講演情報
[T13-P-17]サイクリックステップを形成する混濁流のシミュレーションと水路実験の比較
石渡 千博1、岩崎 理樹2、*横川 美和1 (1. 大阪工業大学、2. 北海道大学)
キーワード:
サイクリックステップ、混濁流、シミュレーション、水路実験
混濁流は地球表層の土砂移動現象の中で最も土砂移動量が多い事が知られており,その性質や土砂輸送の結果生じる地形や堆積物の特徴を知ることが重要である.しかし,混濁流の現地観測は難しく,水路実験やシミュレーションで研究されることが多い.シミュレーションに関しては,流れに関するものは多く開発されているが,その結果生じる地形や堆積物の特徴を調べるものはまだ少ない.本研究は,北海道大学で開発された混濁流のシミュレーションソフトを用いてサイクリックステップを形成する混濁流のシミュレーションを行い,大阪工業大学での水路実験の結果と比較を行った.
本研究では,iRICソフトウェア(たとえば,Shimizu et al.,2020)で混濁流シミュレーションモジュールを用いたシミュレーションを行い,その結果についてParaViewというソフトウェアで堆積物の可視化や粒度分布の測定を行った.実験データは,大阪工業大学での先行研究である,藤田・森(2018)と福岡・永野・松波(2022)の条件を使った.実験とシミュレーションで,(a)流れのヘッドの移動速度,(b)地形,(c)粒度分布の3つを比較した.それぞれの条件は以下の通りである.(1)内部水路の傾斜5.5度,1回の混濁流の流量3.67Lで140回.(2)(1)の水路条件で,1回の混濁流の流量5.03Lで100回.(3)内部水路の傾斜を7度+上流側に7度のスロープを付設.1回の混濁流の流量17.7Lで141回.
実験結果とシミュレーションの結果の比較から,以下のことがわかった.(a)ヘッドの移動速度は,いずれも,シミュレーションの方が速かった.(1)では,最大で約20cm/s実験よりも速い.(2)では最大で25cm/s実験よりも速いところがあったが、実験の流速を下回るところもあった.(3)では,最大で40cm/s実験よりも速い.(b)地形.(1)は上流端の形は少し異なるが,ほぼ同様の地形.(2)も上流端の地形が異なったが,ステップのでき方は類似していた.ステップの数は3つあり,実験よりも若干下流側に出来た.(3)ではステップの形成位置がかなり異なり,実験では3m付近であったものがシミュレーションでは6m付近に形成された.(c)地形表面の中央粒径.(1)は,実験では下流に向かうほど中央粒径が大きくなった(下流粗粒化)が,シミュレーションでは下流細粒化を示した.(2)では,ステップの上流側と下流側それぞれを調べたところ,どのステップでも上流側の中央粒径が大きかった.また水路全体では,実験と同様に下流細粒化が見られた.(3)では,中央粒径はどの場所も同じような数値になったが,実験とは異なりわずかに下流細粒化が見られた.(d)条件(3)について,鉛直方向の中央粒径の変化を比較した.底面から上方へ粗粒化する傾向は実験と同じパターンが再現されたが,表面近くで急激に上方細粒化するパターンは再現できなかった.
以上の結果から流量が少ない(1)(2)の条件では,シミュレーションは実験結果と類似しているが,流量が多い条件(3)では,流れの再現性が落ちることがわかった.また,粒度分布については,水路実験で見られた中央粒径の下流粗粒化は,シミュレーションでは見られないことがわかった.本研究により,本シミュレーションで堆積物内部の粒度分布も再現できることがわかった.今後の課題として,流量が多い場合でも計算ができるように,また地形の発達について,シミュレーションを改善する必要がある.
引用文献:
福岡篤生・永野蓮・松波和真,2022,サイクリックステップを形成する混濁流の特性と粒度分布についての実験的研究,2021年度大阪工業大学卒業論文,51pp.
藤田和典・森勇,2018,サージ的混濁流によって形成されるサイクリックステップに関する研究,2017年度大阪工業大学卒業論文,65pp.
