講演情報
[T5-P-2]実際の地形と地形変化シミュレーションにより仮想的に作成した地形との比較-その1:河川横断地形の比較-
*西山 成哲1、川村 淳1、小松 哲也1、賈 華2、小泉 由起子2、樺沢 さつき1、中西 利典3、梅田 浩司4 (1. 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2. 三菱マテリアルテクノ株式会社、3. ふじのくに地球環境史ミュージアム、4. 国立大学法人弘前大学大学院理工学研究科)
キーワード:
地層処分、隆起・侵食、河川下刻、地形変化シミュレーション、地形解析
【背景・目的】
高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全評価では、評価期間が数十万年を超えることから、隆起・侵食等による長期的な地形を含む地表環境の変遷の影響が重要となる。その課題の一つとして、遠い将来において河川下刻による地形の変化が地下の地質環境に与える影響について、定量的評価を可能にする必要がある。河川の下刻は、長期的な山地の形成において重要な要素である。著者らはこれまで、日本各地の河川を対象に、GISソフトを用いて河川の横断面形状のデータを収集し、概ね横断面上の比高とその地域の隆起速度の間に相関があることを見出している(川村ほか, 2023;西山ほか, 2024)。しかし、実際の地形を対象とした検討の場合、隆起速度以外の要素が地形変化に影響を及ぼしている可能性があり、隆起速度による河川の下刻の影響を把握することは困難である。
一方で、隆起速度をインプットデータとして地形変化のシミュレーションを可能とするツールが開発されている(山口ほか, 2020)。山口ほか(2020)は、河川による下刻の影響を考慮した地形・処分場深度変遷解析ツールを開発し、将来の処分場の深度変化や核種移行経路への影響の評価に向けた検討を行っている。ここで開発されたツールは、ArcGISのモデルとして構築されており、著者らが実施してきた解析と親和性が高い。
本研究では、隆起速度をインプットデータとしてシミュレーションにより仮想的に作成した地形(以降、仮想地形)から、河川の横断面形状のデータを収集し、実際の地形の河川の横断面データ(西山ほか, 2024)との比較・検討を行った結果を報告する。
【実施内容】
仮想地形の作成には、山口ほか(2020)による「地形・処分場深度変遷解析ツール」を用いた。このツールは地形が平板状の状態から隆起速度、侵食パラメータを与えることにより、完全に仮想的な地形を作成できるツールである。この特性により、地形に影響を与えると考えられる初期地形の影響を除いた地形データをシミュレーションにより出力することが可能であり、河川の下刻により形成される地形をインプットした隆起速度により区別できることが期待できる。このツールで作成された地形情報は100mメッシュの数値標高モデルとして出力され、既存のGISソフトウェアで解析が可能である。
【結果】
仮想地形の数値標高モデルから河川を抽出し、その河川の横断面を取得した。取得した断面データから、断面図上の標高ピークの比高(ピーク比高)を収集し、実際の地形から収集したデータ(西山ほか, 2024)との比較を行った。
比較した結果、仮想地形の数値標高モデルが100mメッシュであり、実際の河川地形の10mメッシュと地形情報の解像度に差があるものの、ピーク比高に関するデータは、隆起速度に応じて高くなる傾向が認められ、実際の地形で得られた傾向と矛盾しない結果となることが分かった。一方で、比高の値については、実際の地形と比較して小さくなる傾向も認められ、仮想地形と実際の地形との間にギャップがあることが確認された。この原因は、実際の地形の形成に影響を与えた要素として、隆起速度以外の要素が含まれるためだと考えられる。また、各断面図上における河床からピーク比高までの水平距離には差が出ることも分かった。
【今後の展開】
今後は、実際の地形および仮想地形の解析事例を拡大して比較・検討することにより適用性について評価する。また、今回見られた実際の地形と仮想地形での解析結果の違いについて、地形形成に影響を与えると考えられる要素を抽出し、どの程度地形変化に影響を与えるかを検討する。
【参考文献】
川村ほか(2023): 日本地質学会第130年学術大会, T14-O-8.
