講演情報
[T16-O-2]Y/Ho fractionation during basalt alteration in hydrothermal system: An implication for enigmatic superchondritic Y/Ho in Precambrian banded iron formations
*吉田 聡1、上田 修裕2、浅沼 尚3、澤木 佑介4 (1. 東北大学 東北アジア研究センター、2. 学習院大学 理学部化学科、3. 京都大学 人間・環境学研究科、4. 東京大学大学院 総合文化研究科)
キーワード:
アルバイト化、塩化物錯体、熱水実験、Y/Ho問題
先カンブリア紀の堆積岩は堆積後に変形・変成作用を受け,堆積場の推定が困難なことが多い.このような堆積岩の堆積場の推定には,移動性の低い希土類元素(REE)の組成が広く用いられてきた.特に,Y(イットリウム)とHo(ホルミウム)の比(Y/Ho)は,現在の海水がsuperchondriticなY/Ho(約40–110)を示すことから,堆積岩が海洋環境で堆積したかどうかを判断するための強力な指標とされている [例えば,Bolhar et al., 2004, EPSL; Yoshida et al., 2024, Geosci. Front.].
現在の海水のsuperchondriticなY/Hoは,ほかのREEと比較して,YがFe-Mn酸化物に優先的に吸着されることに起因すると考えられている [e.g., Ohta et al., 1999, Geochem. J.].先カンブリア時代の炭酸塩岩に記録されたY/Hoに基づき,当時の海水も現在のそれと同様にsuperchondriticなY/Hoを示したと推定される.しかし,現在のFe-Mn酸化物とは対照的に,先カンブリア紀の縞状鉄鉱層(BIF)はsuperchondriticなY/Ho比を示すことから,先カンブリア紀のBIFは当時の海水のsuperchondriticなY/Hoを生じ得ない.しかし従来まで,その謎には言及されつつも [Ernst and Bau, 2021, Gondwana Res.],何が先カンブリア紀の海水のsuperchondriticなY/Hoを維持していたのかは未解明なままだった.
本研究では,現在の一部の熱水がsuperchondriticなY/Ho値を示すことに着目した [Douville et al., 1999, GCA; Hongo et al., 2007, Geochem. J.].そこで,先カンブリア時代の中央海嶺熱水系が海水のREE組成に与えた影響を評価するために,中央海嶺玄武岩(MORB)と先カンブリア時代の海水を模した塩化物と鉄に富む非酸化的な流体を用いて300度,500気圧における熱水実験を行い,反応流体や反応生成物の主要および微量元素組成を分析した.
実験に用いた玄武岩に含まれる鉱物のうち,ほとんどの鉱物で反応前後での主要元素組成の変化は見られなかったが,斜長石のアノーサイト成分(An%)は,反応前後で70.8から68.5%へと低下した.反応流体のCa濃度は29.8から73.1 mmol/kgへと増加し,一方でNa濃度は893から834 mmol/kgへと減少した.また,反応流体のREE組成には最大63.2に達するsuperchondriticなY/Ho(54.8–63.2)と,大きなEu(ユーロピウム)正異常(Eu/Eu* = [Eu]PAAS/([Sm]PAAS * ([Sm]PAAS/[Nd]PAAS)1/2) = 6.90–32.3)が見られた.
斜長石や反応流体の組成の変化から,熱水実験中に斜長石のアルバイト化が起こったことが示唆される.大きなEu正異常は,玄武岩に含まれる鉱物の中では斜長石に特有であることから,反応流体中のREEは主に斜長石のアルバイト化により供給されたと考えられる.また,熱力学計算に基づき,高温下ではYの塩化物錯体生成係数がHoのそれに比べて二桁ほど高いことが示されていることから [Migdisov et al., 2009, GCA; Guan et al., 2020, GCA],流体中のsuperchondriticなY/Hoは塩化物錯形成強度の違いに起因する,斜長石からのYの優先的な溶出によって説明が可能である.