Shimizu, Y.,Jonathan, N.,Kattia, A.F.,Asahi, K.,Giri, S.,Inoue, T.,Iwasaki, T.,Chang-L.J.,Taeun, K.,Kimura, I.,Kyuka, T.,Jagriti, M.,Mohamed, N.,Supapap, P. and Yamaguchi, S.,2020,Advances in computational morphodynamics using the International River Interface Cooperative (iRIC) software,Earth Surf. Process. Landforms,Vol. 45,11–37 (2020), DOI: 10.1002/esp.4653
本研究では,iRICソフトウェア(たとえば,Shimizu et al.,2020)で混濁流シミュレーションモジュールを用いたシミュレーションを行い,その結果についてParaViewというソフトウェアで堆積物の可視化や粒度分布の測定を行った.実験データは,大阪工業大学での先行研究である,藤田・森(2018)と福岡・永野・松波(2022)の条件を使った.実験とシミュレーションで,(a)流れのヘッドの移動速度,(b)地形,(c)粒度分布の3つを比較した.それぞれの条件は以下の通りである.(1)内部水路の傾斜5.5度,1回の混濁流の流量3.67Lで140回.(2)(1)の水路条件で,1回の混濁流の流量5.03Lで100回.(3)内部水路の傾斜を7度+上流側に7度のスロープを付設.1回の混濁流の流量17.7Lで141回.
実験結果とシミュレーションの結果の比較から,以下のことがわかった.(a)ヘッドの移動速度は,いずれも,シミュレーションの方が速かった.(1)では,最大で約20cm/s実験よりも速い.(2)では最大で25cm/s実験よりも速いところがあったが、実験の流速を下回るところもあった.(3)では,最大で40cm/s実験よりも速い.(b)地形.(1)は上流端の形は少し異なるが,ほぼ同様の地形.(2)も上流端の地形が異なったが,ステップのでき方は類似していた.ステップの数は3つあり,実験よりも若干下流側に出来た.(3)ではステップの形成位置がかなり異なり,実験では3m付近であったものがシミュレーションでは6m付近に形成された.(c)地形表面の中央粒径.(1)は,実験では下流に向かうほど中央粒径が大きくなった(下流粗粒化)が,シミュレーションでは下流細粒化を示した.(2)では,ステップの上流側と下流側それぞれを調べたところ,どのステップでも上流側の中央粒径が大きかった.また水路全体では,実験と同様に下流細粒化が見られた.(3)では,中央粒径はどの場所も同じような数値になったが,実験とは異なりわずかに下流細粒化が見られた.(d)条件(3)について,鉛直方向の中央粒径の変化を比較した.底面から上方へ粗粒化する傾向は実験と同じパターンが再現されたが,表面近くで急激に上方細粒化するパターンは再現できなかった.
以上の結果から流量が少ない(1)(2)の条件では,シミュレーションは実験結果と類似しているが,流量が多い条件(3)では,流れの再現性が落ちることがわかった.また,粒度分布については,水路実験で見られた中央粒径の下流粗粒化は,シミュレーションでは見られないことがわかった.本研究により,本シミュレーションで堆積物内部の粒度分布も再現できることがわかった.今後の課題として,流量が多い場合でも計算ができるように,また地形の発達について,シミュレーションを改善する必要がある.
引用文献:
福岡篤生・永野蓮・松波和真,2022,サイクリックステップを形成する混濁流の特性と粒度分布についての実験的研究,2021年度大阪工業大学卒業論文,51pp.
藤田和典・森勇,2018,サージ的混濁流によって形成されるサイクリックステップに関する研究,2017年度大阪工業大学卒業論文,65pp.
Shimizu, Y.,Jonathan, N.,Kattia, A.F.,Asahi, K.,Giri, S.,Inoue, T.,Iwasaki, T.,Chang-L.J.,Taeun, K.,Kimura, I.,Kyuka, T.,Jagriti, M.,Mohamed, N.,Supapap, P. and Yamaguchi, S.,2020,Advances in computational morphodynamics using the International River Interface Cooperative (iRIC) software,Earth Surf. Process. Landforms,Vol. 45,11–37 (2020), DOI: 10.1002/esp.4653
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