講演情報
[T5-P-4]岩石中の物質移動の解明に資する鉱物微細組織の三次元的な観察: 土岐花崗岩体のアルカリ長石中の微小孔
*伊藤 大智1、安原 聡1、増子 倫也1、山本 康晶1、小野寺 浩1、湯口 貴史2 (1. 日本電子株式会社、2. 熊本大学)
キーワード:
µCT、SEM、FIB、TEM、花崗岩、長石、微小孔、物質移動
【はじめに】
花崗岩は石油や天然ガスをはじめとする資源の地下貯蔵の場として活用されており,高レベル放射性廃棄物の地層処分の候補岩体としても期待されている.これらの貯蔵物・廃棄物を長期的かつ安定に保存するためには,長期的な安全性の担保が不可欠であり,それには花崗岩内部の物質移動特性の解明が必要である.本報告では花崗岩の主成分鉱物であるアルカリ長石に着目し,その鉱物中に発達する微小孔の三次元的な構造解析を行った.
微小孔は鉱物中の物質移動の経路とされており(Yuguchi et al., 2019),微小孔の三次元的な分布や連結性の評価は花崗岩の物質移動特性の解明に大きく寄与する.測定試料は岐阜県東濃地域に位置する土岐花崗岩体(ホルンブレンド黒雲母花崗岩相)を用いた.
【測定手法】
空間分解能が異なる複数装置を用いた特定の空隙にフォーカスできる三次元的な観察手法を構築した(図1).この観察手法により,各装置で長径が数十µmからサブµmオーダーの微小孔に着目した観察を実施した.
マイクロフォーカスX線CT(µCT)を用いて鉱物粒内の空隙分布測定(図1-a)を行ったのち,SEMによる空隙の形態観察を行った(図1-b,c).SEM観察した空隙に対してFIBによるTEM薄片作製を行い(図1-d),TEMを用いた空隙の周囲の構造解析を実施した(図1-e).
【結果・議論】
・観察事実
空隙分布測定および空隙の構造解析により,アルカリ長石の微小孔どうしは連結性を持たないことが認められた.それに対して,相境界やへき開,格子欠陥,双晶面と微小孔が連結する産状が観察された.
・既往研究
アルカリ長石の母相-マイクロパーサイト相境界やへき開が流体の移動経路として機能することが報告されている(Lee et al., 1995).また,鉱物中の空隙では,流体からの溶質の吸着が起こりやすく,岩石中の物質移動に遅延をもたらすことが報告されている(Möri et al., 2003).
・議論
観察事実と既往研究から,相境界やへき開を経路とし,マトリクス拡散により微小孔に元素が運ばれると,微小孔表面で吸着が生じ,物質移動の遅延が生じることが考えられる.すなわち,本研究のアルカリ長石中の微細組織(微小孔と相境界・へき開)の評価が花崗岩中の物質移動の遅延を解明する上で重要な要素となることを明らかにした.
【結論】
本報告で提案するµCT・SEM・FIB・TEMの様々なオーダーによる微細組織の観察手法は,下記の2点の正確な情報をもたらす.
①アルカリ長石中における微小孔の分布および連結性
②微小孔と相境界・へき開・格子欠陥・双晶面の関連
今後の展望として,花崗岩中でアルカリ長石と同様に主要な鉱物である斜長石や黒雲母への本手法の適用はさらなる花崗岩物質移動特性の解明をもたらすことが期待できる.
【引用文献】
Lee, M.R., Waldron, K.A., Parsons, I. (1995) Exsolution and alteration microtexture in alkali feldspar phenocryst from the Shap granite. Mineralogical Magazine, 59, 63-78.
Möri, A., Mazurek, M., Adler, M., Schild, M., Siegesmund, S., Vollbrecht, A., Ota, K., Ando, T., Alexander, W.R., Smith, P.A., Haag, P., Bühler, Ch. (2003) The Nagra-JNC in situ study of safety relevant radionuclide retardationin fractured crystalline rock IV: The in situ study of matrix porosity in the vicinity of a water conducting fracture. TECHNICAL REPORT NTB 00-08, pp.91.
