講演情報
[T15-O-17]山形県庄内地域に分布する上部鮮新統-下部更新統科沢層から産する大桑-万願寺動物群の特徴種
*瀬戸 大暉1、佐藤 幸廣2、長澤 一雄1 (1. 山形県立博物館、2. 元羽黒高等学校)
キーワード:
大桑-万願寺動物群、中新世型残存種、塩原動物群、日本海、庄内地域
【はじめに】大桑-万願寺動物群は,日本海側を中心に後期鮮新世から前期更新世に繁栄した寒流系の化石動物群である.大桑-万願寺動物群は,北陸から東北地方の新第三系である石川県大桑層や秋田県笹岡層などで数多く報告がされてきた.一方,山形県からの報告は,新庄盆地と庄内地方の一部からと数が少ない(増田・小笠原,1981;佐藤,1990など).本報告では,山形県庄内地域に分布する上部鮮新統-下部更新統科沢層から産出した大桑-万願寺動物群の特徴種について,その意義と中新世型残存種について考察する.
【調査地】調査地は,山形県庄内地域の出羽丘陵を南北に流下する立谷沢川中流域に露出する科沢層である.調査地は,下位から草薙層,楯山層,丸山層および科沢層と層序区分され,これらを月山火山の岩屑流堆積物が不整合に覆っている.科沢層は,主に細粒砂岩や礫岩層からなり,最上部に亜炭層を挟在する.科沢層からは,貝化石や脊椎動物化石が産出することが知られている.
【結果と考察】科沢層からは,これまでに4層準の化石産地から貝類化石89種6160個体が発見されている(佐藤,2000).本発表では,大桑-万願寺動物群が産出した上位層と下位層の2層準の化石産地を扱う.これらの化石産地の産状は,いずれも貝殻が層理に平行に配列し,離弁殻からなることから,浅海からの流れ込みと推定される.産出した大桑-万願寺動物群の特徴種は,Umbonium akitanum,Turritella saishuensis,Fulgoraria masudae,Ophiodermella ogurana,Acila nakazimai,Anadara amicula elongate,Chlamys coshibensis, Mizuhopecten poculum,Yabepecten tokunagai,Clinocardium fastosum,Pseudamiantis tauyensisとなる.また,これらの特徴種は,4産地の中で下位層と上位層で共産する種が異なる.下位層では,主にUmbonium akitanum,Turritella saishuensis,Fulgoraria masudae,Ophiodermella ogurana,Acila nakazimai,Chlamys coshibensisおよびYabepecten tokunagaiが優占して産出し,上位層では,Anadara amicula elongate,Mizuhopecten poculum,Clinocardium fastosumおよびPseudamiantis tauyensisが優占して産出する.群集組成では,下位層は,Limopsis tokaiensisが産出数の約60%と占め,一方,上位層で全く産出しないなどの組成の違いが明らかになった.また,産出数に対する寒冷種の産出数の割合は,下位が13.2%に対し,上位が50.8%と有意に増加している.大桑-万願寺動物群の他に,上位層からは,塩原動物群の特徴種であるLaevicarudium cf. shiobarenseが産出した.本種は,中期-後期中新世に主に東北日本に繁栄した塩原動物群の特徴種であり,中新世型残存種とされている.2層準の化石産地の堆積深度を産出した現生種の生息深度から推定した.2地点はいずれも流れ込みと推定されるため,生息深度の上限深度が最も深い深度を示す種よりも深いと判断した.堆積深度は,下位層が深度150m以深,上位層が100m以深と明らかになった.これらの結果から,2地点の化石産地の群集組成の違いは,流れ込んだ深度と海水温の結果であると推定され,上位層が下位層よりも,浅い堆積深度で寒冷な環境であったと推定される.大桑-万願寺動物群と塩原動物群が共産することは,太平洋側の神奈川県の上部鮮新統中津層群で知られ,日本海側では,秋田県天徳寺層が知られている.しかし,山形県では,これまでに大桑-万願寺動物群と塩原動物群の特徴種が共産した報告はない.上位層は,大桑-万願寺動物群の特徴種であるAnadara amicula elongateなどと塩原動物群の特徴種であるLaevicarudium cf. shiobarenseが共産する山形県初の産地となる.以上から日本海側の山形県~秋田県では,局所的に大桑-万願寺動物群と塩原動物群の残存種が後期鮮新世~前期更新世まで共存していたと推定される.
