講演情報

[T12-O-2]小笠原硫黄島翁浜沖2023年10月以降の噴火の経緯と噴出物の特徴

*長井 雅史1、三輪 学央1、中田 節也1、角野 浩史2、上田 英樹1、安田 敦3、小園 誠史1、廣瀬 郁4、南 宏樹5、小林 哲夫6 (1. 防災科学技術研究所、2. 東京大学先端科学技術研究センター、3. 東京大学地震研究所、4. 東北大学、5. 海上保安庁海洋情報部、6. 鹿児島大学)
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キーワード:

伊豆・小笠原・マリアナ弧、アルカリ岩系、後カルデラ火山活動、水蒸気マグマ噴火、新島形成、漂流軽石

はじめに
 小笠原硫黄島火山は活発な地殻変動・地熱活動・地震活動が続いているカルデラ火山である。2011年以降隆起速度が大きく水蒸気噴火が頻発する状態にある。噴火地点は再生ドームである元山を囲む正断層帯の付近に広く分散している。カルデラ南部の翁浜沖では2021年8月より噴火活動が開始し、2022年には小規模ながらマグマの噴出するスルツェイ式噴火が確認された(長井ほか、2022)。ここでは2023年10月以降の活動について聞き取り調査、現地調査や機上観察から得られた噴火経緯と噴出物の岩石学的特徴の概要について報告する。
翁浜沖2023年10月以降の噴火経緯
 2023年10月21日から波食台の南端付近でコックステールジェットを噴出するスルツェイ式噴火が再開した。噴出活動に関連して孤立型の微動が頻発した。25日頃から噴煙の規模が大きくなり、漂流する軽石の量も増えた。30日には火口の北側に砂州が形成され、31日以降火口の周りに陸上火砕丘が成長した。11月3日頃の噴火の最盛期には火砕サージを伴う爆発が頻発し、大型の火山弾が飛散した。火山灰噴煙から本島南部に少量の降灰があった。火砕丘は直径145 m、高さ25 m程度まで成長した。11月4日頃から11月9日にかけて一時的に乾陸上の噴火に移行したとみられ、南東側に小規模な溶岩流が流出するとともに、空振を伴うブルカノ式噴火様の小規模な爆発が頻発した。この間、溶岩の分布しない火砕丘の北東部と南西部では波食が進み、一方で主に再堆積物からなる砂州が北側と西側に成長した。11月12日より火砕丘の西山腹でスルツェイ式噴火が再開し、その後火砕丘の再形成と崩壊を繰り返したのち、12月中旬に噴火は一旦終了した。火砕丘は主に溶岩からなる岩礁を残して速やかに消滅した。砂州は縮小しながら陸側に移動を続け、12月中旬頃に本島に接続した。12月31日~2024年1月4日まで、2月28日から4月19日頃まで噴火活動が再開したが、これらの活動では新たな陸地の生成はおこらなかった。
 2024年3月頃から翁浜沖の噴出物と同質な漂着軽石が南西諸島から伊豆諸島、本州太平洋岸に漂着を始めた。これらは漂流軽石量が多かった10月25日から11月3日の噴火、及びその後の浸食による二次的な流出に主に由来したものである可能性が高い。
 採取された本質物は淡褐色~暗灰色の軽石ないしスコリアである。表面の急冷縁が欠落し、丸みを帯びているものが多い。大型の岩塊は最大で1.2 m程の大きさがあり、全体に暗灰色でしばしば赤褐色に酸化している。複数の火砕物粒子が溶結した組織をもつ岩塊も見出されている。これらは陸上の火砕丘を構成していたものと考えられる。噴火地点に近い砂州では、溶岩流に由来するとみられる新鮮な灰色の溶岩片も打ち上げられた。
岩石学的特徴
 本質物の全岩化学組成はSiO2=61.2~61.3 wt%、Total Alkali(Na2O+K2O)= 10.6~10.8 wt%の範囲に集中しており、2022年の噴出物とほぼ同質の粗面岩である。斑晶や石基で鉱物組み合わせに大きな違いはなく、斜長石、単斜輝石、カンラン石、Fe-Ti酸化物、燐灰石からなる。またFe硫化物がFe-Ti酸化物内に包有物として認められた。石基微晶・微斑晶に乏しく、火山ガラスの化学組成も全岩組成に近い(SiO2=61.8~63.2 wt%)など、2022年噴火に比べると噴出マグマの結晶度が低い傾向がある。
噴出量・噴出率
 火砕丘を円錐台近似で噴出量を概算すると、陸上部分の体積は30万m3程度であった。海底部分については、波食台が貝塚ほか(1985)と同様の水深を保っていると仮定し、噴出物斜面の傾斜を波食台上の砂州と同程度の2°として見積もった場合、20万m3前後となった。一日程度の期間の平均噴出率は最盛期でも1 m3/s程度であった。まとめ今回の噴火では小規模ながら浅海域におけるマグマ噴火の典型的な推移を経たものと考えられる。推定された噴出量は全体で50万 m3程度(VEI=1相当)と小さく、噴火活動に関連してデフレーションを示すような、通常と異なる地殻変動も認められていない。このため硫黄島の地下浅部に上昇していると考えられるマグマは、噴火で消費されることがほとんどなく蓄積が続いていると判断される。また、噴出量が小さい噴火であっても漂流軽石が広域に分布しうることを示した事例となった。
謝辞 
 資試料の収集及び現地調査に際して海上自衛隊海上幕僚監部及び硫黄島航空基地隊気象班、気象庁火山監視・警報センターの御協力を得た。機上観察に際しては朝日新聞社の御協力を得た。以上の方々に記して御礼申し上げる。
文献
貝塚ほか(1985)地学雑誌,94,424-436. 長井ほか(2022)火山学会予稿,22.

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