講演情報

[T12-P-2]2021年福徳岡ノ場噴火以降に起きた軽石漂流現象に関してSNSが果たした役割

*吉田 健太1、丸谷 由2、桑谷 立1 (1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2. 一般社団法人ネコのわくわく自然教室)
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キーワード:

福徳岡ノ場、漂流軽石、硫黄島、SNS

海域火山の噴火によって海洋に放出された浮遊性の軽石は,海流によって広範囲へと漂流・拡散していくことが知られている.そのような軽石漂流現象(pumice rafting)は,世界的に見れば10年に一度程度の頻度で発生しており[1],本邦では2021年8月の福徳岡ノ場の噴火と,同年10月以降に沖縄等で発生した大量漂着が記憶に新しい[2].大規模な軽石の漂流・漂着現象は,船舶の運行に支障をきたし運輸業や漁業に悪影響があるほか,海岸の風景を大きく変えてしまうことで観光業へも被害が出うる火山災害と言える[3].他方,海流によって一群となって移動する軽石は「軽石筏」とも呼ばれ,生物拡散を助ける働きがあるとも言われている[4].
2021年福徳岡ノ場の例では,小笠原から始まった漂流は黒潮反流に乗って2ヶ月で約1000kmを西向きに漂流し,奄美~沖縄の南西諸島各地に漂着,その後黒潮に乗って1ヶ月程度で関東地方へ到達するものと,南方へ流れてフィリピンや台湾へ漂着するものが見られた[2].西川ら[5]が行った日本周辺の主要な海底火山・火山島から放出された軽石の漂流シミュレーションによると,三宅島などの北部伊豆諸島から放出された軽石は黒潮によって太平洋を東向きに拡散していき本州付近への最接近をしにくい一方で,ベヨネース列岩以南の伊豆・小笠原の火山群から放出された軽石は福徳岡ノ場の例同様に沖縄付近を経由して黒潮により西南日本~関東の太平洋沿岸の広い範囲に1年以内に接近する可能性がある.このシミュレーション研究は,日本列島に広く影響を及ぼしうる軽石漂流現象は,沖縄周辺を経由する経路が主要な発生類型となることを示唆している.
2021年の福徳岡ノ場由来軽石の漂着現象は,大規模だったこともあり漂着地域の住民の関心も高く,SNSにより漂着の情報が広く展開された[2,3].沖縄への大量漂着が発生している時期に研究者による調査も行われていたが,限られた数の研究者で広範囲・継続的な観測を行うのは困難である.現代のSNSはほぼリアルタイムで位置や高解像度の写真を共有でき,双方向の情報交換も容易であるため,研究者と漂着地域住民との間で,観測の要点に関する情報交換も可能である.このような性質からSNSは広範囲で同時期に起きている現象に対して市民科学的な観測を展開するうえで適したツールと言える.加えて,漂着軽石の観測はハンマー等も不要で野外調査における危険も少ないため,保護者の監督の下で子どもを参画させるハードルも低い.子どもの関心を刺激するうえでは,観察の要点を教材の形でわかりやすく整理・定着させることが重要となるだろう[6].実際に沖縄の小学生が実施した軽石観察から,給源火山の特徴を示す特異な岩片が見出された例もある[7].
SNSによる軽石漂着現象の追跡が威力を発揮した例がもう一つある.2024年3月以降に沖縄周辺で,福徳岡ノ場由来軽石とは特徴の異なる暗褐色の軽石のまとまった漂着が観測された.この軽石について,福徳岡ノ場の軽石漂着に際して情報交換を行っていた人間を中心に情報交換を行うとともに,軽石の化学組成分析を実施した結果,暗褐色の軽石は2023年10月の硫黄島噴火に由来する可能性があり[8],同年5月以降に関東周辺でも広い範囲で小規模な漂着が見られていることがSNSを通じて判明した.
本講演では,2021年・24年の軽石漂着現象を概説するとともに,それらがSNSでどう認識されていったかを紹介する.また,今後同様の現象が発生した場合に,研究者サイド・地域住民サイドでどういった情報を交換することが現象把握に繋がるのかについても議論したい.
[1] Bryan et al., 2012, 10.1371/journal.pone.0040583; [2] Yoshida et al. 2022, 10.1111/iar.12441; [3] 吉田ほか, 2022, 10.2465/gkk.220412; [4] Jokeil, 1989, 10.1007/BF00541650; [5] Nishikawa et al., 2023, 10.1186/s40645-023-00552-4; [6] 丸谷, 2021 軽石のふしぎ; [7] Yoshida et al., 2024, 10.2465/jmps.231218; [8] https://www.jamstec.go.jp/rimg/j/topics/20240531/

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