講演情報
[T5-P-1]実際の地形と地形変化シミュレーションにより仮想的に作成した地形との比較-その2:地形特徴量の比較-
*川村 淳1、西山 成哲1、小松 哲也1、賈 華2、小泉 由起子2、樺沢 さつき1、中西 利典3、梅田 浩司4 (1. 日本原子力研究開発機構、2. 三菱マテリアルテクノ、3. ふじのくに地球環境史ミュージアム、4. 弘前大学)
キーワード:
地層処分、隆起・侵食、河川下刻、地形変化シミュレーション、地形解析、地形特徴量、流出指標
【背景・目的】
高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全評価では、評価期間が数十万年を超えることから、隆起・侵食等による長期的な地形を含む地表環境の変遷の影響が重要となる。その課題の一つとして、将来において主に河川下刻による地形の変化が地下の地質環境に与える影響について、定量的評価を可能にする必要がある。地質環境条件のうち、地下水の涵養域や流出域の変化は、地表水の地下への浸透または地下水の地表への流出と流向が変化することにもなるため周辺の生活圏や生態系への影響評価などの際に重要となる。涵養域・流出域を評価するためには、降水量や河川流量の実測データを用いて行うのが確実である。しかしながら、過去や将来あるいは地形変化シミュレーションによる仮想の地形を対象とする場合には実測が不可能であるため、地形などの情報から間接的に推定する技術が必要になる。この研究技術の一つとして、「河川流域を対象に数値標高モデルを用いて10項目の地形特徴量を計測したうえで統計量解析手法によって流出量を算定し指標として可視化する手法」(以降、「流出指標」とする)が開発され(景山ほか,2010)、東濃地域で適用され河川流量などの実測データとの整合性について検証されている(竹内ほか,2011)。また、流域面積の大小や隆起速度の異なる安倍川、大井川及び吉井川の3河川への適用も試行し、標高が高い区分流域が集中する領域が高い、すなわち表層水が流れやすい傾向になるという、一般的な理解と整合的な結果をある程度定量的に提示できた(原子力機構・電中研,2024)。ここでは、川村ほか(2024)に続き、地形変化シミュレーションによって作成された仮想地形を対象に同手法を適用し、実際の河川と比較・検討例を報告する。
【実施内容】
地形変化シミュレーションツールとしては、山口ほか(2020)による「地形・処分場深度変遷解析ツール」を選定した。このツールは地形が平板状の状態から隆起速度、侵食パラメータを与えることにより、完全に仮想的な地形を作成できるツールである。この特性により、平坦な沿岸部から隆起により内陸部・山地の地形変化の過程を追跡できる。このツールで作成された地形情報は100mメッシュの数値標高モデルとして出力され、既存のGISソフトウェアで解析が可能である。
【結果】
仮想地形の数値標高モデルから複数本の河川地形を抽出できた。これら河川を対象として、景山ほか(2010)の手法に基づき計測流域区分を実施したのち、主成分分析を実施したうえで流出指標を算定し図上に可視化し、実際の河川地形の解析結果(原子力機構・電中研,2024)と比較した。比較した結果、仮想地形の数値標高モデルが100mメッシュ、実際の河川地形の10mメッシュと地形情報の詳細さに差があるものの、双方とも10項目の地形特徴量のうち地形の険しさの指標となる「流域平均侵食高」、「地形の煩雑さ」、「流域起伏数」の主成分得点の高い区分流域が中~上流部に集中する傾向がみられた。また、流出指標については標高が高い区分流域が集中する領域が高い、すなわち表層水が流れやすい傾向になることが示され、仮想地形は実際の河川と整合的であることが分かった。一方で、地形特徴量のうち「地形の煩雑さ」の主成分の因子負荷量が、実河川の地形では正に対し仮想地形では負になるケースが見られ、この相違については今後の検討課題である。
【今後の展開】
今後は、実際の河川地形及び仮想地形の解析事例を拡大し比較・検討することにより適用性について評価するとともに、ツールを用いてタイムステップ毎の地形解析を実施し、地形発達に伴う流出指標の時間変化について検討する。また、今回見られた違いの原因について検討し、地形変化シミュレーションツール改良へのフィードバックとする。
【参考文献】
景山ほか(2010): 水文・水資源学会誌, vol. 23, pp. 301-311.竹内ほか(2011): JAEA Research 2011-008, 77p.山口ほか(2020): 原子力バックエンド研究, Vol. 27, pp.72-82.原子力機構・電中研(2024): 令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性総合評価技術開発)報告書.川村ほか(2024): JpGU2024, HCG20-P02.
