講演情報
[T12-P-1]遠州灘海岸東部で見られる漂着軽石の特徴と起源の推定
*青島 晃1、榑松 宏征2、宇都宮 櫂3、馬淵 彩花3、??田 和佳奈4、鈴木 仁緒2、川崎 琉菜2 (1. ふじのくに地球環境史ミュージアム、2. 静岡県立磐田南高等学校、3. 東北大学、4. 筑波大学)
キーワード:
福徳岡ノ場、漂着軽石、遠州灘
1.はじめに
2021年8月中旬に,南硫黄島南方の福徳岡ノ場(FOB)で大噴火が起こった.噴出した軽石は,同年10月中旬に沖縄に漂着し,同年11月には伊豆諸島や伊豆半島,相模湾,千葉県に漂着した(平峰・他,2022;Yoshida et al.,2022;伊藤・他,2022;柴田・他,2023).しかし,遠州灘における漂着は不明である.そこで遠州灘東部の海岸に着目して,FOB軽石の漂着があったのか否か,もし漂着していたとすればそれはいつかを調べ,その特徴や分布,漂着時期を解明し,軽石の漂流・漂着のプロセスを明らかにすることを目的として研究を行った.
2.試料と方法
遠州灘から駿河湾までの16地点で,灰色軽石と白色多孔質軽石を採取した.また,摸式試料として沖縄のFOB軽石と比較した.軽石の鉱物組合せは偏光顕微鏡下で,火山ガラスの屈折率は温度変化型屈折率測定装置で測定した.化学分析は,蛍光X線分析装置で全岩分析,走査型電子顕微鏡で構成鉱物の簡易定量分析を行った.軽石の形状は直交する3軸を測定し,Zingg(1935)による形状分類を行った.円磨度は,Krumbein(1941)の円磨度印象図と比較した.
3.結果と考察
鉱物組成
灰色軽石は,発泡した無色のガラスの石基と単斜輝石,斜長石,かんらん石,ガラスが集合した斑晶からなる.一方,白色多孔質軽石は,よく発泡したガラスの石基と石英や斜長石,黒雲母,角閃石,直方輝石の斑晶が目立つ.
火山ガラスの屈折率
灰色軽石や沖縄のFOB軽石の火山ガラスの屈折率の最頻値は1.510-1.511であるが,白色多孔質軽石は1.497-1.504であり著ししく低く,1.499-1.500と1.501-1.502に2峰性分布を示す.
化学組成
灰色軽石は,粗面岩~粗面安山岩であるが,白色多孔質軽石は デイサイトや流紋岩である.輝石の化学組成は,灰色軽石は鉄に乏しい組成を示すが,白色多孔質軽石はカルシウムに乏しい.
以上より灰色軽石の鉱物組成や火山ガラスの屈折率,化学組成が,伊藤・他(2021)や及川・他(2022),Yoshida et al.(2022)によるFOB軽石とほぼ同一であることから,FOB起源である.一方,白色多孔質軽石は, FOB起源ではなく複数の起源が考えられる.
形状
遠州灘と沖縄のFOB軽石はともに球状を示すが,遠州灘の軽石の方が沖縄の軽石よりも形状の分散が小さい.平均粒径は遠州灘の軽石が沖縄の軽石に比べ小さい.さらに,円磨度の平均値は遠州灘の軽石が沖縄の軽石に比べて大きく円形に近い.以上より,遠州灘のFOB軽石は,海流による長距離運搬の過程で,円磨,破砕され粒径が小さく形状が球形に近くなったと考えられる.
漂着時期
遠州灘のFOB軽石は,2022年3月までの調査では見つからなかったが,2022年5,6月の調査では,多数が採取されたことから,遠州灘海岸へは2022年5月以降に漂着したことが推定される.気象庁(2022)のアメダス御前崎の記録によると,2021年12月~2022年2月では北西寄りの強風であるのに対して,2022年5,6月では南西寄りの風に変化した(図1).また,海上保安庁(2022)の黒潮の御前崎までの主軸距離によると,2021年12月上旬~2022年2月中旬では150㎞以上で遠かったが,2022年2月下旬以降は150㎞以下に近づいた(図2).以上より2021年12月~2022年3月までの遠州灘沿岸では,黒潮までの距離が遠く,冬季の強い北西寄りの季節風を受けて,東西方向に延びる遠州灘海岸への軽石の漂着が抑えられた.しかし,2022年5月になると,黒潮が海岸に接近し風も南西寄りに変化したため,軽石はこの風に押し流されて漂着した.一方,白色多孔質軽石は,2021年12月の調査では見つかっていることから,同年11月以前にすでに漂着していた.
引用文献
平峰・他(2022) 日本地球惑星科学連合発表要旨.
伊藤・他(2021) 千葉県環境研究センター年報.
海上保安庁(2022) 海洋速報.
気象庁(2022) アメダス観測記録.