西山ほか(2024): JpGU2024, HCG20-P01.
山口ほか(2020): 原子力バックエンド研究, Vol. 27, pp.72-82.
原子力機構・電中研(2024): 令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性総合評価技術開発)報告書.
【謝辞】
本報告には経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度及び令和6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部を使用している。
高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全評価では、評価期間が数十万年を超えることから、隆起・侵食等による長期的な地形を含む地表環境の変遷の影響が重要となる。その課題の一つとして、遠い将来において河川下刻による地形の変化が地下の地質環境に与える影響について、定量的評価を可能にする必要がある。河川の下刻は、長期的な山地の形成において重要な要素である。著者らはこれまで、日本各地の河川を対象に、GISソフトを用いて河川の横断面形状のデータを収集し、概ね横断面上の比高とその地域の隆起速度の間に相関があることを見出している(川村ほか, 2023;西山ほか, 2024)。しかし、実際の地形を対象とした検討の場合、隆起速度以外の要素が地形変化に影響を及ぼしている可能性があり、隆起速度による河川の下刻の影響を把握することは困難である。
一方で、隆起速度をインプットデータとして地形変化のシミュレーションを可能とするツールが開発されている(山口ほか, 2020)。山口ほか(2020)は、河川による下刻の影響を考慮した地形・処分場深度変遷解析ツールを開発し、将来の処分場の深度変化や核種移行経路への影響の評価に向けた検討を行っている。ここで開発されたツールは、ArcGISのモデルとして構築されており、著者らが実施してきた解析と親和性が高い。
本研究では、隆起速度をインプットデータとしてシミュレーションにより仮想的に作成した地形(以降、仮想地形)から、河川の横断面形状のデータを収集し、実際の地形の河川の横断面データ(西山ほか, 2024)との比較・検討を行った結果を報告する。
【実施内容】
仮想地形の作成には、山口ほか(2020)による「地形・処分場深度変遷解析ツール」を用いた。このツールは地形が平板状の状態から隆起速度、侵食パラメータを与えることにより、完全に仮想的な地形を作成できるツールである。この特性により、地形に影響を与えると考えられる初期地形の影響を除いた地形データをシミュレーションにより出力することが可能であり、河川の下刻により形成される地形をインプットした隆起速度により区別できることが期待できる。このツールで作成された地形情報は100mメッシュの数値標高モデルとして出力され、既存のGISソフトウェアで解析が可能である。
【結果】
仮想地形の数値標高モデルから河川を抽出し、その河川の横断面を取得した。取得した断面データから、断面図上の標高ピークの比高(ピーク比高)を収集し、実際の地形から収集したデータ(西山ほか, 2024)との比較を行った。
比較した結果、仮想地形の数値標高モデルが100mメッシュであり、実際の河川地形の10mメッシュと地形情報の解像度に差があるものの、ピーク比高に関するデータは、隆起速度に応じて高くなる傾向が認められ、実際の地形で得られた傾向と矛盾しない結果となることが分かった。一方で、比高の値については、実際の地形と比較して小さくなる傾向も認められ、仮想地形と実際の地形との間にギャップがあることが確認された。この原因は、実際の地形の形成に影響を与えた要素として、隆起速度以外の要素が含まれるためだと考えられる。また、各断面図上における河床からピーク比高までの水平距離には差が出ることも分かった。
【今後の展開】
今後は、実際の地形および仮想地形の解析事例を拡大して比較・検討することにより適用性について評価する。また、今回見られた実際の地形と仮想地形での解析結果の違いについて、地形形成に影響を与えると考えられる要素を抽出し、どの程度地形変化に影響を与えるかを検討する。
【参考文献】
川村ほか(2023): 日本地質学会第130年学術大会, T14-O-8.
西山ほか(2024): JpGU2024, HCG20-P01.
山口ほか(2020): 原子力バックエンド研究, Vol. 27, pp.72-82.
原子力機構・電中研(2024): 令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性総合評価技術開発)報告書.
【謝辞】
本報告には経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度及び令和6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部を使用している。
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