講演情報
[T12-O-9]伊豆・小笠原弧福徳岡ノ場火山2021年8月噴火に伴う噴出物の運搬・堆積機構
*谷 健一郎1、佐野 貴司1、石塚 治2、及川 輝樹2、鈴木 克明2、片山 肇2、南 宏樹3、長井 雅史4、嶋野 岳人5、中村 美千彦6、浮田 泰成6、前野 深7、水野 樹7、マッキントッシュ アイオナ8、自見 直人9 (1. 国立科学博物館、2. 産業技術総合研究所、3. 海上保安庁、4. 防災科学技術研究所、5. 鹿児島大学、6. 東北大学、7. 東京大学、8. 海洋研究開発機構、9. 名古屋大学)
【ハイライト講演】本講演は,2021年8月に発生した福徳岡ノ場の噴火に関する最新の調査結果を中心にご紹介いただく予定である.2022年に実施された緊急調査の2航海(KS-22-5, -13航海)では,火口近傍での火山堆積物や軽石が採取され,噴火堆積物の分布やマグマシステムが検討されている.さらに,2024年7月に実施された最新の調査航海に関する予察的成果についてもご紹介いただく予定である.(ハイライト講演とは...)
福徳岡ノ場は伊豆小笠原弧南端部に位置する活動的な海底火山であり、2021年8月13日に11年ぶりに噴火しているのが、気象衛星ひまわり8号や海上保安庁航空機の観測から確認された。本噴火では噴煙柱の高度が16 kmと対流圏界面に達し(気象庁火山活動解説資料8月13日13時半発表)、また衛星写真から、噴火開始と同時に海面下に変色域が出現し、その後海面上に軽石が浮上しているのが観察された。さらには15日の航空機観測によって直径約1 kmの新島が誕生し、軽石筏(ラフト)が北西方向に漂流していることが判明した(気象庁火山活動解説資料8月16日14時発表)。噴火は3日間継続し、後半は噴煙柱を伴わないマグマ水蒸気爆発に移行して終息した。島は数か月後に波蝕で消滅したが、軽石ラフトは黒潮反流にのって西に1000 km以上流され、大東諸島や琉球諸島などの南西諸島の島々に続々と漂着し、海運・観光・漁業などに大きな影響を与えた。
本噴火の発生を受けて、我々は福徳岡ノ場の周辺海域において系統的な火山地質調査と試料採集を行うための緊急調査を提案し、2022年に「新青丸」を用いた2航海(KS-22-5, -13航海)を実施した。
KS-22-5航海は2022年4月12日~23日の期間で実施した。2021年8月噴火で放出された軽石・火山灰などの火山砕屑物の特徴・時間変化やその分布域を明らかにするために、Kグラブによる計8回の堆積物採取と夜間航走観測を実施した。Kグラブ採泥は火口の西側海域で実施し、いずれも2021年8月の噴火由来と考えられる火山灰・軽石を採集することに成功した。一部の堆積物は船上で強い硫化水素臭がして、同時に採集された底生生物も熱水環境を好むゴカイ2種とナメクジウオ1種のみしか生息していないことが明らかになった。採泥器に取り付けた深海カメラの映像でも周辺海底は、一面火山灰で覆われており、その他の底生生物は確認されなかった。
KS-22-13航海は2022年8月25日~9月3日の期間で実施した。無人探査機ハイパードルフィン4500を用いて、計4回(第2183潜航~第2186潜航)の潜航調査を実施し、福徳岡ノ場火山近傍とその周辺海底の火山地質調査と岩石・堆積物サンプリング、また同時に底生生物の採集も行うことに成功した。特に第2183潜航では、火口西方18 kmの海底から細粒火山灰と赤色化した軽石を採集した。このエリアは8月13日のPlinian噴火において形成された噴煙柱と傘雲の直下に相当しており、採集試料は本フェーズの堆積物である可能性が高い。夜間は航走観測を実施し、地形・重力・3成分磁気データを取得した。
調査結果と採取試料の分析から得られた概要は下記の通りである:
・噴火前の1999年に海上保安庁が取得した、福徳岡ノ場周辺海域の海底地形データと、噴火後に新青丸KS-22-5, -13航海で取得したデータの差分からは10 mを超えるような大きな地形変化は認められなかった。