Krumbein(1941) J. Sed. Petrol.
及川・他(2022) 地質ニュース.
柴田・他(2023) 横須賀博研報.
Yoshida et al.(2022) Isl Arc.
Zingg(1935) Min. Petrog. Mitt. Schweiz.
2021年8月中旬に,南硫黄島南方の福徳岡ノ場(FOB)で大噴火が起こった.噴出した軽石は,同年10月中旬に沖縄に漂着し,同年11月には伊豆諸島や伊豆半島,相模湾,千葉県に漂着した(平峰・他,2022;Yoshida et al.,2022;伊藤・他,2022;柴田・他,2023).しかし,遠州灘における漂着は不明である.そこで遠州灘東部の海岸に着目して,FOB軽石の漂着があったのか否か,もし漂着していたとすればそれはいつかを調べ,その特徴や分布,漂着時期を解明し,軽石の漂流・漂着のプロセスを明らかにすることを目的として研究を行った.
2.試料と方法
遠州灘から駿河湾までの16地点で,灰色軽石と白色多孔質軽石を採取した.また,摸式試料として沖縄のFOB軽石と比較した.軽石の鉱物組合せは偏光顕微鏡下で,火山ガラスの屈折率は温度変化型屈折率測定装置で測定した.化学分析は,蛍光X線分析装置で全岩分析,走査型電子顕微鏡で構成鉱物の簡易定量分析を行った.軽石の形状は直交する3軸を測定し,Zingg(1935)による形状分類を行った.円磨度は,Krumbein(1941)の円磨度印象図と比較した.
3.結果と考察
鉱物組成
灰色軽石は,発泡した無色のガラスの石基と単斜輝石,斜長石,かんらん石,ガラスが集合した斑晶からなる.一方,白色多孔質軽石は,よく発泡したガラスの石基と石英や斜長石,黒雲母,角閃石,直方輝石の斑晶が目立つ.
火山ガラスの屈折率
灰色軽石や沖縄のFOB軽石の火山ガラスの屈折率の最頻値は1.510-1.511であるが,白色多孔質軽石は1.497-1.504であり著ししく低く,1.499-1.500と1.501-1.502に2峰性分布を示す.
化学組成
灰色軽石は,粗面岩~粗面安山岩であるが,白色多孔質軽石は デイサイトや流紋岩である.輝石の化学組成は,灰色軽石は鉄に乏しい組成を示すが,白色多孔質軽石はカルシウムに乏しい.
以上より灰色軽石の鉱物組成や火山ガラスの屈折率,化学組成が,伊藤・他(2021)や及川・他(2022),Yoshida et al.(2022)によるFOB軽石とほぼ同一であることから,FOB起源である.一方,白色多孔質軽石は, FOB起源ではなく複数の起源が考えられる.
形状
遠州灘と沖縄のFOB軽石はともに球状を示すが,遠州灘の軽石の方が沖縄の軽石よりも形状の分散が小さい.平均粒径は遠州灘の軽石が沖縄の軽石に比べ小さい.さらに,円磨度の平均値は遠州灘の軽石が沖縄の軽石に比べて大きく円形に近い.以上より,遠州灘のFOB軽石は,海流による長距離運搬の過程で,円磨,破砕され粒径が小さく形状が球形に近くなったと考えられる.
漂着時期
遠州灘のFOB軽石は,2022年3月までの調査では見つからなかったが,2022年5,6月の調査では,多数が採取されたことから,遠州灘海岸へは2022年5月以降に漂着したことが推定される.気象庁(2022)のアメダス御前崎の記録によると,2021年12月~2022年2月では北西寄りの強風であるのに対して,2022年5,6月では南西寄りの風に変化した(図1).また,海上保安庁(2022)の黒潮の御前崎までの主軸距離によると,2021年12月上旬~2022年2月中旬では150㎞以上で遠かったが,2022年2月下旬以降は150㎞以下に近づいた(図2).以上より2021年12月~2022年3月までの遠州灘沿岸では,黒潮までの距離が遠く,冬季の強い北西寄りの季節風を受けて,東西方向に延びる遠州灘海岸への軽石の漂着が抑えられた.しかし,2022年5月になると,黒潮が海岸に接近し風も南西寄りに変化したため,軽石はこの風に押し流されて漂着した.一方,白色多孔質軽石は,2021年12月の調査では見つかっていることから,同年11月以前にすでに漂着していた.
引用文献
平峰・他(2022) 日本地球惑星科学連合発表要旨.
伊藤・他(2021) 千葉県環境研究センター年報.
海上保安庁(2022) 海洋速報.
気象庁(2022) アメダス観測記録.
Krumbein(1941) J. Sed. Petrol.
及川・他(2022) 地質ニュース.
柴田・他(2023) 横須賀博研報.
Yoshida et al.(2022) Isl Arc.
Zingg(1935) Min. Petrog. Mitt. Schweiz.
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