講演情報
[T13-P-18]固結した砂岩研磨断面画像からの粒子抽出手法の比較検討
*長門 巧1、成瀬 元1 (1. 京都大学大学院理学研究科)
キーワード:
粒子配列、機械学習、畳み込みニューラルネットワーク
砂岩などの堆積岩を構成する粒子の大きさや形状,配列は,地層が形成された当時の環境を復元する上で重要な役割を果たすことが知られている.砕屑物の粒径や形状,粒子配列は,堆積岩を形成した流れの強さや方向を推定するために役立つ.また,粒子の組成は供給源の推測にも用いられる.さらに,堆積岩の間隙率は,地層中の水分や化石燃料の貯留量を見積もるために利用されている.このように,堆積岩の粒子部と基質部の微細組織を解明することは,地質学的な研究や現在の社会にも影響を与えるメリットがある.
固結した試料の堆積岩組織(粒径・粒子配列)を測定するため,既存研究では露頭の採取試料から作成した薄片の顕微鏡画像やX線CT画像などの人為的トレース画像が用いられてきた(Hiscott & Middleton (1980)など).これらの手法は正確なデータが得られる一方で,ごく狭い(~1 cm2)領域の情報しか得られず,大量の手作業を伴うため労力が大きい.そのため,大量の試料を観察して分析する場合には適していない.
そのため,固結・未固結の状態を問わず,堆積岩試料の組織観察に必要な処理の自動化・半自動化が試みられてきた.例えば,Francus (1998)やNaruse and Masuda (2006)は,未固結な堆積物や実験堆積物の薄片画像や反射電子像の輝度に対して閾値を設定し,粒子部と基質部を二値化した.また,宮田(2017)は,スプレーを塗布した剥ぎ取り試料のスキャン画像に対して同様の輝度閾値による二値化処理を行い,広範囲の粒子配列や粒度分布を比較的簡便に分析している.一方,Starkey and Samantaray(1993)や向里・太田(2020)はCanny法(Canny, 1986)と呼ばれる輪郭抽出の手法を応用し,薄片画像や現世の砕屑物の形状を半自動的かつ高精度に測定することに成功している.
上述した二値化処理やCanny法は,粒子部と基質部との色がはっきりと分かれている試料の場合,非常に強力な手法である.しかし,固結した堆積岩の場合は,間隙や基質部に着色できないうえに,粒子と基質の色の差異が小さいことが多い.さらに,複数の鉱物種から構成され,構成粒子の色が多様であるような場合は,薄片画像や断面画像の輝度が単峰性を示し,二値化処理がうまく適用できないことがある.
そこで,本研究では畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による堆積岩断面画像中の粒子自動抽出法を開発し,既存の手法との精度の比較を行った.奥田ほか(2024)はCNN画像認識(セマンティックセグメンテーション)モデルを応用した粒子判別手法を提案した.本研究は,この研究手法を発展させ,CNNモデルの構造としてSegNetではなくより新しいResUNet (Diakogiannis, et al., 2020)を採用した.観察対象とした試料は,上部白亜系和泉層群の灘層で採取した粗粒砂岩である.採取した砂岩試料を切断したのち,研磨した断面をデスクトップスキャナー(EPSON製,GT-X700)でスキャンして画像を取得した.スキャン画像の解像度は4,800 dpiとした.スキャン後,Adobe製のPhotoshopを使用して断面画像に観察される粒子をトレースし,粒子部を黒色に,基質部を白色に塗り分けた.スキャン画像とトレース画像の組み合わせを8セット作成し,教師データとしてCNNに入力して学習させた.学習の結果,CNNモデルが出力した粒子判別画像と,トレース画像との一致度を表すDice係数は0.8程度と高い値を示した.
固結した砂岩試料の断面画像に対する粒子の抽出方法の精度を調べるため,新たに用意した灘層の断面画像に対して(1)小領域ごとに閾値を計算する適応的二値化処理,(2)Canny法,(3)学習済みCNNモデルをそれぞれ適用し,人為的にトレース画像との比較をおこなった(図1).適応的二値化処理およびCNNモデルによって処理した画像については,白色のノイズを減らし,粒子同士が連結してしまった部分を切り離すためのopening処理を複数回おこなった後に,粒子部に相当する各黒色部の面積を算出した.Canny法による画像では粒子の輪郭が出力されているため,opening処理を一度おこない連結した部分を切り離し,各輪郭に対する近似楕円の面積を算出した.この手順をテスト用画像10セット分おこない,各テスト画像に含まれる粒子について面積加重平均粒径を算出した.
正解として用意した人為的トレース画像の面積加重平均粒径とそれぞれの手法で得られた結果を比較する二乗平均平方根誤差(RMSE)は,(1)適応的二値化処理で1.957,(2)Canny法で2.427,(3)CNNモデルの場合で0.591という値であった.この結果は,今回テストしたような粒子部と基質部との色の差が小さい砂岩研磨断面のスキャン画像の場合,CNNモデルによる粒子の抽出が最も有効であることを示している. 参考文献Hiscott and Middleton (1980) Journal of Sedimentary Research, 50, p. 703-721.Francus (1998) Sedimentary Geology, 121, p. 289-298.Naruse and Masuda (2006) Journal of Sedimentary Research, 76, p. 854-865.宮田 (2017) 日本地質学会第124年学術大会講演要旨.Starkey and Samantaray (1993) Journal of Microscopy, 172, p. 263-266.向里 ・ 太田 (2020) 堆積学研究, 78, p. 91-100.Canny (1986) IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, 8, p. 679-698.奥田ほか (2024) 堆積学研究, 82, p. 3-26.Diakogiannis, et al. (2020) ISPRS Journal of Photogrammetry and Remote Sensing, 162, p. 94-114.
