講演情報
[T12-O-3]小笠原硫黄島2022年噴火のメカニズム
*三輪 学央1、長井 雅史1、中田 節也1、安田 敦2、小園 誠史1、上田 英樹1 (1. 防災科学技術研究所、2. 東京大学地震研究所)
【ハイライト講演】本講演は,現在活動が活発な小笠原硫黄島に関する最新研究である.2022年に発生した浅海域での海底噴火を取り上げ,マグマと海水の相互作用を通じた噴火メカニズムを詳細に解明している.本研究では,脱ガスが進んだマグマヘッドが海底面付近で噴出し,海水との接触で急冷・破砕されることで,熱された海水とマグマに残るガスが反応し,コックステールジェット(噴火様式のひとつ)が形成されたと結論付けている.(ハイライト講演とは...)
キーワード:
小笠原硫黄島、海底噴火、マグマ-海水相互作用、脱ガス過程
海底噴火は地球の様々な海域・水深で発生する普遍的な現象であり,そのメカニズム解明は地球の火山活動を理解する上で重要である.海底噴火において,マグマと海水の接触は水深に関わらず不可避であり,最も重要な物理過程の一つである.特に浅海では海水とマグマの連続的な接触が噴火様式の決定に寄与したと推定された例もある(Maeno et al., 2022).その一方で,噴火様式はマグマの脱ガス過程で支配されることが良く知られている(e.g., Jaupart and Allegre, 1991).上昇中のマグマからガスが取り除かれる開放系脱ガスは,発泡によるマグマ密度の低下を阻害し,非爆発的な噴火の原因となる(e.g., Martel et al., 2000).従って,海底噴火のメカニズムを理解するためには,海水とマグマの接触過程とマグマ自身の脱ガス過程の両方を評価する必要がある.
本研究は小笠原硫黄島の沖合で2022年に発生した海底噴火のメカニズムを噴出物の岩石学的特徴から検討した. 小笠原硫黄島は伊豆小笠原弧南部に位置する火山島であり,活発な後カルデラ火山活動で知られている(e.g., 長井・小林, 2015; Ueda et al., 2018).小笠原硫黄島では2022年7月に,1889年の入植以来はじめて,マグマ噴火が観測された (Miwa et al., under review).このマグマ噴火は浅海域(水深10~20 m)に位置する火口とコックステールジェットの間欠的な噴出で特徴づけられ,硫黄島南側の翁浜に大量の軽石岩塊を漂着させた.軽石岩塊はしばしば急冷縁を有し内部に向かって発泡度が上昇する.この組織は,海水による急冷と遅延発泡を示唆する.急冷縁は斑状組織を示し,薄茶色透明な石基ガラスと20-40 vol.%の発泡度を有する.斜長石斑晶-石基と単斜輝石斑晶-石基の熱力学平衡に基づき,マグマストレージでのマグマ温度と含水量がそれぞれ970℃と1.4 wt.%と求められた(Miwa et al., under review).それに対して,顕微赤外分光で測定した急冷縁の石基ガラスの含水量は~0.21 wt.%であり,海底面付近(< 0.2 MPa)での急冷を示唆する.初期マグマ含水量1.4 wt.%を用いて,減圧下での閉鎖系脱ガスに伴うマグマ発泡度の変化を計算すると,急冷時の含水量・発泡度は開放系脱ガスで説明されることが分かった.また,硫黄島の軽石岩塊の急冷縁で観察される発泡度(20-40 vol.%)は,爆発的噴火に伴う噴出物の発泡度(> 60 vol.%)よりも低い.以上から硫黄島2022年噴火は,上昇時に開放系脱ガスを被ったマグマヘッドが海底面付近に噴出し,海水と接触することで急冷破砕され,熱された海水がマグマ中に残ったガスとともにコックステールジェットを形成したものと考えられる.
<参考文献>
Maeno et al. (2022), Comm. Earth. Envir., 3, Article number 260.
Jaupart and Allegre (1991), Earth. Planet. Sci. Lett., 102, 413-429.
長井・小林 (2015), 地学雑誌, 124, 65-99.
Ueda et al. (2018), Earth. Planet. Space., 70, Article number 38.
Miwa et al, under review in Bull. Volcanol. .
本研究は小笠原硫黄島の沖合で2022年に発生した海底噴火のメカニズムを噴出物の岩石学的特徴から検討した. 小笠原硫黄島は伊豆小笠原弧南部に位置する火山島であり,活発な後カルデラ火山活動で知られている(e.g., 長井・小林, 2015; Ueda et al., 2018).小笠原硫黄島では2022年7月に,1889年の入植以来はじめて,マグマ噴火が観測された (Miwa et al., under review).このマグマ噴火は浅海域(水深10~20 m)に位置する火口とコックステールジェットの間欠的な噴出で特徴づけられ,硫黄島南側の翁浜に大量の軽石岩塊を漂着させた.軽石岩塊はしばしば急冷縁を有し内部に向かって発泡度が上昇する.この組織は,海水による急冷と遅延発泡を示唆する.急冷縁は斑状組織を示し,薄茶色透明な石基ガラスと20-40 vol.%の発泡度を有する.斜長石斑晶-石基と単斜輝石斑晶-石基の熱力学平衡に基づき,マグマストレージでのマグマ温度と含水量がそれぞれ970℃と1.4 wt.%と求められた(Miwa et al., under review).それに対して,顕微赤外分光で測定した急冷縁の石基ガラスの含水量は~0.21 wt.%であり,海底面付近(< 0.2 MPa)での急冷を示唆する.初期マグマ含水量1.4 wt.%を用いて,減圧下での閉鎖系脱ガスに伴うマグマ発泡度の変化を計算すると,急冷時の含水量・発泡度は開放系脱ガスで説明されることが分かった.また,硫黄島の軽石岩塊の急冷縁で観察される発泡度(20-40 vol.%)は,爆発的噴火に伴う噴出物の発泡度(> 60 vol.%)よりも低い.以上から硫黄島2022年噴火は,上昇時に開放系脱ガスを被ったマグマヘッドが海底面付近に噴出し,海水と接触することで急冷破砕され,熱された海水がマグマ中に残ったガスとともにコックステールジェットを形成したものと考えられる.
<参考文献>
Maeno et al. (2022), Comm. Earth. Envir., 3, Article number 260.
Jaupart and Allegre (1991), Earth. Planet. Sci. Lett., 102, 413-429.
長井・小林 (2015), 地学雑誌, 124, 65-99.
Ueda et al. (2018), Earth. Planet. Space., 70, Article number 38.
Miwa et al, under review in Bull. Volcanol. .
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