講演情報

[G8-O-3]身近な土砂災害に備える地域防災への取り組み

*橋本 智雄1、片桐 悟1、柴田 樹1、本山 功2 (1. 中央開発株式会社、2. 山形大学)
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キーワード:

地域防災、土砂災害、住民啓発、地域貢献、災害調査

山形大学認定研究グループのひとつである山形大学災害環境科学研究ユニットは,山形県の自然災害と自然環境の特性を探求し,高度な知識と防災に資する情報を地域へ発信することを目的として活動を行っている.筆者らは,この中の産学連携の取組みとして土砂災害の被災地域を対象に合同現地調査を行い,災害発生機構についての検討・考察を行った.その後,事後研究・地域防災・防災教育を目的に,地すべり・崩壊検知センサー(傾斜計・雨量計)の設置や継続的なモニタリングを実施・公開し,地域の方々が大雨などで生じる斜面変動の様子をリアルタイムで見られるシステムを構築した.
 更に,地域に近接する沢筋でUAVレーザー測定を実施し,身近な危険斜面の分布を明らかにするとともに,地域住民向けの防災イベントを開催して防災に関する普及啓発を推進した.以下、活動・取組み内容について述べる.
 令和4年8月3日~4日にかけて,低気圧と前線の影響により東北地方各地で豪雨災害が多発した.特に山形県南部から新潟県北部にかけての地域では線状降水帯によって記録的な大雨となった.山形県西置賜郡飯豊町では,河川や用排水路の氾濫による浸水・冠水・洗掘・侵食や斜面崩壊,ため池の決壊,橋梁の落下などの被害が生じた.現地調査の結果,河川や水路で確認された氾濫の多くが,増水時に橋梁等の横断構造物で発生した流木等による流下阻害によるものと考えられた(橋本ほか,2023).そのため,流木等の発生抑制対策(砂防施設等)だけでなく,橋梁等の横断構造物が増水時に流路を阻害しない構造とする等のボトルネック区間の対策を推進することも重要であることが浮き彫りとなった.また,集水域の狭い小規模な谷地形でも斜面崩壊や土石流の発生が各所で確認され,斜面の風化の進行や脆弱な土砂の堆積が想定される地域では,災害リスクが高いことも改めて確認された.
 地域の避難場所である飯豊中学校の背後斜面で発生した斜面崩壊は,グラウンドに土砂が流出する等の被害を出した.ここでは,斜面上部に崩壊拡大が懸念される落ち残り部があったことから,地すべり・崩壊検知センサーの設置やUAVレーザーによる微地形の測定を実施し,モニタリングデータをリアルタイムで見られるよう,WEBサイトの情報を地域住民向けに公開した.現時点で累積性のある変位は確認されていないが,今後もモニタリングを継続する計画である.
 これら斜面モニタリング等の取組みを紹介,普及する目的で,地域住民を対象として防災イベントを開催した.イベントでは,防災モニタリングの事例紹介(宮本ほか,2023)や身近にある危険箇所,避難スイッチ・所要時間に関するワークショップを行った.住民からは,本災害と過去の災害時の経験,避難時の問題点などについて活発な発言があり,より詳細な被害の実態を情報共有できた.また,UAVを用いて実際に上空から自分たちが住んでいる地域と斜面崩壊箇所等を比較観察し,身近な所にも危険箇所があることを改めて確認した.
 今回のような産官学連携による自主的な活動・取組みは,より地元に密着した地域防災への貢献が可能となると考えられる.現時点では,特定の自治体を中心に活動を行っているが,今後は地域住民への周知や住民参加型での防災モニタリングの実践,県内の他地域も含めた地域防災への貢献・啓発を推進していきたい.
 謝辞:いいで農村みらい研究所及び飯豊町役場の皆様には,斜面モニタリングやUAVによる詳細調査及び防災イベントの実施に際し,種々ご教示・協力いただいた.この場を借りて深く御礼申し上げる.
引用文献
橋本智雄・森藤勉・柴田樹・片桐悟・本山功・岩田尚能・加々島慎一: 令和4年8月山形県飯豊町で発生した豪雨災害について.山形県南部令和4年8月豪雨災害調査報告書, 山形大学災害環境科学研究センター, pp. 57–89., 2023.
宮本善和・王寺秀介・藤谷久・矢守克也: 住民参加による斜面防災モニタリングシステムの開発と試行, 土木学会論文集, 2023.

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