されること,②等価摩擦係数が小さいこと,③すべり面付近は含水率が高いこと,④北武佐のすべり面には地震地すべりの素因とされるハロイサイトが多く含まれること(加瀬ほか,2022)等を考慮すると,地震起源である可能性が高い.
年代測定を行った俣落は荒川-パウシベツ川間断層東部,薫別は古多糠断層北部に位置し,イベント年代はいずれも約6 ka以降を示すことから,同一イベントで形成された可能性がある.両者の間に位置する開陽断層中部のイベント年代(約4–5 ka)と比較した場合,①同一イベントに対比されるか,②別イベントであり地震性テフラ層すべりが繰り返し発生している可能性がある.なお,東古多糠断層の最新活動時期(14–8 ka;産総研,2019)とは重ならない.
移動体が開陽断層中部や古多糠断層付近に偏在する傾向は,それぞれの断層活動との関連性を示す可能性がある.ただし,SfM画像で移動体が認められない開陽断層東部の川北は斜面傾斜が<10°と非常に緩く,地形の影響を強く受けていると推定される.また,千島海溝の地震である可能性も現時点では否定できない.今後,LiDARの未検討な地域における移動体の抽出やすべり面の確認,年代データの収集等によるノンテクトニック構造の検討が,標津断層帯の活動履歴を明らかにするための一助となることが期待される.
【文献】千木良,2018,災害地質学ノート.産総研,2019,活断層.加瀬ほか,2022,2023,地質学会要旨.越谷ほか,2012,北海道の地すべり.吉永ほか,2023,地すべり学会要旨.
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