・噴火の時系列に対応する可能性が高い、三種類の噴火堆積物(噴火起源密度流堆積物・降下堆積物・軽石ラフトからの沈下堆積物)を海底で発見した。また海底における噴火堆積物の分布域も衛星や航空機から観測された噴煙の流下域と概ね対応していることも明らかになった。
・8月13日のプリニー式噴火で形成した噴煙柱にはマグマ物質が含まれ、西方18 km地点で最大10 cm厚の降下堆積物(高温酸化した軽石を含む)をもたらした。
・採集された火山灰・黒曜石・軽石のガラス組成分析から、2021年噴火にはSiO2量の異なる二種類のトラカイト質マグマが関与し、噴火直前に混合していたことが明らかになった。
本講演では、海底調査から明らかになった2021年8月噴火の噴出物運搬・堆積メカニズムについて報告する。また今年7月に実施予定の福徳岡ノ場での調査航海が実現した際には、その予察的成果についても紹介する。
本噴火の発生を受けて、我々は福徳岡ノ場の周辺海域において系統的な火山地質調査と試料採集を行うための緊急調査を提案し、2022年に「新青丸」を用いた2航海(KS-22-5, -13航海)を実施した。
KS-22-5航海は2022年4月12日~23日の期間で実施した。2021年8月噴火で放出された軽石・火山灰などの火山砕屑物の特徴・時間変化やその分布域を明らかにするために、Kグラブによる計8回の堆積物採取と夜間航走観測を実施した。Kグラブ採泥は火口の西側海域で実施し、いずれも2021年8月の噴火由来と考えられる火山灰・軽石を採集することに成功した。一部の堆積物は船上で強い硫化水素臭がして、同時に採集された底生生物も熱水環境を好むゴカイ2種とナメクジウオ1種のみしか生息していないことが明らかになった。採泥器に取り付けた深海カメラの映像でも周辺海底は、一面火山灰で覆われており、その他の底生生物は確認されなかった。
KS-22-13航海は2022年8月25日~9月3日の期間で実施した。無人探査機ハイパードルフィン4500を用いて、計4回(第2183潜航~第2186潜航)の潜航調査を実施し、福徳岡ノ場火山近傍とその周辺海底の火山地質調査と岩石・堆積物サンプリング、また同時に底生生物の採集も行うことに成功した。特に第2183潜航では、火口西方18 kmの海底から細粒火山灰と赤色化した軽石を採集した。このエリアは8月13日のPlinian噴火において形成された噴煙柱と傘雲の直下に相当しており、採集試料は本フェーズの堆積物である可能性が高い。夜間は航走観測を実施し、地形・重力・3成分磁気データを取得した。
調査結果と採取試料の分析から得られた概要は下記の通りである:
・噴火前の1999年に海上保安庁が取得した、福徳岡ノ場周辺海域の海底地形データと、噴火後に新青丸KS-22-5, -13航海で取得したデータの差分からは10 mを超えるような大きな地形変化は認められなかった。
・噴火の時系列に対応する可能性が高い、三種類の噴火堆積物(噴火起源密度流堆積物・降下堆積物・軽石ラフトからの沈下堆積物)を海底で発見した。また海底における噴火堆積物の分布域も衛星や航空機から観測された噴煙の流下域と概ね対応していることも明らかになった。
・8月13日のプリニー式噴火で形成した噴煙柱にはマグマ物質が含まれ、西方18 km地点で最大10 cm厚の降下堆積物(高温酸化した軽石を含む)をもたらした。
・採集された火山灰・黒曜石・軽石のガラス組成分析から、2021年噴火にはSiO2量の異なる二種類のトラカイト質マグマが関与し、噴火直前に混合していたことが明らかになった。
本講演では、海底調査から明らかになった2021年8月噴火の噴出物運搬・堆積メカニズムについて報告する。また今年7月に実施予定の福徳岡ノ場での調査航海が実現した際には、その予察的成果についても紹介する。
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