講演情報
[T13-P-15]ウチュアズリII洞窟(ハタイ,トルコ)におけるメンテナンスの堆積物の層相と微細構造
*石原 与四郎1、森本 直記2、森田 航3、İsmail BAYKARA4 (1. 福岡大学理学部、2. 京都大学理学部、3. 国立科学博物館、4. ガジアンテップ大学)
キーワード:
洞窟遺跡、人為的堆積物、ウチュアズリ洞窟、微細形態、堆積相
洞窟は,化石や遺物,堆積物をよく保存することで知られる.一方で洞窟の入口付近は,しばしば動物やヒトが利用し,堆積物を様々な形で乱すことも知られている.特にヒトが洞窟を利用する形態は,居住地,墓など様々であり,特に居住地として利用した場合には,整地やメンテナンスなどの堆積物が生じることがあるとされる.
Üçağızlı II Cave Siteは,トルコ南部,ハタイ県の地中海に面した中期旧石器時代の洞窟遺跡である.本遺跡では厚く塊状の堆積物が認められ,石器,動物骨,軟体動物の殻など豊富な遺物や化石を産出するほか,U-Th年代に基づき,75,000年前以降から21,500~24,200年前までにこれらの堆積物や遺物が形成されたと考えられている(Baykara et al., 2015).本洞窟のある場所はレバント地域の最北部にあたり,中期旧石器時代後期の文化的変化と人類集団の相互作用を理解する上で重要な遺跡である. 発掘は,北北東-南南西および西南西-東北東方向の割れ目に沿って,形成されたL字型の谷の海抜5 mほどにある海食台と崖面との境界付近に認められる洞窟(Chamber A~D)のうち,Chamber D(海抜12 ~ 13 m)で行われている.Chamber群は,割れ目に沿って形成された谷の基部に分布していることや,谷の中,壁面や床面には落盤堆積物が認められることなどから,これらはかつてひとつの洞窟であったと考えられている.Chamber内および谷の側面に認められる堆積物は,上位のA層からD層に区分されており,D層は海浜堆積物,B,C層が遺物や化石,灰などのヒトの痕跡を多く含む層,A層が表土にあたる.このうち,B層は120 cmと厚く,便宜上上部と下部に分けられる.堆積物は主として昆虫によって生物擾乱を受けている(Baykara et al., 2015).
本研究では,Üçağızlı II Cave Siteの調査を行い,地形の3次元計測や堆積物の再検討を行っている.現地では許可を得た上でChamber Dのトレンチの西壁のB層(層厚約50 cm)においてブロック試料の採取を行った.採取した試料は国立科学博物館のマイクロフォーカスX線CTで内部構造を可視化した後,微細形態観察用に樹脂で包埋し,一部について薄片試料を作成した.
トレンチの西壁の露頭において,B層はほぼ塊状で化石や遺物を多く含むが,表層部を中心に固結が進んでおり,一部を除いて粒子配列等の構造を現地で認識することが難しい.一方,X線CT画像では,洞窟の奥側に向かって数度ほど傾斜する粒子が多い層準,直立した粒子を含む層準,ほぼ水平に配列する層準などが認められた.粒子の傾斜方向は,洞窟の入口から奥方向で,わずかに認められるB層中の構造と調和的である.また,粒子の一部はその縁に細粒なコーティングが認められる場合も認められる.堆積物内には立体的な構造のパイプ状の脈が可視化された.
堆積物のスラブおよび薄片においては,B層最上部から20 cmほどを境に基質の色調や含まれる石灰岩片の量が異なること,微細な骨片や石器片,焼土片,灰の粒子などが確認されたほか,直径数mmの穴が確認された.一部の粒子はX線CT画像で認められたのと同様に,薄いコーティングが覆うことがある.基質は上位から下位にかけての変化は少なく,茶褐色を呈し,基本的には基質支持である. B層は,遺物や化石などを多く含むほか,特定の層準には燃焼に伴う灰の層が認められることから,ヒトの活動の証拠となる重要な地層である.一方で,その堆積過程は必ずしも良くわかっていなかった.塊状で基質支持であること,粒子配列がいくつかの層準で認められること,傾斜が緩いことなどからは,これらがChamber Dよりも外側にあったと考えられる生活場所のメンテナンスの過程(廃棄作業)で洞奥にもたらされたことが示唆される.しばしば水平な粒子配列をなすことや層準によって含まれる粒子がことなることからは,メンテナンスによる廃棄は複数回に渡って繰り返し行われた可能性が高い.一方で明瞭な生活面は,Baykara et al.(2015)による炉跡の痕跡しか認められず,不連続面・侵食面等も確認できない.したがって,これらのプロセスが比較的短期間に行われたのか,あるいは長期間にわたって行われたのかは現時点では不明である.
