講演情報
[T12-P-4]海底噴火で発生した漂流軽石の構造と形態:近年の日本列島周辺の噴火で生産されたものを例に
*及川 輝樹1、石塚 治1、西原 歩2、岩橋 くるみ1 (1. 産総研地質調査総合センター、2. 常葉大学)
キーワード:
水底噴火、軽石、硫黄島、福徳岡ノ場、孀婦海山
漂流軽石を発生させるような噴火は,全球的には数年に一回,日本列島近海でも十数~数十年に一回程度の頻度で起きており, 珍しいことではない(Bryan et al., 2012; 及川ほか,2023).しかし,海底噴火で形成された漂流軽石の形態や構造の特徴についての記載は必ずしも充実していない.地層中に残された軽石が海底噴火で生成された漂流軽石であるかないかを判別するためにも,海底噴火で生産された漂流軽石の特徴の記載は重要であろう.そこで,近年日本列島周辺の海域で発生した漂流軽石の形態や構造の記載を報告する.
福徳岡ノ場2021年及び硫黄島2022~2024年噴火の漂流軽石
福徳岡ノ場2021年8月噴火と硫黄島2022~2024年噴火の漂流軽石について記載する.福徳岡ノ場のものは,8月22日に気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」が採取したものと10月に南西諸島に漂着したもので,硫黄島のものは2022年7月,2023年6月,2024年3月噴火のもので硫黄島南岸の翁浜に漂着したものである.福徳岡ノ場と硫黄島のものは,色や発泡度などには違いがあるが,形態や内部構造は共通した特徴が認められる.軽石の表面は平滑でなくもこもことした凹凸のある形状をなし,凹んだ部分に沿って網目状にクラックが発達している.最外縁の厚さ約5㎜以下の部分はガラス質の急冷縁となっており気泡も少ない.ガラス質の急冷縁の下の厚さ数cmほどの間は,径1mm以下の丸い気泡が密集したスポンジ状の構造をなすが,それより径の大きく細長く引き伸ばされた形態の気泡も存在する.そのさらに内側は,中心部に向かって気泡径が増大し,中心部には径1cmを超える気泡も含まれる.なお,基の外形を保っていると判断される軽石の特徴を記している.両火山の漂流軽石とも粗面岩の組成を示す.福徳岡ノ場の漂流軽石のみかけ密度は0.3~0.6g/cm3である.
鳥島近海2023年の漂流軽石
2023年10月9日に鳥島近海(気象庁震央地名の定義)の孀婦海山付近を起源とする顕著な地震を伴わない津波が発生し日本列島南側の広い範囲に到達した.その後,それに関連すると考えられる新しい海底噴火の痕跡が孀婦海山で見つかり,津波と海底火山の噴火の関連性が議論されている.この津波の後,10月27日に鳥島近海で「啓風丸」が,背弧側の噴火で新たに形成されたと考えられる漂流軽石を採取した.採取された白色軽石のうち一番大きなものは,パン皮状の表皮をもつ岩塊が割れた形状している.パン皮状の割れ目がある部分は比較的平滑な面を構成している.またパン皮状クラックは開いており,割れ目に沿って内側に 2cm 程度の長さで伸びた冷却クラックが認められる.パン皮の表面は顕著な急冷ガラス縁は認められないが,表面から数㎜程度の厚さ部分はやや緻密になっている.白色軽石は,全体的に細かくよく発泡し細かい気泡が全体に認められるが,まばらに大きな気泡も含まれ,それは一方向に引き伸ばされた形状を示す.なお,表面から内部にかけて気泡の形態や密度,大きさなどの違いは顕著に変化しない.流紋岩の組成を示し,みかけ密度は0.3~0.7g/cm3である.
まとめ
福徳岡ノ場や硫黄島の漂流軽石は,山岸(1994)の水冷火山弾や他の水底噴火で形成された漂流軽石の特徴(Jutzeler et al., 2020)と一致する.そのため,同様の構造が認められた場合は,水底噴火起源の火砕物である可能性が高い.一方,鳥島近海で採取された軽石はパン皮状の形態をするが,同様の漂流軽石は,薩摩硫黄島沖で発生した昭和硫黄島1934~1935年噴火でも発生している(田中館,1935).このような形態状違いが生じた原因を明らかにするために,今後さらに記載事例を増やして海底噴火で生産される漂流軽石の特徴を明らかにしてく必要があろう.
謝辞:気象庁地震火山部には,気象観測船「啓風丸」で採取されたサンプルを観察・分析する機会をあたえていただいた.硫黄島のサンプルは,気象庁火山監視警報センターの手操佳子さんおよび関晋さんに採取していただいたものである.ここに記して感謝いたします.
文献:Bryan et al. (2012) PLOS ONE, 7, e40583., Jutzeler et al. (2020) Geophysical Research Letters, 47, e1701121., 及川ほか(2023)火山,68, 171-187., 田中舘(1935)岩石鉱物鉱床学,13,283-288., 山岸(1994)水中火山岩.北海道大大学出版会,208p.
福徳岡ノ場2021年及び硫黄島2022~2024年噴火の漂流軽石
福徳岡ノ場2021年8月噴火と硫黄島2022~2024年噴火の漂流軽石について記載する.福徳岡ノ場のものは,8月22日に気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」が採取したものと10月に南西諸島に漂着したもので,硫黄島のものは2022年7月,2023年6月,2024年3月噴火のもので硫黄島南岸の翁浜に漂着したものである.福徳岡ノ場と硫黄島のものは,色や発泡度などには違いがあるが,形態や内部構造は共通した特徴が認められる.軽石の表面は平滑でなくもこもことした凹凸のある形状をなし,凹んだ部分に沿って網目状にクラックが発達している.最外縁の厚さ約5㎜以下の部分はガラス質の急冷縁となっており気泡も少ない.ガラス質の急冷縁の下の厚さ数cmほどの間は,径1mm以下の丸い気泡が密集したスポンジ状の構造をなすが,それより径の大きく細長く引き伸ばされた形態の気泡も存在する.そのさらに内側は,中心部に向かって気泡径が増大し,中心部には径1cmを超える気泡も含まれる.なお,基の外形を保っていると判断される軽石の特徴を記している.両火山の漂流軽石とも粗面岩の組成を示す.福徳岡ノ場の漂流軽石のみかけ密度は0.3~0.6g/cm3である.
鳥島近海2023年の漂流軽石
2023年10月9日に鳥島近海(気象庁震央地名の定義)の孀婦海山付近を起源とする顕著な地震を伴わない津波が発生し日本列島南側の広い範囲に到達した.その後,それに関連すると考えられる新しい海底噴火の痕跡が孀婦海山で見つかり,津波と海底火山の噴火の関連性が議論されている.この津波の後,10月27日に鳥島近海で「啓風丸」が,背弧側の噴火で新たに形成されたと考えられる漂流軽石を採取した.採取された白色軽石のうち一番大きなものは,パン皮状の表皮をもつ岩塊が割れた形状している.パン皮状の割れ目がある部分は比較的平滑な面を構成している.またパン皮状クラックは開いており,割れ目に沿って内側に 2cm 程度の長さで伸びた冷却クラックが認められる.パン皮の表面は顕著な急冷ガラス縁は認められないが,表面から数㎜程度の厚さ部分はやや緻密になっている.白色軽石は,全体的に細かくよく発泡し細かい気泡が全体に認められるが,まばらに大きな気泡も含まれ,それは一方向に引き伸ばされた形状を示す.なお,表面から内部にかけて気泡の形態や密度,大きさなどの違いは顕著に変化しない.流紋岩の組成を示し,みかけ密度は0.3~0.7g/cm3である.
まとめ
福徳岡ノ場や硫黄島の漂流軽石は,山岸(1994)の水冷火山弾や他の水底噴火で形成された漂流軽石の特徴(Jutzeler et al., 2020)と一致する.そのため,同様の構造が認められた場合は,水底噴火起源の火砕物である可能性が高い.一方,鳥島近海で採取された軽石はパン皮状の形態をするが,同様の漂流軽石は,薩摩硫黄島沖で発生した昭和硫黄島1934~1935年噴火でも発生している(田中館,1935).このような形態状違いが生じた原因を明らかにするために,今後さらに記載事例を増やして海底噴火で生産される漂流軽石の特徴を明らかにしてく必要があろう.
謝辞:気象庁地震火山部には,気象観測船「啓風丸」で採取されたサンプルを観察・分析する機会をあたえていただいた.硫黄島のサンプルは,気象庁火山監視警報センターの手操佳子さんおよび関晋さんに採取していただいたものである.ここに記して感謝いたします.
文献:Bryan et al. (2012) PLOS ONE, 7, e40583., Jutzeler et al. (2020) Geophysical Research Letters, 47, e1701121., 及川ほか(2023)火山,68, 171-187., 田中舘(1935)岩石鉱物鉱床学,13,283-288., 山岸(1994)水中火山岩.北海道大大学出版会,208p.
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