Yuguchi, T., Shoubuzawa, K., Ogita, Y., Yagi, K., Ishibashi, M., Sasao, E., Nishiyama, T. (2019) Role of micropores, mass transfer, and reaction rate in the hydrothermal alteration process of plagioclase in a granitic pluton. American Mineralogist, 104, 536-556.
花崗岩は石油や天然ガスをはじめとする資源の地下貯蔵の場として活用されており,高レベル放射性廃棄物の地層処分の候補岩体としても期待されている.これらの貯蔵物・廃棄物を長期的かつ安定に保存するためには,長期的な安全性の担保が不可欠であり,それには花崗岩内部の物質移動特性の解明が必要である.本報告では花崗岩の主成分鉱物であるアルカリ長石に着目し,その鉱物中に発達する微小孔の三次元的な構造解析を行った.
微小孔は鉱物中の物質移動の経路とされており(Yuguchi et al., 2019),微小孔の三次元的な分布や連結性の評価は花崗岩の物質移動特性の解明に大きく寄与する.測定試料は岐阜県東濃地域に位置する土岐花崗岩体(ホルンブレンド黒雲母花崗岩相)を用いた.
【測定手法】
空間分解能が異なる複数装置を用いた特定の空隙にフォーカスできる三次元的な観察手法を構築した(図1).この観察手法により,各装置で長径が数十µmからサブµmオーダーの微小孔に着目した観察を実施した.
マイクロフォーカスX線CT(µCT)を用いて鉱物粒内の空隙分布測定(図1-a)を行ったのち,SEMによる空隙の形態観察を行った(図1-b,c).SEM観察した空隙に対してFIBによるTEM薄片作製を行い(図1-d),TEMを用いた空隙の周囲の構造解析を実施した(図1-e).
【結果・議論】
・観察事実
空隙分布測定および空隙の構造解析により,アルカリ長石の微小孔どうしは連結性を持たないことが認められた.それに対して,相境界やへき開,格子欠陥,双晶面と微小孔が連結する産状が観察された.
・既往研究
アルカリ長石の母相-マイクロパーサイト相境界やへき開が流体の移動経路として機能することが報告されている(Lee et al., 1995).また,鉱物中の空隙では,流体からの溶質の吸着が起こりやすく,岩石中の物質移動に遅延をもたらすことが報告されている(Möri et al., 2003).
・議論
観察事実と既往研究から,相境界やへき開を経路とし,マトリクス拡散により微小孔に元素が運ばれると,微小孔表面で吸着が生じ,物質移動の遅延が生じることが考えられる.すなわち,本研究のアルカリ長石中の微細組織(微小孔と相境界・へき開)の評価が花崗岩中の物質移動の遅延を解明する上で重要な要素となることを明らかにした.
【結論】
本報告で提案するµCT・SEM・FIB・TEMの様々なオーダーによる微細組織の観察手法は,下記の2点の正確な情報をもたらす.
①アルカリ長石中における微小孔の分布および連結性
②微小孔と相境界・へき開・格子欠陥・双晶面の関連
今後の展望として,花崗岩中でアルカリ長石と同様に主要な鉱物である斜長石や黒雲母への本手法の適用はさらなる花崗岩物質移動特性の解明をもたらすことが期待できる.
【引用文献】
Lee, M.R., Waldron, K.A., Parsons, I. (1995) Exsolution and alteration microtexture in alkali feldspar phenocryst from the Shap granite. Mineralogical Magazine, 59, 63-78.
Möri, A., Mazurek, M., Adler, M., Schild, M., Siegesmund, S., Vollbrecht, A., Ota, K., Ando, T., Alexander, W.R., Smith, P.A., Haag, P., Bühler, Ch. (2003) The Nagra-JNC in situ study of safety relevant radionuclide retardationin fractured crystalline rock IV: The in situ study of matrix porosity in the vicinity of a water conducting fracture. TECHNICAL REPORT NTB 00-08, pp.91.
Yuguchi, T., Shoubuzawa, K., Ogita, Y., Yagi, K., Ishibashi, M., Sasao, E., Nishiyama, T. (2019) Role of micropores, mass transfer, and reaction rate in the hydrothermal alteration process of plagioclase in a granitic pluton. American Mineralogist, 104, 536-556.
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