固結した試料の堆積岩組織(粒径・粒子配列)を測定するため,既存研究では露頭の採取試料から作成した薄片の顕微鏡画像やX線CT画像などの人為的トレース画像が用いられてきた(Hiscott & Middleton (1980)など).これらの手法は正確なデータが得られる一方で,ごく狭い(~1 cm2)領域の情報しか得られず,大量の手作業を伴うため労力が大きい.そのため,大量の試料を観察して分析する場合には適していない.
そのため,固結・未固結の状態を問わず,堆積岩試料の組織観察に必要な処理の自動化・半自動化が試みられてきた.例えば,Francus (1998)やNaruse and Masuda (2006)は,未固結な堆積物や実験堆積物の薄片画像や反射電子像の輝度に対して閾値を設定し,粒子部と基質部を二値化した.また,宮田(2017)は,スプレーを塗布した剥ぎ取り試料のスキャン画像に対して同様の輝度閾値による二値化処理を行い,広範囲の粒子配列や粒度分布を比較的簡便に分析している.一方,Starkey and Samantaray(1993)や向里・太田(2020)はCanny法(Canny, 1986)と呼ばれる輪郭抽出の手法を応用し,薄片画像や現世の砕屑物の形状を半自動的かつ高精度に測定することに成功している.
上述した二値化処理やCanny法は,粒子部と基質部との色がはっきりと分かれている試料の場合,非常に強力な手法である.しかし,固結した堆積岩の場合は,間隙や基質部に着色できないうえに,粒子と基質の色の差異が小さいことが多い.さらに,複数の鉱物種から構成され,構成粒子の色が多様であるような場合は,薄片画像や断面画像の輝度が単峰性を示し,二値化処理がうまく適用できないことがある.
そこで,本研究では畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による堆積岩断面画像中の粒子自動抽出法を開発し,既存の手法との精度の比較を行った.奥田ほか(2024)はCNN画像認識(セマンティックセグメンテーション)モデルを応用した粒子判別手法を提案した.本研究は,この研究手法を発展させ,CNNモデルの構造としてSegNetではなくより新しいResUNet (Diakogiannis, et al., 2020)を採用した.観察対象とした試料は,上部白亜系和泉層群の灘層で採取した粗粒砂岩である.採取した砂岩試料を切断したのち,研磨した断面をデスクトップスキャナー(EPSON製,GT-X700)でスキャンして画像を取得した.スキャン画像の解像度は4,800 dpiとした.スキャン後,Adobe製のPhotoshopを使用して断面画像に観察される粒子をトレースし,粒子部を黒色に,基質部を白色に塗り分けた.スキャン画像とトレース画像の組み合わせを8セット作成し,教師データとしてCNNに入力して学習させた.学習の結果,CNNモデルが出力した粒子判別画像と,トレース画像との一致度を表すDice係数は0.8程度と高い値を示した.
固結した砂岩試料の断面画像に対する粒子の抽出方法の精度を調べるため,新たに用意した灘層の断面画像に対して(1)小領域ごとに閾値を計算する適応的二値化処理,(2)Canny法,(3)学習済みCNNモデルをそれぞれ適用し,人為的にトレース画像との比較をおこなった(図1).適応的二値化処理およびCNNモデルによって処理した画像については,白色のノイズを減らし,粒子同士が連結してしまった部分を切り離すためのopening処理を複数回おこなった後に,粒子部に相当する各黒色部の面積を算出した.Canny法による画像では粒子の輪郭が出力されているため,opening処理を一度おこない連結した部分を切り離し,各輪郭に対する近似楕円の面積を算出した.この手順をテスト用画像10セット分おこない,各テスト画像に含まれる粒子について面積加重平均粒径を算出した.
正解として用意した人為的トレース画像の面積加重平均粒径とそれぞれの手法で得られた結果を比較する二乗平均平方根誤差(RMSE)は,(1)適応的二値化処理で1.957,(2)Canny法で2.427,(3)CNNモデルの場合で0.591という値であった.この結果は,今回テストしたような粒子部と基質部との色の差が小さい砂岩研磨断面のスキャン画像の場合,CNNモデルによる粒子の抽出が最も有効であることを示している. 参考文献Hiscott and Middleton (1980) Journal of Sedimentary Research, 50, p. 703-721.Francus (1998) Sedimentary Geology, 121, p. 289-298.Naruse and Masuda (2006) Journal of Sedimentary Research, 76, p. 854-865.宮田 (2017) 日本地質学会第124年学術大会講演要旨.Starkey and Samantaray (1993) Journal of Microscopy, 172, p. 263-266.向里 ・ 太田 (2020) 堆積学研究, 78, p. 91-100.Canny (1986) IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, 8, p. 679-698.奥田ほか (2024) 堆積学研究, 82, p. 3-26.Diakogiannis, et al. (2020) ISPRS Journal of Photogrammetry and Remote Sensing, 162, p. 94-114.
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン