講演情報
[T13-P-16]久米島・下地原洞穴遺跡の絶滅シカ化石包含層の形成過程
*佐藤 碧海1、石原 与四郎2、澤浦 亮平3、藤田 祐樹4、砂川 暁洸5 (1. 福岡大学大学院、2. 福岡大学、3. 沖縄県立博物館・美術館、4. 国立科学博物館、5. 久米島博物館)
キーワード:
久米島、洞窟遺跡、旧石器時代、堆積過程、微細形態、リュウキュウジカ
石灰岩洞窟の堆積物は,絶滅動物を含む脊椎動物化石を多く産出することが知られている(Gillieson,2021).これは石灰岩洞窟では方解石に対して過飽和な地下水が供給されやすいことや,離水した洞窟では水流等からの侵食から取りのこされやすいこと一因があると考えられている.沖縄諸島以南の琉球列島では,更新世のサンゴ礁性堆積物からなる琉球層群中の琉球石灰岩層が広く分布しており,化石化した動物骨だけではなく,旧石器人骨なども発見されている(Fujita et al.,2016;沖縄県立埋蔵文化財センター編,2017a,b,2019;沖縄県立博物館・美術館編,2018).
久米島は沖縄本島の西方約90 kmに位置する.下地原洞穴の全長は約185 m,洞幅は平均約10 m,天井高は約8 mで2つの洞口をもつ(長谷川・佐倉,1983).本洞窟では,長谷川・佐倉(1983)や大城(2001)によって絶滅種であるリュウキュウジカや旧石器時代の乳児の人骨なども発見されてきたが,それらを含む地層の堆積過程は明らかになっていない.発表者らは,2022~2024年に上記のシカ化石等産出区画周辺域に新たにTP1~TP3の区画を設け,発掘を行った.特にTP2からはリュウキュウジカの化石6個体分以上の化石が発見された(澤浦ほか,2023).本研究では,洞窟の壁面の溶食形態等を記載し,古水文環境の推定を行った.また,堆積物の分布や層序,形成過程を明らかにするため,TP2を中心とした堆積物の採取を行い,微細形態学的検討をおこなった.微細形態の観察には定方位試料を用いた.また,TP2の東壁と北壁では,はぎとり試料の作成および観察をおこなった.
TP2の堆積物は未固結の砂やシルトを主体とする.本研究では,層相や連続性に基づき,上位から0層~Vc層に区分した.0層は現代の攪乱層で,よく攪拌された地層である.I層は植物片を主体とする灰層で,ピット周辺を含む洞内の表層部分では全域で連続的に分布する.II層は2層に細分され,IIa層は石灰質粒子まじりの細粒砂層で,グアノ層を覆うように分布するのに対し,IIb層は石灰質まじりの粗粒砂層で,斜交層理が見られる.III層も2層に細分され,IIIa層は,赤褐色のシルト質粘土層で,侵食により不連続的かつ下層の割れ目中に分布するのに対し,IIIb層は茶色の細粒砂層で,乾燥等による割れ目が認められる.IV層は,鉄・マンガン染色のある砂質シルト層で,下層の乾燥割れ目に脈状に落ち込むのが観察される.V層は3層に区分され,Va層は,鉄・マンガン染色のある砂質シルト層で,割れ目に堆積するのに対し,Vb層は,砂質シルト層で,マンガンを含み不連続的に分布する.Vc層は,シルト質のシカ化石包含層である.シカ周辺は比較的柔らかい堆積物で,シカ包含層は黒色の堆積物に囲まれている.堆積物の層相からは,堆積物のほとんどが静水中や流入する水流によって形成され,しばしば乾燥化してスランプや割れ目が生じたものであることがわかった.すなわち,(1)水中でできた洞窟が離水し落盤が生じる,(2)洪水・増水等により堆積物が流入・堆積,(3)乾燥化に伴ってスランプや割れ目が生じる,(4)土壌中の間隙水のpHの変化によって,鉄・マンガン酸化物による堆積物の染色が起こるといった,プロセスが生じており,特に(2),(3),(4)が繰り返されたと考えられる.このうち,絶滅シカ化石は,外部から流入した洪水あるいは増水による堆積物に含まれており,乾燥化によって生じた割れ目等に入り込んだものと見られる.本研究の一部には,科研費基盤研究(A)(22H00027)を利用した.
文献:Fujita,M. et al., 2016, PNAS,113; Gillieson, 2021,Caves: processes, development, and management, 2nd ed., 508, Wiley Blackwell; 長谷川・佐倉,1983,科学朝日,5,52-53.; 沖縄県立博物館・美術館編,2018,沖縄県南城市サキタリ洞遺跡発掘調査報告書I.227; 沖縄県立埋蔵文化財センター編,2017a,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書85,135; 沖縄県立埋蔵文化財センター編,2017b,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書86,200; 沖縄県立埋蔵文化財センター編,2019,白保竿根田原洞穴遺跡-重要遺跡範囲確認調査報告書III(補遺編).沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書100,125; 大城逸郎,2001,野原朝秀教授退官記念論文集刊行会編,野原朝秀教授退官記念論文集,37-136; 澤浦ほか,2023,日本人類学会大会プログラム・抄録集(Web),77,69.
久米島は沖縄本島の西方約90 kmに位置する.下地原洞穴の全長は約185 m,洞幅は平均約10 m,天井高は約8 mで2つの洞口をもつ(長谷川・佐倉,1983).本洞窟では,長谷川・佐倉(1983)や大城(2001)によって絶滅種であるリュウキュウジカや旧石器時代の乳児の人骨なども発見されてきたが,それらを含む地層の堆積過程は明らかになっていない.発表者らは,2022~2024年に上記のシカ化石等産出区画周辺域に新たにTP1~TP3の区画を設け,発掘を行った.特にTP2からはリュウキュウジカの化石6個体分以上の化石が発見された(澤浦ほか,2023).本研究では,洞窟の壁面の溶食形態等を記載し,古水文環境の推定を行った.また,堆積物の分布や層序,形成過程を明らかにするため,TP2を中心とした堆積物の採取を行い,微細形態学的検討をおこなった.微細形態の観察には定方位試料を用いた.また,TP2の東壁と北壁では,はぎとり試料の作成および観察をおこなった.
TP2の堆積物は未固結の砂やシルトを主体とする.本研究では,層相や連続性に基づき,上位から0層~Vc層に区分した.0層は現代の攪乱層で,よく攪拌された地層である.I層は植物片を主体とする灰層で,ピット周辺を含む洞内の表層部分では全域で連続的に分布する.II層は2層に細分され,IIa層は石灰質粒子まじりの細粒砂層で,グアノ層を覆うように分布するのに対し,IIb層は石灰質まじりの粗粒砂層で,斜交層理が見られる.III層も2層に細分され,IIIa層は,赤褐色のシルト質粘土層で,侵食により不連続的かつ下層の割れ目中に分布するのに対し,IIIb層は茶色の細粒砂層で,乾燥等による割れ目が認められる.IV層は,鉄・マンガン染色のある砂質シルト層で,下層の乾燥割れ目に脈状に落ち込むのが観察される.V層は3層に区分され,Va層は,鉄・マンガン染色のある砂質シルト層で,割れ目に堆積するのに対し,Vb層は,砂質シルト層で,マンガンを含み不連続的に分布する.Vc層は,シルト質のシカ化石包含層である.シカ周辺は比較的柔らかい堆積物で,シカ包含層は黒色の堆積物に囲まれている.堆積物の層相からは,堆積物のほとんどが静水中や流入する水流によって形成され,しばしば乾燥化してスランプや割れ目が生じたものであることがわかった.すなわち,(1)水中でできた洞窟が離水し落盤が生じる,(2)洪水・増水等により堆積物が流入・堆積,(3)乾燥化に伴ってスランプや割れ目が生じる,(4)土壌中の間隙水のpHの変化によって,鉄・マンガン酸化物による堆積物の染色が起こるといった,プロセスが生じており,特に(2),(3),(4)が繰り返されたと考えられる.このうち,絶滅シカ化石は,外部から流入した洪水あるいは増水による堆積物に含まれており,乾燥化によって生じた割れ目等に入り込んだものと見られる.本研究の一部には,科研費基盤研究(A)(22H00027)を利用した.
文献:Fujita,M. et al., 2016, PNAS,113; Gillieson, 2021,Caves: processes, development, and management, 2nd ed., 508, Wiley Blackwell; 長谷川・佐倉,1983,科学朝日,5,52-53.; 沖縄県立博物館・美術館編,2018,沖縄県南城市サキタリ洞遺跡発掘調査報告書I.227; 沖縄県立埋蔵文化財センター編,2017a,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書85,135; 沖縄県立埋蔵文化財センター編,2017b,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書86,200; 沖縄県立埋蔵文化財センター編,2019,白保竿根田原洞穴遺跡-重要遺跡範囲確認調査報告書III(補遺編).沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書100,125; 大城逸郎,2001,野原朝秀教授退官記念論文集刊行会編,野原朝秀教授退官記念論文集,37-136; 澤浦ほか,2023,日本人類学会大会プログラム・抄録集(Web),77,69.
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