【謝辞】
本報告には経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度及び令和6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部を使用している。
高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全評価では、評価期間が数十万年を超えることから、隆起・侵食等による長期的な地形を含む地表環境の変遷の影響が重要となる。その課題の一つとして、将来において主に河川下刻による地形の変化が地下の地質環境に与える影響について、定量的評価を可能にする必要がある。地質環境条件のうち、地下水の涵養域や流出域の変化は、地表水の地下への浸透または地下水の地表への流出と流向が変化することにもなるため周辺の生活圏や生態系への影響評価などの際に重要となる。涵養域・流出域を評価するためには、降水量や河川流量の実測データを用いて行うのが確実である。しかしながら、過去や将来あるいは地形変化シミュレーションによる仮想の地形を対象とする場合には実測が不可能であるため、地形などの情報から間接的に推定する技術が必要になる。この研究技術の一つとして、「河川流域を対象に数値標高モデルを用いて10項目の地形特徴量を計測したうえで統計量解析手法によって流出量を算定し指標として可視化する手法」(以降、「流出指標」とする)が開発され(景山ほか,2010)、東濃地域で適用され河川流量などの実測データとの整合性について検証されている(竹内ほか,2011)。また、流域面積の大小や隆起速度の異なる安倍川、大井川及び吉井川の3河川への適用も試行し、標高が高い区分流域が集中する領域が高い、すなわち表層水が流れやすい傾向になるという、一般的な理解と整合的な結果をある程度定量的に提示できた(原子力機構・電中研,2024)。ここでは、川村ほか(2024)に続き、地形変化シミュレーションによって作成された仮想地形を対象に同手法を適用し、実際の河川と比較・検討例を報告する。
【実施内容】
地形変化シミュレーションツールとしては、山口ほか(2020)による「地形・処分場深度変遷解析ツール」を選定した。このツールは地形が平板状の状態から隆起速度、侵食パラメータを与えることにより、完全に仮想的な地形を作成できるツールである。この特性により、平坦な沿岸部から隆起により内陸部・山地の地形変化の過程を追跡できる。このツールで作成された地形情報は100mメッシュの数値標高モデルとして出力され、既存のGISソフトウェアで解析が可能である。
【結果】
仮想地形の数値標高モデルから複数本の河川地形を抽出できた。これら河川を対象として、景山ほか(2010)の手法に基づき計測流域区分を実施したのち、主成分分析を実施したうえで流出指標を算定し図上に可視化し、実際の河川地形の解析結果(原子力機構・電中研,2024)と比較した。比較した結果、仮想地形の数値標高モデルが100mメッシュ、実際の河川地形の10mメッシュと地形情報の詳細さに差があるものの、双方とも10項目の地形特徴量のうち地形の険しさの指標となる「流域平均侵食高」、「地形の煩雑さ」、「流域起伏数」の主成分得点の高い区分流域が中~上流部に集中する傾向がみられた。また、流出指標については標高が高い区分流域が集中する領域が高い、すなわち表層水が流れやすい傾向になることが示され、仮想地形は実際の河川と整合的であることが分かった。一方で、地形特徴量のうち「地形の煩雑さ」の主成分の因子負荷量が、実河川の地形では正に対し仮想地形では負になるケースが見られ、この相違については今後の検討課題である。
【今後の展開】
今後は、実際の河川地形及び仮想地形の解析事例を拡大し比較・検討することにより適用性について評価するとともに、ツールを用いてタイムステップ毎の地形解析を実施し、地形発達に伴う流出指標の時間変化について検討する。また、今回見られた違いの原因について検討し、地形変化シミュレーションツール改良へのフィードバックとする。
【参考文献】
景山ほか(2010): 水文・水資源学会誌, vol. 23, pp. 301-311.竹内ほか(2011): JAEA Research 2011-008, 77p.山口ほか(2020): 原子力バックエンド研究, Vol. 27, pp.72-82.原子力機構・電中研(2024): 令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性総合評価技術開発)報告書.川村ほか(2024): JpGU2024, HCG20-P02.
【謝辞】
本報告には経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度及び令和6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部を使用している。
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