講演情報
[T13-O-13]地震性混濁流の発生におけるバックグラウンド環境変動の影響:御前崎沖と中部日本海溝の例から
*池原 研1、石澤 尭史2、金松 敏也3、長橋 良隆4、里口 保文5、板木 拓也1 (1. 産業技術総合研究所、2. 東北大学、3. 海洋研究開発機構、4. 福島大学、5. 滋賀県立琵琶湖博物館)
キーワード:
地震、タービダイト、混濁流、海洋古環境、表層堆積物
巨大地震による海底での強い地震動に伴って発生する表層堆積物の再懸濁起源の混濁流によって形成される地震性タービダイトは地震履歴の検討に好ましいとされ、その堆積時期や堆積間隔の解析に使われてきている。しかし、その多くは現在とほぼ同じ海洋環境と考えられる中期完新世以降についての検討であり、海洋環境の違いが表層堆積物の再懸濁などを含めた地震性混濁流の発生プロセスにどう影響するか、結果として形成されるタービダイトの特徴にどのような違いを生じさせるか、などについての理解はほとんど検討されていない。御前崎沖の斜面域に構造的に形成された小海盆から「ちきゅう」による掘削で採取されたコアは、約5万年間の連続したタービダイトの地震記録を有しており、氷期と間氷期での地震性タービダイトの特徴を比較するのに適している。掘削地点の近傍で採取された不擾乱表層堆積物コアは、1944年昭和東南海地震ではこの地点に明瞭なタービダイトが形成されていないが、100年以上前には比較的厚いタービダイト泥を持つタービダイトが形成されていることを示した。このことから、現在と同じ環境ではこの地点のタービダイトは御前崎以東まで断層破壊が及んだ地震によって形成されたと考えられる。最終退氷期から完新世のタービダイトはおよそ200年程度の堆積間隔を持つのに対して、最終氷期最盛期(LGM)のタービダイトは300年以上から400-500年程度の間隔を、MIS 3のものは300-400年程度の間隔を持つ。タービダイトは完新世からボーリング-アレレード期まではタービダイト砂に比べてタービダイト泥が優勢な20cm程度以上の厚さを持つのに対して、それ以前では徐々にタービダイト泥と層厚が薄くなっていき、最終氷期最盛期のタービダイトはほぼタービダイト泥を持たない層厚10cm以下の砂層からなる。タービダイト砂中に含まれる浅海生の底生有孔虫の割合は完新世では10%以下であるが、最終退氷期から増え始め、LGMでは30%を超える。さらに、タービダイト泥と直下の半遠洋性泥のバルク有機物の年代差は完新世で小さく(500年以下)、最終退氷期からMIS 3で大きい(1000年程度)。以上の結果は、完新世とLGMではタービダイトの供給源の環境が異なり、バックグラウンドの海洋環境の変化が地震性混濁流の発生間隔に影響を与えていた可能性を示唆する。
一方、中部日本海溝の海盆からIODP Exp 386で採取されたコアにも多数のタービダイトが挟在するが、その厚さは完新世で厚く、最終退氷期で薄くなる傾向にある。半遠洋性泥の堆積速度も最終退氷期の途中で小さくなる。詳細な年代モデルの確立とタービダイト層準認定の確定が必要であるが、海洋環境変化に対応した斜面域の堆積速度や組成の変化が影響を及ぼしている可能性があり、さらなる検討が必要である。
一方、中部日本海溝の海盆からIODP Exp 386で採取されたコアにも多数のタービダイトが挟在するが、その厚さは完新世で厚く、最終退氷期で薄くなる傾向にある。半遠洋性泥の堆積速度も最終退氷期の途中で小さくなる。詳細な年代モデルの確立とタービダイト層準認定の確定が必要であるが、海洋環境変化に対応した斜面域の堆積速度や組成の変化が影響を及ぼしている可能性があり、さらなる検討が必要である。
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