講演情報
[T12-O-6]2023年10月の地震後に鳥島近海で採取された漂流軽石の岩石学的特徴
*岩橋 くるみ1、石塚 治1、川口 允孝2、及川 輝樹1、西原 歩3、前野 深2、安田 敦2 (1. 国立研究開発法人産業技術総合研究所、2. 東京大学地震研究所、3. 常葉大学)
キーワード:
軽石、海底火山、化学組成分析、鳥島近海、福徳岡ノ場
海底火山は,陸上火山と比較して,その活動を直接観測することが困難であることが多い.そのため,海底火山の活動によって噴出される漂流軽石は,これらの海底火山の火山活動の情報を得る上で重要な手がかりとなる.特に,その岩石学的特徴は,火山噴火の前駆過程や噴火を発生させたマグマの起源を知る上で非常に有用である.本発表では,2023年10月に鳥島近海で発生した地震の後に,震源付近の海域で採取された漂流軽石の岩石学的特徴について報告する.
2023年10月2日から8日にかけて,鳥島南西にて4回の地震が観測された.その後,気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」によって伊豆鳥島近海で漂流軽石が採取された.軽石は,4回にわたり,次に示す異なる場所・時刻に採取された①29°15’ N、140°00’ E付近(10月27日12時)、②29°54’ N、139°34’ E付近(10月27日23時)、③29°54’ N、139°32’ E付近(10月28日7時)、④29°02’ N、138°00’ E付近(10月31日9時).このうち,①で採取された軽石は,肉眼で白色を呈し,しばしば角ばった形状をしていた.また,パン皮状の表面をもつものも見られた.これらを,本研究では白色軽石と呼ぶ.白色軽石は,しばしば暗色包有物を含んでいた.一方で,その後の3回の観測で採取された軽石は,肉眼で灰色を呈し,よく円磨されていた.また、これらの軽石には,高頻度で生物遺骸の付着がみられた.これらを,本研究では灰色軽石と呼ぶ.灰色軽石にも,高頻度で暗色包有物が見られた.
採取された白色軽石・灰色軽石について,本研究では,XRFおよびICP-MSによる全岩化学組成分析(産業技術総合研究所,東京大学), EPMA(産業技術総合研究所)による化学組成分析・組織解析を実施した.
白色軽石は,斑晶として主に斜長石,輝石,Fe-Ti酸化物を含んでいた.石基はガラス質であり,わずかにマイクロライトを含んでいた.全岩化学組成・石基ガラスの化学組成は,流紋岩に分類された.全岩の微量元素組成は,伊豆小笠原弧の西に位置する背弧リフト帯の噴出物と類似した特徴を示した.そのため,白色軽石の起源は,伊豆小笠原弧の背弧リフト帯である可能性が高い.また,これらの軽石が観測される前に,火山活動に関連していると考えられる津波が観測されている(Sandanbata et al., 2024; Mizutani and Melgar, 2023).
一方で,灰色軽石は斑晶として主に輝石,斜長石を含んでいた.石基のガラス組成は,トラカイトに分類された.この化学組成は,福徳岡ノ場の噴火で噴出した軽石に特徴的な組成である.加えて,灰色軽石中の暗色包有物の特徴は,Yoshida et al.(2022)で報告されている暗色包有物の特徴と非常に類似していた.したがって,この灰色軽石は,福徳岡ノ場2021年噴火に由来する可能性が高い.
謝辞:本研究で分析に使用したサンプルは,気象庁地震火山部によりご提供頂きました.ここに記して感謝いたします.
参考文献:
Mizutani, A. and Melgar, D. (2023) Potential volcanic origin of the 2023 short-period tsunami in the Izu Islands, Japan. Seismica. 2.Sandanbata, O., Satake, K., Takemura, S., Watada, S., Maeda, T. and Kubota, T. (2024) Enigmatic tsunami waves amplified by repetitive source events near Sofugan volcano, Japan. Geophysical Research Letters. 51, e2023GL106949.
Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Hanyu, T., Usui, Y., Chang, Q. and Ono, S. (2022) Variety of the drift pumice clasts from the 2021 Fukutoku‐Oka‐no‐Ba eruption, Japan. Island Arc. 31, e12441.
2023年10月2日から8日にかけて,鳥島南西にて4回の地震が観測された.その後,気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」によって伊豆鳥島近海で漂流軽石が採取された.軽石は,4回にわたり,次に示す異なる場所・時刻に採取された①29°15’ N、140°00’ E付近(10月27日12時)、②29°54’ N、139°34’ E付近(10月27日23時)、③29°54’ N、139°32’ E付近(10月28日7時)、④29°02’ N、138°00’ E付近(10月31日9時).このうち,①で採取された軽石は,肉眼で白色を呈し,しばしば角ばった形状をしていた.また,パン皮状の表面をもつものも見られた.これらを,本研究では白色軽石と呼ぶ.白色軽石は,しばしば暗色包有物を含んでいた.一方で,その後の3回の観測で採取された軽石は,肉眼で灰色を呈し,よく円磨されていた.また、これらの軽石には,高頻度で生物遺骸の付着がみられた.これらを,本研究では灰色軽石と呼ぶ.灰色軽石にも,高頻度で暗色包有物が見られた.
採取された白色軽石・灰色軽石について,本研究では,XRFおよびICP-MSによる全岩化学組成分析(産業技術総合研究所,東京大学), EPMA(産業技術総合研究所)による化学組成分析・組織解析を実施した.
白色軽石は,斑晶として主に斜長石,輝石,Fe-Ti酸化物を含んでいた.石基はガラス質であり,わずかにマイクロライトを含んでいた.全岩化学組成・石基ガラスの化学組成は,流紋岩に分類された.全岩の微量元素組成は,伊豆小笠原弧の西に位置する背弧リフト帯の噴出物と類似した特徴を示した.そのため,白色軽石の起源は,伊豆小笠原弧の背弧リフト帯である可能性が高い.また,これらの軽石が観測される前に,火山活動に関連していると考えられる津波が観測されている(Sandanbata et al., 2024; Mizutani and Melgar, 2023).
一方で,灰色軽石は斑晶として主に輝石,斜長石を含んでいた.石基のガラス組成は,トラカイトに分類された.この化学組成は,福徳岡ノ場の噴火で噴出した軽石に特徴的な組成である.加えて,灰色軽石中の暗色包有物の特徴は,Yoshida et al.(2022)で報告されている暗色包有物の特徴と非常に類似していた.したがって,この灰色軽石は,福徳岡ノ場2021年噴火に由来する可能性が高い.
謝辞:本研究で分析に使用したサンプルは,気象庁地震火山部によりご提供頂きました.ここに記して感謝いたします.
参考文献:
Mizutani, A. and Melgar, D. (2023) Potential volcanic origin of the 2023 short-period tsunami in the Izu Islands, Japan. Seismica. 2.Sandanbata, O., Satake, K., Takemura, S., Watada, S., Maeda, T. and Kubota, T. (2024) Enigmatic tsunami waves amplified by repetitive source events near Sofugan volcano, Japan. Geophysical Research Letters. 51, e2023GL106949.
Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Hanyu, T., Usui, Y., Chang, Q. and Ono, S. (2022) Variety of the drift pumice clasts from the 2021 Fukutoku‐Oka‐no‐Ba eruption, Japan. Island Arc. 31, e12441.
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