講演情報

[T5-P-3]吸水・凍結に伴う岩石膨張と内部構造や構成鉱物との関係:下北半島東部に分布する中新統泊層火山砕屑岩の例

溝口 一生2、*飯田 高弘1、谷口 友規1、飯塚 幸子1 (1. 株式会社セレス、2. 電力中央研究所)
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キーワード:

吸水、凍結、岩石膨張、微細構造組織、火山砕屑岩

1.はじめに
 下北半島に位置する原子力発電所敷地内では,第四紀の地層に撓み,膨らみ,膨らみに伴うせん断等の地質構造が報告されている(以降第四系変状と呼ぶ).この第四系変状の成因として,活断層・活構造,あるいは地震に伴う受動変位などテクトニックなイベントが挙げられているが,その変状が基盤岩表層部のみに限定されるなど現地における第四系変状の産状からテクトニック以外の現象により形成された可能性も指摘されている(坂東ほか,2013).そこで我々は,ノンテクトニックな第四系変状の成因として岩石の風化・凍結現象に着目し,基盤岩が吸水や凍結により上方へ膨張することで第四系変状の形成される可能性を検討している.本講演では,大気圧下における変状直下基盤岩試料の吸水や凍結に伴う膨張率の測定結果とともに,X線CT撮影及び画像相関法による岩石試料の内部構造観察,鉱物分析,孔隙分布の結果に基づいて岩石膨張に影響を及ぼす要因を検討した内容を報告する.

2.膨張率測定方法と測定結果
 膨張率の測定には,東北電力の東通発電所に見られた第四系変状の直下に位置する基盤である新第三系中新統の泊層(東北電力,2014)を用いた.発電所敷地内で掘削されたボーリングコアから,海岸部の地下250m の塩水域に位置すると思われる泊層海側新鮮部(14試料),および20m 以深の未風化の泊層陸側新鮮部(2試料),地表付近で風化が進行している泊層陸側風化部(1試料)を選定し,3種類・17試料について実験を行った.選定した試料は,直径70 ㎜高さ50 ㎜程度に整形した後に,以下で示す手順で膨張量の測定を実施した.(1) 乾燥させた試料を純水もしくは人工海水に浸し,真空デシケーターに入れて吸水を促進.(2) 試料を-15 ~ -20 ℃程度に設定した冷蔵庫内で凍結.(3) 試料を冷蔵庫から取り出し,室温の環境下で密封したデシケーター中で解凍.(4) 解凍した試料を60 ℃に設定した乾燥炉で乾燥.膨張量の測定は,試料表面に取り付けたひずみゲージによる測定と,マイクロメータによる寸法測定の2通りの方法で行った.膨張率を測定した結果,①吸水膨張(0.5 ~ 11%)は凍結膨張(0.2 ~ 1.7%)に比べて1桁以上大きい膨張率を示す,②採取場所によらず,間隙率が高い試料(角礫が少ない基質部)ほど高い膨張率を示す,③吸水・凍結による泊層火山砕屑岩の膨張率は試料により1桁以上違いがあることがわかった.数m や数十mスケールで礫と基質の量比が変化に富む中新世の泊層火山砕屑岩では,非常に不均質な吸水や凍結による岩石膨張が生じることが予想される.

3.岩石膨張の要因検討
 試験前後のCT画像を用いた画像相関法による内部ひずみ解析を実施したところ,吸水時と凍結時ともに,試料内の空隙率が高い基質部分で膨張が生じていることがわかった.さらに吸水膨張において,膨張率が高かった基質部分について,粉末X 線回折による鉱物分析や薄片観察,水銀圧入式ポロシメータによる孔隙分布測定を行なった.その結果から,膨張率が高い基質部はスメクタイトに富み,且つ比較的大きな孔隙径を持つことがわかった.以上の結果から,凍結に伴う膨張率は主に空隙率が低い角礫部と間隙率が高い細粒基質の量比から決まる試料全体のバルクの間隙率により決まり,吸水に伴う膨張率は,バルク間隙率に加えて,基質に含まれる粘土鉱物の種類や含有量,基質構成粒子の粒度や空隙径分布,割れ目の産状が密接に関係することが分かった.

謝辞
 本研究は,経済産業省エネルギー資源庁委託事業【原子力発電所の安全性向上に関する事業(「第四系中の変状」の成因に関する基礎的研究)】の一環で実施された.また試験に用いた試料および一部試験データは,東北電力株式会社よりご提供いただいた.感謝申し上げます.

文献
坂東雄一, 三和公, 鳥越祐司, 橋本修一,2013.東通原子力発電所敷地の地質・地質構造 敷地内断層に関する評価の現況,日本原子力学会誌ATOMOΣ,55(11), p. 651-655.
東北電力株式会社,2014.東通原子力発電所敷地内断層の活動性等の評価に係る追加地質調査報告書,https://www.tohoku-epco.co.jp/whats/news/2014/0117/index.html.

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