【引用文献】[1]増田孝一郎・小笠原憲四郎,1981.軟体動物の研究,223-249.[2]佐藤幸廣,1990.庄内地方の羽黒山とその周辺に産する新第三系後期の貝類化石とその堆積環境について.昭和63年度科学研究費補助金(奨励B)実績報告,50-82.[3]佐藤幸廣,2000.立川町史上巻,28-41.
【調査地】調査地は,山形県庄内地域の出羽丘陵を南北に流下する立谷沢川中流域に露出する科沢層である.調査地は,下位から草薙層,楯山層,丸山層および科沢層と層序区分され,これらを月山火山の岩屑流堆積物が不整合に覆っている.科沢層は,主に細粒砂岩や礫岩層からなり,最上部に亜炭層を挟在する.科沢層からは,貝化石や脊椎動物化石が産出することが知られている.
【結果と考察】科沢層からは,これまでに4層準の化石産地から貝類化石89種6160個体が発見されている(佐藤,2000).本発表では,大桑-万願寺動物群が産出した上位層と下位層の2層準の化石産地を扱う.これらの化石産地の産状は,いずれも貝殻が層理に平行に配列し,離弁殻からなることから,浅海からの流れ込みと推定される.産出した大桑-万願寺動物群の特徴種は,Umbonium akitanum,Turritella saishuensis,Fulgoraria masudae,Ophiodermella ogurana,Acila nakazimai,Anadara amicula elongate,Chlamys coshibensis, Mizuhopecten poculum,Yabepecten tokunagai,Clinocardium fastosum,Pseudamiantis tauyensisとなる.また,これらの特徴種は,4産地の中で下位層と上位層で共産する種が異なる.下位層では,主にUmbonium akitanum,Turritella saishuensis,Fulgoraria masudae,Ophiodermella ogurana,Acila nakazimai,Chlamys coshibensisおよびYabepecten tokunagaiが優占して産出し,上位層では,Anadara amicula elongate,Mizuhopecten poculum,Clinocardium fastosumおよびPseudamiantis tauyensisが優占して産出する.群集組成では,下位層は,Limopsis tokaiensisが産出数の約60%と占め,一方,上位層で全く産出しないなどの組成の違いが明らかになった.また,産出数に対する寒冷種の産出数の割合は,下位が13.2%に対し,上位が50.8%と有意に増加している.大桑-万願寺動物群の他に,上位層からは,塩原動物群の特徴種であるLaevicarudium cf. shiobarenseが産出した.本種は,中期-後期中新世に主に東北日本に繁栄した塩原動物群の特徴種であり,中新世型残存種とされている.2層準の化石産地の堆積深度を産出した現生種の生息深度から推定した.2地点はいずれも流れ込みと推定されるため,生息深度の上限深度が最も深い深度を示す種よりも深いと判断した.堆積深度は,下位層が深度150m以深,上位層が100m以深と明らかになった.これらの結果から,2地点の化石産地の群集組成の違いは,流れ込んだ深度と海水温の結果であると推定され,上位層が下位層よりも,浅い堆積深度で寒冷な環境であったと推定される.大桑-万願寺動物群と塩原動物群が共産することは,太平洋側の神奈川県の上部鮮新統中津層群で知られ,日本海側では,秋田県天徳寺層が知られている.しかし,山形県では,これまでに大桑-万願寺動物群と塩原動物群の特徴種が共産した報告はない.上位層は,大桑-万願寺動物群の特徴種であるAnadara amicula elongateなどと塩原動物群の特徴種であるLaevicarudium cf. shiobarenseが共産する山形県初の産地となる.以上から日本海側の山形県~秋田県では,局所的に大桑-万願寺動物群と塩原動物群の残存種が後期鮮新世~前期更新世まで共存していたと推定される.
【引用文献】[1]増田孝一郎・小笠原憲四郎,1981.軟体動物の研究,223-249.[2]佐藤幸廣,1990.庄内地方の羽黒山とその周辺に産する新第三系後期の貝類化石とその堆積環境について.昭和63年度科学研究費補助金(奨励B)実績報告,50-82.[3]佐藤幸廣,2000.立川町史上巻,28-41.
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