太古代の海洋底変成作用を受けた変成玄武岩にはsubchondriticなY/Hoが観察されることから [Hofmann and Harris, 2008, Chem. Geol.; Nakamura et al., 2020, Precambrian Res.],これらの変成玄武岩は共存した太古代の熱水中にsuperchondriticなY/Hoを供給した残留物と解釈できる.したがって,本研究の結果と太古代の地質記録から,先カンブリア紀の海水のsuperchondriticなY/Hoは,玄武岩が関与する海洋底熱水系によって維持されていた可能性が新たに示唆された.
現在の海水のsuperchondriticなY/Hoは,ほかのREEと比較して,YがFe-Mn酸化物に優先的に吸着されることに起因すると考えられている [e.g., Ohta et al., 1999, Geochem. J.].先カンブリア時代の炭酸塩岩に記録されたY/Hoに基づき,当時の海水も現在のそれと同様にsuperchondriticなY/Hoを示したと推定される.しかし,現在のFe-Mn酸化物とは対照的に,先カンブリア紀の縞状鉄鉱層(BIF)はsuperchondriticなY/Ho比を示すことから,先カンブリア紀のBIFは当時の海水のsuperchondriticなY/Hoを生じ得ない.しかし従来まで,その謎には言及されつつも [Ernst and Bau, 2021, Gondwana Res.],何が先カンブリア紀の海水のsuperchondriticなY/Hoを維持していたのかは未解明なままだった.
本研究では,現在の一部の熱水がsuperchondriticなY/Ho値を示すことに着目した [Douville et al., 1999, GCA; Hongo et al., 2007, Geochem. J.].そこで,先カンブリア時代の中央海嶺熱水系が海水のREE組成に与えた影響を評価するために,中央海嶺玄武岩(MORB)と先カンブリア時代の海水を模した塩化物と鉄に富む非酸化的な流体を用いて300度,500気圧における熱水実験を行い,反応流体や反応生成物の主要および微量元素組成を分析した.
実験に用いた玄武岩に含まれる鉱物のうち,ほとんどの鉱物で反応前後での主要元素組成の変化は見られなかったが,斜長石のアノーサイト成分(An%)は,反応前後で70.8から68.5%へと低下した.反応流体のCa濃度は29.8から73.1 mmol/kgへと増加し,一方でNa濃度は893から834 mmol/kgへと減少した.また,反応流体のREE組成には最大63.2に達するsuperchondriticなY/Ho(54.8–63.2)と,大きなEu(ユーロピウム)正異常(Eu/Eu* = [Eu]PAAS/([Sm]PAAS * ([Sm]PAAS/[Nd]PAAS)1/2) = 6.90–32.3)が見られた.
斜長石や反応流体の組成の変化から,熱水実験中に斜長石のアルバイト化が起こったことが示唆される.大きなEu正異常は,玄武岩に含まれる鉱物の中では斜長石に特有であることから,反応流体中のREEは主に斜長石のアルバイト化により供給されたと考えられる.また,熱力学計算に基づき,高温下ではYの塩化物錯体生成係数がHoのそれに比べて二桁ほど高いことが示されていることから [Migdisov et al., 2009, GCA; Guan et al., 2020, GCA],流体中のsuperchondriticなY/Hoは塩化物錯形成強度の違いに起因する,斜長石からのYの優先的な溶出によって説明が可能である.
太古代の海洋底変成作用を受けた変成玄武岩にはsubchondriticなY/Hoが観察されることから [Hofmann and Harris, 2008, Chem. Geol.; Nakamura et al., 2020, Precambrian Res.],これらの変成玄武岩は共存した太古代の熱水中にsuperchondriticなY/Hoを供給した残留物と解釈できる.したがって,本研究の結果と太古代の地質記録から,先カンブリア紀の海水のsuperchondriticなY/Hoは,玄武岩が関与する海洋底熱水系によって維持されていた可能性が新たに示唆された.
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