本研究を実施するにあたり,京都大学SPIRITS(#A15190500003),科研費(#19KK0188),住友財団基礎科学研究助成(#210652),JST創発的研究支援事業(#JSTJFR21467169)を利用した.
文献:Baykara et al., 2015, Journal of Archaeological Science, 4, 409-426.
Üçağızlı II Cave Siteは,トルコ南部,ハタイ県の地中海に面した中期旧石器時代の洞窟遺跡である.本遺跡では厚く塊状の堆積物が認められ,石器,動物骨,軟体動物の殻など豊富な遺物や化石を産出するほか,U-Th年代に基づき,75,000年前以降から21,500~24,200年前までにこれらの堆積物や遺物が形成されたと考えられている(Baykara et al., 2015).本洞窟のある場所はレバント地域の最北部にあたり,中期旧石器時代後期の文化的変化と人類集団の相互作用を理解する上で重要な遺跡である. 発掘は,北北東-南南西および西南西-東北東方向の割れ目に沿って,形成されたL字型の谷の海抜5 mほどにある海食台と崖面との境界付近に認められる洞窟(Chamber A~D)のうち,Chamber D(海抜12 ~ 13 m)で行われている.Chamber群は,割れ目に沿って形成された谷の基部に分布していることや,谷の中,壁面や床面には落盤堆積物が認められることなどから,これらはかつてひとつの洞窟であったと考えられている.Chamber内および谷の側面に認められる堆積物は,上位のA層からD層に区分されており,D層は海浜堆積物,B,C層が遺物や化石,灰などのヒトの痕跡を多く含む層,A層が表土にあたる.このうち,B層は120 cmと厚く,便宜上上部と下部に分けられる.堆積物は主として昆虫によって生物擾乱を受けている(Baykara et al., 2015).
本研究では,Üçağızlı II Cave Siteの調査を行い,地形の3次元計測や堆積物の再検討を行っている.現地では許可を得た上でChamber Dのトレンチの西壁のB層(層厚約50 cm)においてブロック試料の採取を行った.採取した試料は国立科学博物館のマイクロフォーカスX線CTで内部構造を可視化した後,微細形態観察用に樹脂で包埋し,一部について薄片試料を作成した.
トレンチの西壁の露頭において,B層はほぼ塊状で化石や遺物を多く含むが,表層部を中心に固結が進んでおり,一部を除いて粒子配列等の構造を現地で認識することが難しい.一方,X線CT画像では,洞窟の奥側に向かって数度ほど傾斜する粒子が多い層準,直立した粒子を含む層準,ほぼ水平に配列する層準などが認められた.粒子の傾斜方向は,洞窟の入口から奥方向で,わずかに認められるB層中の構造と調和的である.また,粒子の一部はその縁に細粒なコーティングが認められる場合も認められる.堆積物内には立体的な構造のパイプ状の脈が可視化された.
堆積物のスラブおよび薄片においては,B層最上部から20 cmほどを境に基質の色調や含まれる石灰岩片の量が異なること,微細な骨片や石器片,焼土片,灰の粒子などが確認されたほか,直径数mmの穴が確認された.一部の粒子はX線CT画像で認められたのと同様に,薄いコーティングが覆うことがある.基質は上位から下位にかけての変化は少なく,茶褐色を呈し,基本的には基質支持である. B層は,遺物や化石などを多く含むほか,特定の層準には燃焼に伴う灰の層が認められることから,ヒトの活動の証拠となる重要な地層である.一方で,その堆積過程は必ずしも良くわかっていなかった.塊状で基質支持であること,粒子配列がいくつかの層準で認められること,傾斜が緩いことなどからは,これらがChamber Dよりも外側にあったと考えられる生活場所のメンテナンスの過程(廃棄作業)で洞奥にもたらされたことが示唆される.しばしば水平な粒子配列をなすことや層準によって含まれる粒子がことなることからは,メンテナンスによる廃棄は複数回に渡って繰り返し行われた可能性が高い.一方で明瞭な生活面は,Baykara et al.(2015)による炉跡の痕跡しか認められず,不連続面・侵食面等も確認できない.したがって,これらのプロセスが比較的短期間に行われたのか,あるいは長期間にわたって行われたのかは現時点では不明である.
本研究を実施するにあたり,京都大学SPIRITS(#A15190500003),科研費(#19KK0188),住友財団基礎科学研究助成(#210652),JST創発的研究支援事業(#JSTJFR21467169)を利用した.
文献:Baykara et al., 2015, Journal of Archaeological Science, 4, 409-426.
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